軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鳴り止む警報

近衛騎士の副隊長だからといって一人でやれることには限界がある気がするが、彼が側に居ることによってルドの不安が軽くなるのであれば何も言うまい。

侍女に入れてもらった温かい紅茶を飲みながら、余分な緊張を解す為に他愛もない話をしていたとき、いつも以上に長かった警報音が鳴り止んだ。

「終わったのか……?」

「どうでしょうか。誰か来るまではこの部屋からは出ないように。もしもの場合はそこの壁紙を剥がして隠し通路に入り外に出ます」

そこ……と私が指したのは本棚で、ルドが「壁?」と私と本棚を交互に見ていたので頷いておく。

本棚の後ろにある壁には扉があり、それを普段は壁紙で隠しているのだと教えれば興奮したルドが本棚をマジマジと眺めだす。

「外には馬と荷が用意されています。伝令は予め城へと送られているでしょうから、味方の部隊と合流すれば一安心です」

「よくご存じですね」

先程の無機質な声とは違い、どこか感心したかのように呟かれた声に内心ビクッとしながら背後を振り返り、声の持ち主であるアルトリード様を見上げた。

「脱出経路や手段等は一通り教わっていますので。アルトリード様もお聞きになっていますよね?」

「えぇ、寝室にある通路はルド様もご存じです。それと、私に敬称は必要ありません。今はただの護衛ですから」

「ですが……」

「私などより、ルド様の方が高貴なお方です」

王太子殿下をルド呼びしているのだから、私に敬称をつけるな……ということだろうか?この人表情がほとんど動かないから判断が凄く難しい。

「……アルトリードだって公爵家じゃないか」

「次男なので」

次男だろうが三男だろうが、この人も伯爵家より遥かに格上なのは間違いない。

敬称を付けないのなら何と呼べば良いのだろうか……。

アルトリードさん?それとも短くしてアル?もしくは、次男?……無理でしょうが。

(どうして私はこんな人達と同じ空間にいるのだろうか)

思っていることは同じなのか、隅に控えている侍女も護衛も皆顔を引き攣らせながら無心を貫こうとしているのがわかる。

私もそちら側にいきたいと心の中で嘆きながら立ち上がり、窓へ近づいた。

「……」

警報が止まってから既に数十分は経っているのに、ロナさんはまだ顔を出さない。

外の火の明かりは未だ消えることなく、寧ろ増えたような気がして目を凝らすが、暗闇の中で人が動き回っている様子が微かにわかる程度だ。

「ぁー……アルトリードさん。スレイランについて何か知っていることはありますか?」

一瞬何て呼ぼうか思案し、一番当たり障りのないものを選んでおいた。

近衛騎士なのだから何か情報を持っているだろうと、決して窓の外から目を離すことなく問いかけた。

迷ったからか変な風に名前を呼んでしまったことについて怒られそうなのが怖いわけではない。

外の情報収集という立派なお仕事の為、目を逸らすわけにはいかないだけだ、うん。

「戦闘や戦争を日常的に行っている野蛮な国という認識です。スレイラン国では女王は認められておらず、直系の男子のみが王位を継承します。ですが、血筋や内面よりも強さを重視しているようなので、継承順位の入れ替わりが激しく、王位継承争いが絶えません。ここ数年は、第一王子と第三王子が争っていると聞いています」

「御爺様が西の王族は先陣を切って戦っていると言っていましたが」

「武力に関して強さを示すには戦場が一番なのでしょう」

強さといっても武力だけのことではないだろう。

継承順位を上げる為にはそれ以外のことでも、派閥や支持者といったものも重要になってくるのだから。

「最も有力な人物は誰ですか?」

「第三王子ですね」

「正妃の子は?」

「他国から迎えた王女の子である第一王子と第二王子、それと第一王女です。第三王子、第四王子は側室の子ですが、自国の侯爵家ですから派閥も資金力も膨大かと」

兄弟を蹴落として頂点に立つような危険人物と顔を合わせるような機会はないだろうと思いながら聞いていたが、軍学校に入り見習いとして戦場に出たらスレイランの王族と邂逅することもあるかもしれない。

あとで御爺様かルジェ叔父様に第三王子について詳しく聞いておこうと決め、廊下からバタバタと聞こえる足音に息を潜めた。

「セレス!」

ノックなんてものはなく、いきなり開け放たれた扉から顔を出したのはニック大佐で。

「時間と人手が足りない。さっさと来い!」

説明もなしに言いたいことだけ言って背を向けたニック大佐に、私は深い溜息を吐きだした。