作品タイトル不明
16話。人事について。曹操の場合
さて、孫堅が納得したところで次の告知だ。
いやぁ最近こいつらの仲が良いって聞いて首を傾げてたんだが、史実でも孫堅と曹操は顔見知りだし、董卓とは涼州でアレだったかもしれんが、恨みに思う程のものでも無かっただろうからな。
むしろ田舎から出てきた者同士で寄り添う感じなのかもしれん。でもって董卓は曹操や袁術を官職に就けたりしてたし、何気に使おうとしてたんだよな。
それを考えればこいつらは意外と相性が良いのかも……その仲を引き裂いたのは袁紹と袁術になるんだろう。面倒な連中だが、まだ利用価値があるうちは殺してはやらん。
それは良いとして、次だ次。俺も暇じゃ無いからな。
「そして他人事のような顔をしている曹操殿も、今回の人事で新たな役職に就くことが決まっております」
決めたのは俺だがな。
「え?私ですか?」
「えぇ。貴殿です」
本気で驚いてるみたいだが、わからんでもない。何だかんだ言っても長沙で数年の郡太守をしていた孫堅と違い、コイツは本当に何もしていないからなぁ。
俺は『曹操は将来の英雄だ』と思って監視してたが、現時点では有能な役人なんだから仕事をさせなきゃ損だよなって気付いたのさ。
故に命じる。働けニート野郎。
「なんと!この度曹操殿は 大鴻臚(だいこうろ) に叙せられることが決まりました!九卿就任おめでとうございます!」
中途半端な役職だから逃げるんだよ。逃げれないように要職に就けてやるわい。
「……は?」
ん?固まった?。ハハハ、こやつめ。あまりの栄誉に固まったのか。仕方のない奴よのぉ。もう一度言ってやるから、耳の穴をかっぽじってしっかりと聞くがよいわ。
―――
「そして曹操殿は 大鴻臚(だいこうろ) です。お父上が太尉ですので、親子で三公と九卿ですな」
「はぁ?」
李儒の思惑はともかくとして、いくら曹操でもいきなり『九卿になりました』等と言われては反応に困るのが普通である。
なにせ漢と言う国に限らず、ある程度の文化度合いが有る国というのは 腕っ節(個人の能力や実績) より 年齢や評価(年功序列) を重んずるのが普通のことだ。
そこの中枢に30代半ばで、それほど実績がない曹操が入ると言うのは通常では有り得ないことと言っても良い。
……目の前に20代で九卿になった奴が居るのだが、これは外戚である何進が腹心を役職に就けるために銭で買ったものと認識されているので除外する。
「あの、私は実績もありませんし、九卿を買う銭もありませんが?」
つい先ほど、どこぞの虎が言ったようなことを言う曹操だが、解き放たれた腹黒外道こと李儒は当然その程度で引き下がる程甘くはない。
「え?実績ならあるでしょう? 典(・) 軍(・) 校(・) 尉(・) 殿(・) ?」
「あ」
そう、皇帝直轄軍の西園軍に於いて典礼を司ることを任じられたことが、すでに実績なのだ。
「あえて説明致しますが、この度の人事は袁紹とその一味が宮中に侵犯した罪によって洛陽の名家の人間が大量に断罪されることが前提となっております。それはお三方もわかりますね?」
「「「ハイ」」」
もちろん孫堅も曹操もそして董卓もそれは理解している。
「袁家の関係者を全て裁くとなれば一体どれだけの人間が裁かれることになるか、今は関係各所でその規模についてを検討しておりますが、少なくとも現時点で宮中だけでなく、国家として全体的な人材不足が予想されております」
「「「ソウデスネ」」」
それも当然のことだろう。散々言っていることだが、袁家の親類縁者だけでも数十家に及ぶのだ。その関係者など数えるのも億劫になるのもわかる。
「そこで新帝陛下の即位や新年の祝いに乗じて恩赦やら何やらの手続きが進んでおります」
「「「ソウナンデスカ」」」
そうしないと国家が運営できないのだから、それもまた仕方のないことだろう。
「ここで問題になるのが、即位の儀や新年の祝いに訪れる諸侯達を饗応する人間でした。流石に罪人に饗応を任せるわけには行きません」
「「「……あぁ」」」
それはそうだ。来客としても『これから罪を裁かれる人間』に饗されても反応に困るだろうし、万が一親しくしてしまい関係者として巻き込まれては溜まったものではない。
そもそも地方の諸侯が上洛するのは新帝やその周囲の人間への顔繋ぎの為なのだ。と言うかほとんどがソレ目的と言っても良い。なのにすぐにこの世から居なくなるような罪人と顔を繋がせると言うのでは諸侯の反発は必至だし、新帝の評価にも関わってくるのは自明の理である。
「よって今回の件で何もしていない。かつ饗応役に相応しい人間が求められたのです。そこで不肖この李儒が曹操殿の名を挙げさせていただきました」
「お、おぉ。なるほど(お前かよ!)」
「「(ご愁傷様です)」」
危なく叫び出しそうになった曹操だが、ギリギリで堪えることに成功した。……本来なら怒鳴ったりするところではなく感謝を述べるところなのだから、感謝を述べずに堪えると言うのもおかしな話なのだが、孫堅も董卓も、曹操の態度を無礼だとは思わなかったと言う。
「ハッハッハッ、感謝の言葉は不要ですぞ。なにせ先帝陛下に直属軍の典礼を一任されるほどのお方です。新帝陛下の代理として諸侯を饗応するのにこれほど相応しい方はおりませんからな!」
「「「……(嘘だ!)」」」
確かに肩書きだけで言えばそうだろう。しかし年功序列な社会に於いては通常若造よりも年配者に饗応役を任せるのが普通だ。そして年配者など掃いて捨てるほど居るのが今の洛陽である。
その中で探せば現在の曹操以上の人間などいくらでも居るだろう。それなのにわざわざ曹操を任命する理由とは……
三人、特に曹操は李儒の狙いを勘ぐるが、残念ながらこの度の李儒には『有能なくせに働きもせず給料を貰っている奴が 部下(議郎) にいる』と言う状況を改善するためのものであり、言ってしまえば嫌がらせでしかない為、いくら裏を読んでも無駄である。
そんなことを知らない曹操が必死でメリットデメリット計算をしているが、そもそもこの人事は決定事項だ。故にどんな意図があったとしても受け入れるしかない。
そんな曹操を見かねて李儒が助け舟を出す。自作自演?策士なら当然のことだろう。
「ちなみにこの人事が認められたのは、お父君の曹嵩殿に関わりがあるのです」
「父上が?」
全財産叩いて太尉を買ったものの、帝が崩御したせいでただの無一文となり、今は家で絶望している父がどうしたと言うか?
