軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まだ始まったばかりです

「シャツは薄手の物と厚手の袖が無い物を数枚、色は汚れが目立たない物を選んでいます。訓練内容によっては三日で生地が駄目になることもあるので、替えは常に用意しておいてください。あとは、通気性や汗を吸収するかどうかなど他にも色々あるのですが……その辺りはルドかアルトリードさんに相談しながら決めれば良いかと。王都の物と比べると多少品質は落ちますが、軍人の砦を補佐している街ですから安くて丈夫な物が沢山ありますよ」

「うん。丈夫な物……沢山……」

一生懸命メモを取っているレナート様にほっこりしながら、私は今炎天下の中汗だくで素振りをしている最中だ。

勿論直ぐ側にはルドもいて、額に張りつく髪を鬱陶し気にかき上げながら重量を増やしたダミー武器を一心不乱に振っている。

「ルド、何かアドバイスはないのですか?」

「……っ、今それどころでは」

「兄上はお忙しそうなので、アルトリードに聞いておきます」

「だそうですよ、ルド」

「気を遣わせて、すまない……」

「休憩時間が終わるので戻ります」

ふにゃっと微笑んだレナート様は、メモをそっと荷物の上に置きアルトリード様の元へ駆けて行く。

連れ立って歩くアルトリード様に積極的に話しかけているレナート様は何やら楽しそうで、その様子を見る限りまだあの洗礼は受けていないのだろう。

「大分慣れてきたようですね」

「そのようだ。一週間前までは身体が痛いと朝起きるのも苦労していたからな」

一日中基礎体力訓練を行っているのだからそうなるのも当たり前だ。

寧ろ、たった七日で休憩時間に訓練場から私達が居る場所まで毎回移動して来ているのが信じられない。

訓練初日に早朝の柔軟と走り込みに参加したレナート様は一時間ほどで意識を朦朧とさせ、いつ倒れてもおかしくない状況の中歯を食いしばって走っていたのだが、残り数十分で糸が切れたように倒れてしまった。

私達は慌ててレナート様の身体を冷やし、残りの時間は座って見学をさせたのだが。

「セレスよりも根性が……んっ!?」

それを眺めていたダンが余計なことを言いそうになったので、トムが空気の読めない男の口を押さえ、私は脛を蹴っておいた。

そもそも当初は毎朝の早朝訓練にレナート様が参加する予定はなく、ルド同様ひっそりと剣術を鍛える筈だった……らしい。

レナート様の護衛について来たアルトリード様がすまなそうな顔でそう言っていた。

では、何故その予定が狂ったのかというと、ダンに敗北した模擬試合後からレナート様が私の真似をするようになったからだ。

ルドとレナート様は砦内を勝手に歩くことは出来ないので顔を合わせるのは訓練のときだけ。食事の時間も別だと説明を受けたレナート様は瞳を潤ませ無言でアルトリード様に抗議していたが「決まりです」と一蹴されていた。

だったら!と代わりに提案していたのが、私と一緒に早朝訓練を受けたいというものだった。

それを聞いていたルドが「それなら、私も」と言い出し、アルトリード様が二人を窘めるが一歩も引かず、仕舞いには「僕はセレスティーアのようになりたいのです」と宣言したレナート様の姿を見ていたリックさんの目がギラリと光っていた。

御爺様に手加減するなと言われていたロナさんのときと同じような目になったのを目撃した私は、やる気に満ちているレナート様とルドの冥福を祈った。

「まだ辛そうですが、倒れることはなくなりましたからね」

「いや、私も結構辛いぞ。あれを何年もこなしているのだから、セレスに心酔するレナートの気持ちはわかる」

「私にというよりは、打撃術やサブ武器が物珍しいだけでは?始終目を輝かせていますし、私も初めの頃はあのような感じでしたよ」

「それもあるだろうが……」

目の前であんな無様に負けたのだ。

もし心酔するとしたら私ではなく、ダンにだろう……。

――それに。

「では、少し訓練場に行ってきます」

「……ん?何かあるのか?」

「あるといえば、あるかと」

私の基礎訓練は御爺様が手を加えていたもので、それと同様のものをレナート様はこなしていると聞いている。

早朝訓練で倒れていた人がそれを七日でこなせることが出来るのか……。

しかも、休憩時間に往復出来る体力まで残して?

レナート様を監修しているのは王家に仕えているアルトリード様。

「ルドは、レナート様を将来騎士団長の職に就かせたいと言っていましたよね?」

「そうだが……セレス?」

「では、行ってきます」

背後から「待て、何をする気だ!?」と焦った声が聞こえてきたが無視し、訓練場へ足を踏み入れた。

私も週に何度かは日が当たらず、風通しの良いこの場所で基礎訓練だけを行う日を設けている。

「よっ、と……」

隅に置かれている桶に水を入れ、それを持ちながら訓練場の中央、レナート様が突っ伏している場所まで足早に歩き。

「……さっさと立て」

私に気づき顔を上げたレナート様に水をぶっかけた。

「ほら、早くしろ」

「……っ、ごほっ」

咽るレナート様に容赦なく二度目の水をかけ、困ったように微笑むアルトリード様をひと睨みした。

「甘やかすとためになりませんよ?」

「私よりも、貴方が行った方が効果はあるかと思いまして」

しれっと語り、訓練メニューを差し出してきたアルトリード様を恨めしく思いながら、唖然としながらも立ち上がったレナート様に「よろしい」と告げる。

ランシーン砦、地獄の基礎訓練は、これからが本番だ。