軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15 喜びを知ったような気がします

それから一時間後、リミアリアのもとに約束をしていた人物が訪ねてきた。メイの紹介でやって来たという女性は、リミアリアも顔見知りの女性だった。

「あなたは……」

名前を聞いただけではピンときていなかったのだが、学生時代に数は少ないながらも交流があった男爵令嬢だった。リミアリアが部屋に入ってすぐに立ち止まると、男爵令嬢はゆっくりとソファから立ち上がり、カーテシーをした。

「リミアリア様、お久しぶりでございます。お会いできて光栄ですわ」

「こちらこそ、久しぶりにお会いできて嬉しいです」

ソファに座るように促し、リミアリアが向かいに座ったところで、メイドが中に入ってきた。メイドがお茶を淹れている間は、学生時代の他愛のない話をして、昔を懐かしんだ。

(姉のせいで同学年の友人はできなかった。よくよく思い返せば、友人にはなれなくても、良くしてくれた人はいたのよね)

そのことを知っていたから、メイはこの男爵令嬢にリミアリアを紹介してくれたのかもしれないと思った。

「リミアリア様は毒草クラブに入っていらしたでしょう? あの当時、令嬢が毒草だけを好んで学びたがるなんて、不思議だと思っていたんです。でも、大人になってわかりました。私のように、解毒薬を求める人がいるからだったんですね」

男爵令嬢はリミアリアに尊敬の眼差しを向けて言った。

元々は自分の身を守るためだったが、大人になっていくにつれ、人を助けるために解毒薬を作りたいと思うようになった。

そのきっかけを作ってくれた……いや、思わざるを得なくなったのは、アドルファスの存在が大きい。まさか、アドルファス殿下に 自(じ) 虐(ぎゃく) 思考があって、そのために解毒薬を作らなければと思ったことがきっかけだったとは言えない。

「いえ。何かあった時に自分の役に立つと思って始めただけなんです。こうやって解毒薬を売り始めることになって、人の役に立てる喜びを知ったような気がします」

今のリミアリアはお金のためもあったが、人の役に立ちたい。その気持ちが一番の理由になっていることを感じていた。

「そうでしたか。お金を儲けたいだけで始めた方が悪いというわけではないですが、そのような理由の方よりも、安心して解毒薬をお願いできそうな気がします」

柔らかな笑みを浮かべた男爵令嬢に、リミアリアは尋ねる。

「差し支えなければ教えていただきたいのですが、解毒薬を必要とするような出来事があったのでしょうか」

多くの貴族が解毒薬をもしものために必要としているのは確かだが、男爵家の収入を考えると解毒薬はかなり高いものになる。

メイの紹介があったとはいえ、昔馴染みだからと言って無理をして購入するとは思えない。そして、メイも支払いが滞りそうな人にリミアリアを紹介するような人物ではないことはわかっていた。

「そうなんです。リミアリア様は私の婚約者を知っていますでしょうか」

「たしか……」

少し考えて、彼女の婚約者が侯爵令息だと思い出した。身分の差で両親から反対があったものの、婚約者の女性の人柄がとても良いことで、侯爵夫妻が折れたという話を聞いたことがあった。学生時代に聞いた話は、右から左に流していたことが多いのが本音だ。しかし、嫌われている自分に対して優しくしてくれる男爵令嬢が侯爵令息と婚約したという話は、彼女の婚約者が絶賛されていたから、すぐに思い出すことができた。

「婚約者は侯爵家の方でしたわよね」

「そうです。身分差で騒がれましたから、やはりご存知ですよね」

「社交界の噂はあまり知りませんが、私にとってとても良いお話でしたので記憶に残っております」

「……ありがとうございます。で、私がお願いしたい解毒薬についてなのですが、求めているのは婚約者のほうでして……」

その後、メモを取りながら男爵令嬢から詳しい話を聞いた。今回、大量発注するのは、侯爵家内部にいくつかストックがほしいこと。万が一のために、男爵令嬢の家にも置いておきたい分があること。婚約者の数人の友人がほしがっていることもあり、その人たちにも分けたいという話だった。

資格があれば解毒薬を売ることは可能だが、転売は認められていない。そのことを伝えると男爵令嬢はうなずく。

「もちろん、承知しております。ですので、支払いは侯爵家が 一(いっ) 括(かつ) で致しますが、納品先をお伝えするということでいかがでしょうか」

「でしたら問題ございません」

「納期も急いでおりませんので、リミアリア様の可能な時期にお願いいたします」

「……よろしいのですか」

「もちろんです。……あ、で、ですが、通常よりも極端に遅すぎるのはちょっと……」

「そんなことはいたしません! できる限り、迅速に納品させていただきます!」

「ありがとうございます。お待ちしていますね」

「こちらこそ、ありがとうございます!」

商談を終えたあとは、お互いの近況を話すなどして、予想以上に楽しい時間を過ごすことができたのだった