軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2  よく考えて行動してくださいませ

離婚協議書をエマオが作成している間に、リミアリアは自室に戻り荷造りを始めることにした。

彼女の荷物はそう多くない。実家から持ってきたものばかりで、ここに来て買った私物はひとつもなかった。

彼女の部屋には、ベッドや書物机に本棚、あとはドレッサーだけで、日常生活に必要なものしか置かれていない。

他に何か家具を置けば、部屋の中を歩く場所がなくなってしまう程に狭い部屋だ。ベッドの横は少しスペースがあるので、メイドたちと横に並んで家を出て行く準備を始める。

ベッドの上に茶色のトランクケースを置き、メイドたちと流れ作業で荷造りをしていると、フラワがやって来た。

部屋の中は定員オーバーで、入る隙間はない。

リミアリアの部屋が思った以上に狭いことに満足しながら、フラワは廊下からリミアリアに話しかけた。

「ごめんなさい、リミアリア。私のせいで追い出されてしまうわね。でも、あなたが悪いのよ」

「お姉様、私は今とても忙しいのでお相手できません」

リミアリアは満面の笑みでそう応えると、扉のすぐ近くで作業をしているメイドに話しかけた。

「悪いけど、気が散るから扉を閉めてくれない?」

「承知いたしました」

メイドは作業の手を止めて、扉の前に立った。そして、困惑した様子のフラワに微笑みかけると、扉を静かに閉めて鍵をかけて片付けに戻る。

「は? え、ちょっと! まだ話の途中なんだけど⁉」

しばしの沈黙の後、フラワは文句を言いながら扉を叩いたが、リミアリアたちはそれを無視し、談笑しながら荷造りを進めた。

しかし、どれだけ無視されても、フラワは諦めなかった。扉の前でリミアリアに必死に話しかける。

「リミアリア、あなたはここを追い出されたら、実家に戻るつもりなんでしょう? それは無理よ。離婚されたら、お父様はリミアリアを勘当するって言っていたから!」

そんなことくらい、リミアリアにも予想がついている。

それに、あんな家に帰りたいとも思いもしない。

フラワがエマオに接近したとわかった時点で、リミアリアは追い出された後に住む場所の確保を始めていた。

今さら、そんなことを言われても痛くも痒くもない。

(言わせるだけ言わせたら満足するでしょう)

リミアリアは心配そうに自分を見つめるメイドに小声で話しかける。

「姉が迷惑をかけてごめんなさいね」

「とんでもないことでございます」

フラワの声は無視してひそひそと話しながら、作業を着々と進めていく。

何の反応も返ってこないことにいら立ったフラワは、彼女にとってはとっておきの情報を話し始める。

「エマオ様が尊敬している、アドルファス殿下のことは知っているでしょう? 彼はね、エマオ様のことを大変気にしていて、彼に色々と話しかけてくださるの。今回の戦争に貢献したとして、侯爵の爵位をもらえるかもしれないのよ!」

アドルファスの名前を聞いて、リミアリアは手を止めた。

アドルファス・バートンは、リミアリアたちが住む、プリリッツ王国の第二王子だ。

長身痩躯で整った顔立ちだが、言葉遣いが悪く、戦地にいることを望む変わり者の王子だと一部の貴族に揶揄されている。

戦闘能力がずば抜けて高く、エマオのように脳筋である貴族や、戦場で彼に助けられた国民にとっては神のような存在でもあった。

今回、エマオが出征していた戦争を終結させたのも、アドルファスのおかげだと言われていた。

「アドルファス殿下のことは、私もよく知っています。そのことは、お姉様もご存知ですわよね?」

扉越しにリミアリアに尋ねられたフラワは、にやりと笑った。

「たしか、学園に通っていた頃、課外授業で顔を合わせただけでしょう? エマオ様とアドルファス殿下の関係をあなたと同じにしちゃ駄目よ」

「そうですね」

リミアリアはアドルファスのことを思い出し、微笑みながらうなずいた。

課外授業は学園での正規の授業の後に行う活動のことで、クラブとも呼ばれている。

何を学びたいかは本人の自由で、掛け持ちも可能。十歳から十八歳になるまで続けることができる。

活動回数は、クラブによってそれぞれ違っており、リミアリアと一つ年上のアドルファスが学んでいたのは毒草だった。リミアリアはとある目的を果たすために。アドルファスは自分の身を守るために選んだものだ。

薬草について学びたい人間は多いが、世間体もあるからか毒草のみに絞って学びたいという人は少なかった。

それに加えてアドルファスには双子の兄がおり、兄は薬草クラブに入っていた。若い頃の彼は兄へのコンプレックスが強く、できれば一緒にいる時間を少なくしたかった。優等生の兄にすり寄る貴族も苦手だったこともあり、世間体など気にせず、毒草クラブを選んだ。

そのため、毒草クラブにはリミアリアとアドルファス。そして、アドルファスの未来の側近候補と考えられている男女ひとりずつの、計四人しかいなかった。

皆年上ばかりで最初は緊張したリミアリアだったが、いつしか打ち解け、クラブに行く日が楽しみになったのを覚えている。

「リミアリア、あなたのことはアドルファス殿下にも知られるでしょうね。自分が可愛がっている部下を裏切ったあなたを、アドルファス殿下が許すかしら」

フラワは声を上げて笑った。

(お姉様が気の毒になってきたわね)

というのも、リミアリアの協力者は、エマオが尊敬しているアドルファスだからだ。

七年間、同じ部活動を共にしてきたのだから、仲が悪いわけがない。

(アドルファス様は私のことを妹みたいに思ってくれているのよね)

学生時代のことを改めて思い出した後、リミアリアはフラワに告げる。

「お姉様、後悔なさらぬよう、よく考えて行動してくださいませ」

「後悔するのはあなたよ! 言っておくけど、アドルファス様は私のことも気にしているんだからね! 馬鹿なことを言ったら、目をつけられることになるわよ!」

フラワは文句を言い続けたが、リミアリアは無視を決め込むことにした。