「えぇ。新帝陛下が即位する際に人事を一新するのは通例ではあるのですが、先帝陛下に対して一億銭もの銭を寄進した忠義の士に対して、帝が崩御したからと言って無慈悲に放逐するのは人道に 悖(もと) る行為ではないかと言う意見がありまして」
「「「なるほど」」」
その意見を述べたのも李儒であるが、当然そんなことをわざわざ明かすようなことはしない。そして意見を聞かされた三人としては新帝やその周囲に「あれ?もしかして意外とまともなのか?」と錯覚を覚えてしまう。
「そこで曹嵩どのには新帝即位後も数か月太尉でいてもらい、新年の行事が終わった後に三割程返金をして官位を返上していただく形を予定しているのです」
「それは……ありがとうございます」
今までなら宦官あたりが素知らぬ振りをして曹嵩を罷免していたはずだ。それが無いだけでなく、一部でも返金してくれるというのであれば、残るのは大金と太尉を経験したと言う名誉だ。これならば生きた死体状態である父も回復するだろう。
儒の教えに染まっているわけではないが、単純に今まで彼に迷惑をかけてきた自覚が有る曹操としては、紛れもなく歓迎すべきことであった。
「感謝は私ではなく新帝陛下にお願いします。話を続けますが……多少返金したとしても曹嵩殿が7千万銭もの銭を先帝陛下に寄進した事実が残っております。ちなみに崔烈殿が司徒を得るのに使ったのが五百万銭ですので、同じ三公でもあまりにも差がありすぎる。これはよろしくない」
その金で名誉と大宦官である曹騰亡き後の曹家の安全を買ったと言えばその通りなのだが、世の中には相場と言うものがある。曹嵩にとっては妥当だったかもしれないが、周囲はそうは思わない。
「なるほど……それで私が」
ここまで言われてしまえば曹操も事情を理解する。つまり今回の件で朝廷は曹嵩が親子で官位を買ったと言う事にするつもりなのだろう。
帝が変わっても太尉と言うのは言ってしまえば太尉を二代続けたとも言えるし、その上で自分の子供も九卿に挙げるとなれば多額の銭がかかっても当然というわけだ。
これなら新帝が吝嗇と言う噂も立つことはないし、元々返金など期待していなかった曹嵩も恨み言どころか感謝を述べることになるし、曹操とて先帝と新帝に忠義を示した九卿として胸を張って職務にあたることもできる。
『銭で官位を買った』と言うことには違いはないので、諸侯も多少思うところはあるかもしれないが、即位と新年の祝いでわざわざ新帝が認めた人事にケチを付ける者がいるとは考えづらい。さらに「曹操に饗応されるのが嫌なら罪人に饗応されたいか?」と聞かれて、罪人を選ぶ人間など居ない。
こうなれば曹操は実力を示せば良いだけだ。
実際目の前にいる 光禄勲(腹黒外道) は何進が金で買った役職を貰った若造だが、今や内外に実力を示し、何進が居なくともその実力を否定できる者は居ないと言うところまで上り詰めている。
そんな実例が居るのに加えて、曹操は自分の能力に自信がある。そんなことも相まって、彼はこの人事を受け入れることにした。
これから自分は間違いなく多忙になるだろう。事実上何もしなくて良かった典軍校尉と比べてどちらが良いのかは現時点ではわからない。しかし少なくとも父や亡き祖父に恥じるような役職ではない。
そう考えた曹操は 大鴻臚(だいこうろ) となる覚悟を決め、全力で職務に取り組む所存であったと言う。
……この時点では。
――――
うむ、曹操もやる気になったようで何より。ではメインディッシュと行こうじゃないか。
「さて、孫堅殿、曹操殿と来たら、締めは董閣下ですな」
「……いや、某は別に何も要りませんぞ。えぇ何も要りませんとも」
長沙一郡の太守が南郡都督にされ、典軍校尉が大鴻臚となったのだ。なら軍を率いる自分はなんだ?まさか三将軍か?
「「(ご愁傷様です)」」
目出度いはずの昇進に怯える董卓を見て、先に話が終わった二人は彼に対して心の中で手を合わせていたと言う。