軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初対面の印象?

「軍学校での一年目は主に基礎体力作りと基礎知識の教育、この二つだ。二年目からは技能や技術方面になるが、コレに関しては適性もあるが、前線と後方とで必要になってくるものも変わる。将来どこの軍部を希望するかによって、自身でクラスを選ぶ必要がある。……俺のときはこんな感じだったが、今どうなっているかはルジェに聞いた方が確実だろう」

昔と今では学校の制度も変わっているだろうからと、御爺様は息子二人を通わせているルジェ叔父様に説明の続きを促した。

「基本は変わっていませんが……学力試験が半月に一度、模擬試合は一年に一度行われているそうです。クラス編成は各自の希望は聞くそうですが、学力と模擬試合の結果が主な判断基準となっています。三年目からは確か、クラス編成はなく卒業まではより高度な技術、技能、知識の向上。実習、実地と本格的に行われるようになります。女性は武官ではなく文官クラスを希望する者が多いかと」

「ロベルトは文官クラスじゃなかったか?」

「いえ、あれは両方受けていますから……」

ロベルトというのはルジェ叔父様の息子で、私の従兄にあたる。ロベルトの下にはリアムという弟がいて、更にその下には妹のリジュがいる。

叔母様とリジュは王都の屋敷で暮らし、ロベルトとリアムの二人は軍学校で寮暮らしをしているらしい。

「複数の講義は、余裕があれば……というところですかね」

「選択肢は多い方がいい。なら、少し急いで鍛えないとマズイな……」

学園では基礎学力の教育の他に、女性はマナー講座と社交の教育。男性は騎士科の受講が義務づけられている。

けれど、軍学校は義務ではなく選択制で、学科や模擬試験という実力重視……。

軍学校へ進むが、軍人になるつもりはない。

そこまでいってしまうと、もう変人の域になってしまう。

(だとしたら、私は文官クラスだろうか……?)

うーん……と悩んでいたら、ルジェ叔父様から「待った!」と大きな声が上がった。

「まさか、父上が鍛えるわけではないですよね?」

「当たり前だ。温室育ちの基礎体力もない奴に、いきなり指導出来るわけがない」

「……ですよね。では、鍛えるとは?」

「ロナとリックを呼んで来い。まずはそこに置く」

「そこもどうかと……」

早く行けと促されたルジェ叔父様は悲し気な目で私を見たあと、肩を落としながら部屋を出て行った。

ルジェ叔父様は軍学校への入学を反対していたものね……。

「ロナさんとリックさんというのは?」

「新人の教育係だ。ロナが基礎訓練、リックが実地訓練だな。質問があれば二人が来たら聞けばいい。まぁ、セレスティーアの場合は実地に入るまで一年弱はかかりそうだが……」

一年弱で身につくか?と御爺様に不安視されている基礎訓練とは一体何なのだろうか……。

今から来るという二人に色々質問しておかないと、あとで後悔するやつだ。

コン、コン……とノックされたあと、ルジェ叔父様の後ろから隊服を着た二人が入って来た。

「セレスティーア、父上の横に」

「はい」

「二人はそこに掛けて」

御爺様の隣に移動し、初対面の印象はとても大事だと教育されている私は、猫を何重にも被る渾身の愛想笑いを披露した。

が、正面に座った人を見て目を見開いた。

短い髪はちょこんと跳ねていて、スラリと伸びた手足が印象的な綺麗な女性。

黒い上着に純白のスラックス。襟元と胸元に金属製のバッチがつけられているが、それの意味は私にはわからないけれど、凄く似合っている!

しかも、優しく微笑んでくれた!

