軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10.悪役姫は、姉のピンチに駆けつける。

「とは言ったものの、どうしようかしら?」

人の流れに逆らって舞台上の高台に駆け上がったアリアは、標的である魔獣を眼下に捉える。

大人しく従順で儚い美姫が実は大剣片手に乱入してくるとんでもないジャジャ馬で、小説のヒーローである聖剣の皇太子の立場を脅かすなんてギャップを通り越してもはやただの詐欺だ。

きっと、これでロイは完全に私に幻滅するはずとアリアは意気込む。

そのためにもアリアとしてはなるべく派手に荊姫として白虎を討伐し、ロイの見せ場を奪いたい。

奪いたい、のだが。

「うわぁぁあ、ロイ様やっぱりカッコいい。ただの剣であそこまで白虎と渡りあえるなんて、鬼強じゃん。はぁぁぁあ、戦場で初めて出会った日のことを思い出すわぁ〜」

白虎の攻撃をひらりひらりとかわしつつ、ただの剣で応戦するロイの真剣な眼差しにアリアは見惚れる。

ほぅっと頬に手を当てため息をついてロイを見つめるアリアのその横顔は、どう見ても恋する乙女のそれだ。

「はぁ、眼福」

魔剣を片手に持ったアリアはうっとりとそう口にする。

ロイは知らない。彼が初めてアリアに会ったのが婚約式の日より遥か前である事も、戦場でロイに見惚れたアリアが密かに彼に想いを寄せていた事も。

そんな彼から求婚されたのは、運命だと思ったのだ。そして、2回目の人生で読者として小説を読んだ今、その"運命"は自分のモノではなかったとアリアは知ってしまった。

「ああ、もう少し見ていたい……けど。悪役は、そろそろ退場しましょうかね」

初恋は、決して実らない。

なら、それを刈り取るのはこの手でやりたい。アリアがぐっと魔剣を握りしめ決意した時、

「いやっー、こ、来ないで」

ロイが戦っている白虎とは真逆、アリアの後方で聞き覚えのある声がした。

アリアは声の主を見つけ、目を見開く。

「お姉……様っ!!」

アリアの目に映ったのはもう一匹の大型の狼の姿をした魔獣、フェンリルだった。その身体にも紫色の紋様が浮かび、眼は紅く怪しい光を放っている。

そのフェンリルが今まさにアリアの姉、フレデリカに襲い掛かろうとしていた。

どうして、と思うより早くアリアは地を蹴って風を切るように駆け出していた。

フェンリルの牙がフレデリカに届くより早く、振り翳したアリアの魔剣がフェンリルの牙を捉える。

キーーン。

牙と剣が交わる硬質な音が辺りに響き渡り、己の死を覚悟し目を閉じていたフレデリカはそっと薄目を開ける。

アリアとは違う空色をしたその瞳には、日の光を受け神々しく輝くシャンパンゴールドの髪と棘のある蔦を纏う大剣を振り翳す背中が見えた。

「ご無事ですか、お姉様。遅くなって申し訳ありません」

振り返る事なくアリアはそう声をかける。

「ア、アリアっ!!」

フレデリカはかっこいい妹の登場にほっとしたように、彼女の名を呼ぶ。

「お気を確かに。すぐ片付けますので」

そう言ったアリアは対峙するフェンリルを睨みつける。

フェンリルはうぅぅーっと唸り声を上げながら、なお襲い掛かろうと牙を剥く。

久しぶりに振るう剣の重さと獲物とぶつかり合う音にアリアは歓喜しながら、それでも頭の片隅で"何故"と疑問が過ぎる。

1回目の人生の時は、魔獣は一匹で襲われたのは逃げ遅れたアリアだった。

ここは小説には描かれていないシーンだ。だからこそ自由度が高く、ロイに嫌われるような行動を起こせば離縁に一気持っていけると思っていた。

確かに過去とは違う行動を取っているし、自身の魔剣まで解放した。

だが、何故魔獣の数まで増えた?

この過去との相違をどう解釈するべきかと一瞬アリアの意識がそれた瞬間、魔剣が鋭い爪で弾き飛ばされた。

「しまっ」

そう思った時には地面にたたきつけられ、フェンリルに踏みつけられていた。

「っつ」

みしみしと容赦なく力をくわえられ骨がきしむ。

「アリアっ!!」

踏みつけられたアリアの後ろでフレデリカがそう叫ぶ。

アリアはチッと舌打ちし、自身の肩を踏みつけるフェンリルの足を睨みつける。

「……痛いじゃない、ワンコ風情が」

ウオォォォ----。

雄叫びと共にアリアを踏みつけたままフェンリルの紅い目がフレデリカを捉える。

ターゲットを変えたらしいと悟ったアリアは無理矢理肩を引き抜き、フェンリルの胴を蹴り上げると、

「うちのお姉様に手を出そうだなんて、とんだワンコもいたものね。伏せーーーー!!!!」

近距離からそう叫んだ。

アリアの声に驚いたように、フェンリルは怯む。その隙をついて魔剣を手に取ったアリアは一瞬でフェンリルの首を掻っ切って倒してしまった。

フェンリルを倒した返り血でアリアのドレスと魔剣が紅く染まる。荊姫の名の所以通り、そのトゲのある蔦を纏ったその大剣にまるで深紅の薔薇が咲き誇る様だった。