軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

診断結果と新たなスライム

「おっと、こんな話をする時ではなかった」

テイラー支部長は手元の表に目を落とした。

「リョウマ君は確か、1000匹以上のスライムを飼っていたな」

「そうです」

「契約が容易なスライムとはいえ、その数はかなり多い。少々時間がかかりそうな予感がする。そろそろ始めようか」

「よろしくお願いします」

そういえば、普通の人はどのくらいの魔獣と契約できるのだろうか?

「私が知る中で最も多くの魔獣と契約していた者は、300匹ほどの“チェインバグ”を飼っていたが、そこまで行かずとも20匹程度の魔獣と契約していれば、従魔が多いと言っても文句は出ないだろう。スライムは普通そう何匹も契約する魔獣ではないからわからんな。だがどんな種類の従魔でも1000を超えたという話は聞かん」

となるとやはり、俺の従魔の数は規格外なのだろう。

ふとした疑問も解消され、改めて診断を始める。

「ふむ……なるほどな」

診断を始めて2時間。

たった2時間の間に無数の魔獣と契約を試みた。

鳥型の魔獣だけでもスズメ、鷲、フクロウ等。種類を変えて何度も契約と解除の繰り返し。

それを虫でも魚でも、哺乳類でも爬虫類でもひたすらに繰り返した。

そして、契約はことごとく成功。契約できない魔獣は今のところいない。

ただし契約はできたものの、スライムと比べてうまく命令が届いていないような感覚の魔獣は多い。

そういう魔獣はなかなか言うことを聞いてくれないので、やはり得手不得手はあるようだ。

問題はその法則性が分からない事。魔獣の名前と姿は契約の合間に聞けたけれど、俺にはその生態に関する知識が乏しかった。この辺で見かけない魔獣になると疑問だらけ。しかし支部長は目星をつけられたようだ。

「リョウマ君は“群れを作る習性を持つ魔獣”と相性が良さそうだ」

「群れですか」

「おそらくは。君が相性が良いと判断した魔獣を比べてみると、その傾向が見て取れる。リムールバードも群れで活動する魔獣であるし、スライムはおそらく君の研究成果が関連しているのだろう。別の可能性をあげるならば、“多産”。群れほどではないが、共通する魔獣が多い。

ひとつずつ説明してあげたいところではあるが、そうすると時間がかかりすぎる。魔獣の本を紹介するので、詳しいことはそれを読んでもらいたい。購入してもいいし、ギルドの資料室内でなら無料で読める。魔獣の知識は冒険者の仕事でも役に立つはずだ」

「ありがとうございます」

後は自力で勉強だな。

しかし、“群れを形成する魔獣”か……どうしてそんな条件になったんだろう?

「そのあたりは個人の資質や考え方に起因すると言われている。……要ははっきりとしたことはわかっておらん。それが君の個性、くらいに考えておくといい。大切なのはどんな条件かではなく、その条件を知って、“これからどうするか”だ。今後活動の幅を広げるならば、その目的と相性のいい魔獣を探してみてはどうかね?」

「今後……移動の足に使える魔獣に興味がありますね」

以前メタルスライムを車輪にした自転車を考えたことがある。しかし彼らは自重を使って転がり移動しているので、俺を乗せると動けなくなるので意味がなかった。乗るだけならばヒュージスライム状態にすれば可能だが、目立つので移動手段としては使えない。

大抵の事はなんとかできるスライム達も、残念ながら移動手段にはならなかった。

というか、それを補うのが俺の役割でもあった。

しかし、

「先日一緒に仕事をした冒険者の方から勧めていただいて、少し興味が出てきていたんです。冒険者ギルドで盗賊討伐の許可も出たこともあって、今後は活動範囲が広がるかもしれませんし」

「なるほどな。移動であれば基本は馬系の魔獣だ。乗ってよし、馬車を引かせてもよし、群れる習性もあるので相性は良かろう。従魔術で意思疎通ができれば御者の負担も幾分軽減できる」