「俺の孫だ。二人はルジェから説明は?」

「いえ、まだ何も」

「同じく」

「なら挨拶からだな。セレスティーア、座ったままでいい」

初めて見る女性の軍人様に興奮している私を余所に、御爺様はサクサクと話を進めている。

座ったままで良いと言われたので姿勢を正し、正面に座っている女性軍人様から強面軍人様にと、順に目を合わせた。

「フィルデ・ロティシュの孫、セレスティーア・ロティシュと申します。暫くの間此処でお世話になることになりました。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」

挨拶を終えたあとは深く頭を下げる。

御爺様はこの二人が新人の教育を担っていると言っていたのだから、この二人は私の先生となる。

だとしたら、この挨拶が正解だと思うのだけれど……。

顔を上げたら、二人共微動だにせずジッと私を凝視していた。

どうしたのだろうか……?とルジェ叔父様に視線で助けを乞うと、苦笑したあと「んんっ!」と咳払いをし、まだ動く気配のない二人を促してくれる。

「あ、すみません。貴族の御令嬢を見るのは初めてで……。新人の基礎訓練を担当していますロナと申します」

照れたように笑ったあと、ふっ……と息を吐き出し真面目な顔つきになったロナさんは、正に軍人という感じでとても格好良い。

「丁寧な挨拶をありがとうございます。新人の実地訓練を担当しています、リックです」

リックさんはとても背の高い方で体格が良い。強面の顔をしているが、私の目を見てゆっくり話してくれた優しい声に温かさを感じた。

「セレスティーアが軍学校に入学するまでの間、二人に面倒を見てもらうことになる」

「……」

「……」

「そうだよな……そうなるよな……」

御爺様の言葉に無言になってしまったロナさんとリックさんに対し、ルジェ叔父様は目元を手で覆いながら何度も頷いている……。

「いえ、あの……軍学校とはどういうことでしょうか?伯爵家のお嬢様ですよね?童話に出てくるような、キラキラしたお姫様ですよね?」

「俺の孫なんだから軍学校に入ってもおかしくはないだろうが。それと、お前は貴族に夢を見過ぎだ……」

ロナさん……人間は発光しません。

「いや、何か深い理由が?もしや、とうとうドレア様に家を取り潰されたのですか?」

「……おい、とうとうってどういうことだ?」

御爺様、それは私が聞きたいです。

何をなさったら、宰相様に家を取り潰されるようなことになるのですか!?

「三年後に軍学校に入学させる。恐らく、その辺の子供より基礎的な部分が劣っているから、まぁ、平均になるぐらいには鍛えてやってほしい。どうせ毎年夏の終わりから冬の間まで一人面倒なのが混ざっているからちょうど良いだろう?」

「ですが、ドレスでの訓練は……」

「ドレスでやるわけがないだろうが……貴族を何だと思っているんだ?セレスティーアだってシャツとズボンくらい……持っているよな?」

流石にドレスで訓練に挑みはしません。

苦笑しながら頷くと、ロナさんの顔がぐにゃっと歪んだ……。

「普段俺やルジェを見てて、なんでまだそんなおかしなイメージを持っているんだ?いいか?童話の中の素敵な王子様や愛らしいお姫様なんてものは、現実には存在していない。ただの名称だ。貴族も、大して華やかな生活なんて送っていないぞ?着飾るとき以外は」

「夢ぐらい見させろ、このっ、老害!」

「ロナ、落ち着け。まだ、此処の実権はこの老害が握っている」

興奮したロナさんが御爺様の言葉を遮って怒鳴り、リックさんはよくわからない宥め方をしている。

この短時間に一体何が起きたのか……数分前までは素敵な軍人様だったのに。

立ち上がったロナさんの腕を掴んで押さえるリックさん。

それを鼻で笑う御爺様と「二人共……論点がずれているからな?」と、傍観体制のルジェ叔父様。

このままでは質問どころではなくなるのでは?

「あの……お!?」

そっと手を上げながら声を発した瞬間、私の背中からクッションが抜かれ、凄い勢いでロナさんに飛んで行った……。

この砦では、クッションを投げ合う遊びでも流行しているのだろうか?

固いソファーに背中を預けたまま、子供のように騒ぐ大人達を胡乱な眼で見つめながら、深く、それはもうとても深く、息を吸い込み。

「質問してもよろしいでしょうか!」

声を張り上げた。