軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

助けを呼びに

木々が高く微かな光しか射さない森。

足に絡みつく蔓や視界を遮る草木。

自然豊かで鳥の鳴き声すらしない静かな場は、普段であれば居心地がよく心和むところだが、今はその全てが薄気味悪く恐ろしい。

「九十、九十一……っ」

木の根に足を取られ、その度に体勢を崩しては転がる。

幸いなことに湿った地面は柔らかく、大した怪我もなく直ぐに起き上がり木の幹へと手をつく。

「……あった。それなら、ここから右方向に二百」

短剣で彫った印がある木の幹から手を離し、数を数えながら再び走り出す。

このような深い森に入った場合は迷うことを前提に考えて動くようにと、フィンは父親から教わっている。その為フィンは、シルヴィオ達の後を追いながら自分達が森の中で迷わないよう短剣で木の幹に印を付け、印を付けた木から木までの間の歩数を数え暗記していた。

「大丈夫、間違ってない……大丈夫」

自身の記憶だけを頼りに進みながら、強い不安感を払うように大丈夫という言葉を繰り返し口にする。それと同時にフィンが取ったこの道の覚え方に唖然としていたセレスティーアの顔を思い出し引き結んでいた唇から力を抜いた。

『目印となる木がたった数本であったなら、または木の特徴や歩数を紙に書き記していくのであればまだ分かるが。全て覚えるのか?どうやって……?』

目をまん丸にしてそう言いながらフィンの邪魔にならないようにと手探りで動くセレスティーアは、普段しっかりしている彼女とは違い年相応の少女に見えた。

軍人である父親が平然と行っていたからフィンはコレが普通なのだと思っていたし、どの木も同じではなくその木にしかない特徴や歩数の覚え方にはコツがあるので実際はそう難しいものではない。

『凄いな。これもフィンの才能だろう』

数ヵ月前まではセレスティーアが苦手で、自分とは異なる人間だと思っていた。

けれど一緒に行動しているうちに、彼女は情に厚く努力家で自分にとても厳しい根っからの軍人気質、綺麗な貴族の少女があの父親と同じ人間なのだと気付けば苦手意識などなくなり、寧ろこの先どうなるのかと心配になってしまった。

「よし、次は真っ直ぐ百八十。根本が半分腐っている木……」

時折視線を左右に動かし、周囲を警戒しながらひたすら同じ動作を繰り返す。

シルヴィオ達を追っていたときは自分達の痕跡が残らないよう慎重に草や枝を退かし進んでいたが、今はそんなことを気にする必要もなく、置いてきた仲間の元へ直ぐにでも戻れるように態と枝を折り、草木を踏み潰して道を作っていく。

「……ふっ、は……はっ、はっ」

頬に流れる汗を腕で拭い、大きな木の前で項垂れながら乱れた息を整える。

「早く、急がないと」

夢中で走ってきたがまだ半分程度しか進んでいないだろう。普段走っている訓練場とは違い、森の中では無駄に体力を削られ思うように進まず、焦りばかりが募っていく。

「この木を背にして、真っ直ぐ……」

顔を上げ頭の中で出口までの道順を確認しながら、一向に景色が変わらないことに絶望する。

森から抜けたとしてもそこから野営地までは遠く、教員を連れて再び森へ戻ってきたとして今危険に晒されているシルヴィオ達を助けることはできるのだろうか?

「僕も残っていたほうがよかったんじゃ」

セレスティーアに言われあの場を離れたが、どう考えても助けが間に合うとは思えない。

「それに、スレイランって……」

盗み聞きのように知ってしまった情報。

何が……とか、どうして……とか考える暇もなく、緊迫した状況に焦りが勝り直ぐに走り出していた。

けれど、シルヴィオが兄と呼んでいた青年の仲間が他にもいたとしたら?

「……っ」

勢いよく背後を振り返り、そのあと何度も周囲に顔を動かし、ズズッと木に凭れながらしゃがみ込みふっと息を吐く。

あの場にも此処にくるまでの間にも人の気配はなかったが、王族が数人の護衛騎士だけを連れてこんな森の中にやって来るのだろうか?

嫌な想像に身震いしセレスティーア達が居る方向へと身体を向けるが、ギュッと唇を噛み締め立ち上がり再び走り出した。

戻ったところで何ができるわけでもなく、だったら自分は少しでも早く助けを呼びに行くしかないのだからと……。

「三、四……」

セレスティーア達なら無謀な戦いはせずに逃げることを優先する筈だと、だから助けは絶対に間に合う筈なのだと、そう自身に言い聞かせながら聞かせ痩せ細った木の幹の前で印を確認していたときだった。

――カサッ。

葉擦れともとれるような微音に身体が反応し、木の幹に隠れるように体勢を低くしたあと息を顰めて耳をそばたてた。

風はなく、近くに鳥や獣の気配はない。

「……」

たった数秒、または数分なのか、どれくらい息を止めていたのか分からない。

激しく動いていた心臓が正常を取り戻したのを感じ、過剰に反応し過ぎたのかと詰めていた息を吐き出そうとした直後――。

「……っ、ぐっ……!?」

左側から伸びてきた手に口を覆われた。その手を外そうと動く前にうつ伏せにされ腕を拘束され、首元に冷たい剣先が突きつけされる。為す術なくたった数十秒で無力化され、足掻こうと何か行動すれば首を斬られるだろう。

だが、ここで抵抗することなくただジッとしているわけにはいかない。

斬られることも覚悟で腹と足に力を入れれば、頭上から「いたぞー!」と場違いに明るい声が降ってきた……。

「悪いな。遠目からだと判断がつかなくて、面倒だから先に拘束した」

ハハッと笑う声と共に拘束が解け、地面にうつ伏せになっていた上半身を起こせば目の前に手が差し出される。その手の先を恐る恐る見上げれば、門の待機所に居た軍人、セレスティーアが知り合いだと言っていたダンという青年が立っていた。