その他、1日の移動距離を稼ぎたければ持久力に秀でる種類を選ぶなど、積荷や移動距離によっても選択肢は増えるとのこと。

従魔術師は魔獣をよく知り、その長所をいかに活かし、短所をいかに補うかが重要であるとテイラー支部長から教えていただいた。

新しい従魔を手に入れるにしても、まずは勉強をしてからにすべきだろう。

少し話しすぎただろうか? ギルドの建物を出る頃には、日が傾き始めていた。

しかし、それだけの価値はあった。

適性が分かった事だけでなく、多くの魔獣を見たことで、今後の活動に役立ちそうなスライムの使い方も思いついた。

店の様子を確認して、今日は帰ることにしよう。

……そして店に顔を出すと、

「店長、ちょうどいいところに」

珍しく何かがあったようだ。

執務室で待っていると、カルムさんが見慣れない木箱を運んでくる。

「これは?」

「中身はスライムの上位種です、おそらく店長が飼っていない種類の」

「スライム?」

それは興味を惹かれる。でもなぜここに?

「先ほど持ち込まれました。この町から鉱山までの道で見つけたそうです。以前にどこかでスライムを買い取ったことがありませんでしたか?」

「ブラッディースライムは冒険者の方から買いましたね」

「それをどこかで耳にしていたらしいのです。それでたまたま見つけたスライムをお金に換えようと持ち込まれたそうで。

突然でしたが、これまで店長と働いていて見かけない種類でしたし、おそらく店長は欲しがると考え、買い取りに応じました」

「気を回してくださってありがとうございます。嬉しいです。おいくらですか?」

「1000スートですね」

えっ、そんなに安く?

「スライムですから。魔法も使えないようですし、よそならもっと買い叩かれるでしょう。そもそも買い手がつくかもわかりませんし、持ち込まれた方もその額で大喜びでしたよ」

「そうなんですか」

ならいいか。

「今後の事ですが、またこのようなことがあった場合、買い取りは行いますか?」

「皆さんの負担にならなければ、是非お願いしたいです」

「かしこまりました。ではスライムを持ち込まれた方は奥に通して交渉することにいたします。あとで店長が飼っているスライムのリストをいただけますか? 買い取りや値段の参考にしますので」

「もちろんです」

その程度、お安い御用だ。

「それからもう一点、修道女のベルさんからの伝言があります。教会で飼っているスライムの体から草が生え、子供達が病気かと心配しているそうで、時間がある時に一度確認に来てもらいたいとのことです」

「体調が悪そうなのですか?」

「いえ、そのような事はないそうです。ただ草が生えてきたと」

「なら進化じゃないかな……わかりました。この後すぐに見に行きます」

こうして俺は、帰りに教会へ寄っていくことを決めた。

ただし、まずは箱の中のスライムを確認だ。連絡事項がもうないことを確認して、そっと木箱の蓋を開ける。中には……

「……石?」

何の変哲もない拳大の石ころがひとつ。一瞬騙されたかと不安になったが、カルムさんが確かめもせずに買うとは思えない。とりあえず万が一にも逃げないうちに、

「『従魔契約』」

魔法を使うとちゃんと契約できた。魔獣であることは間違いない。

さらに魔獣鑑定。

“ストーンスライム”

スキル 硬化Lv2 物理攻撃耐性Lv2 消化Lv3 吸収Lv3 分裂Lv3 擬態Lv10

確かにスライムだ。スキルはメタルやアイアンに近い。ただその二種にはない擬態スキルを持っている。しかも格別にレベルが高い。……擬態はブラッディーが動かなければ血だまりにしか見えないのと同じか。こっちは見た目完全に石ころだけど……と言うかよく見つけたな、その人。

「同僚とうまくいかず、イラついていてたまたま蹴り飛ばしたそうです。地面に落ちた石が、動き出したので驚いたと言っていました」

「運がいい人ですね」

このスライムの食事はまず間違いなく“石”だろう。石によって好みの違いはあるのか、それが重要だ。それは色々なところで石を拾って確かめるとして、このスライムには何ができるだろうか……

「店長、私は失礼いたします」

「あっ、はい。ありがとうございました」

仕事に戻るカルムさんを見送って、俺は暫く、ストーンスライムについて思考を巡らせた。