軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2巻発売記念SS 勘違い

長距離移動、野営、他にも色々とあった初めての演習を終え、やっと女子寮に戻って来た。

睡眠不足と手の怪我、さらにニック大佐から叱られ、疲労が限界に達してしまい足元が大分覚束ない。

これは早急に休息が必要だと、まだ誰も戻って来ていない静かな寮の中を歩き、自室に入るなり荷物を放り投げ、ベッドに倒れ込んだ。

「……疲れた」

一瞬、着替えやお風呂といったことが頭を過ったが眠気には勝てず、起きてからでも問題はないと身体の力を抜く。

演習や遠征は慣れるまでが辛く、その辛さは実際に体験してみないと分からないものだと、そう兄様達が言っていたが……。

「初めての演習でこれほどとは聞いていない」

ベッドから見上げた先の机の上には、ハムと野菜を挟んだパンと飲み物が入った大きなポットが置かれていて、私が動けなくなることを予想していたリアッタさんが用意しておいてくれたのだろう。

「ハムサンド、紅茶。お腹が空いたけど……動けない」

リアッタさんの優しさに感謝しながら、起きてから食べようと目を閉じた。

――ぐっ、ぐううっ……。

「……」

自身のお腹の音で目が覚め、まだ疲れが抜けていない身体を起こす。

眠る前はまだ明るかった窓の外は暗く、目を擦りながら時間を確認するともう夕食の時間だった。お腹も空いているし丁度良いと、サンドイッチを頬張り、温くなった紅茶を飲んでから自室を出る。うつ伏せで寝ていたからか痛む首を回しながら、階段を下りていたときだった。

「セレス!」

食堂に向かうところだったのか、一階のホールにはエリー、ルナ、リリンが集まっていて、真っ先に私に気付いたエリーが笑顔で私の名を呼び、振っていた手を止め固まった。

「……エリー?」

壊れた玩具のようにピタッと動きを止めたエリーに驚き声を掛けるが、ピクリとも動かずただ私を凝視しているだけ。

「エリー?どうかしたのか?」

そっと自身の背後を窺うも何もなく、左右にも何もない。困惑しつつも階段を下り、三人の前に立つ。どうしたことかエリーだけでなく、ルナとリリンも私をジッと見つめたまま動きを止めている。

「あー、ルナ、リリン?三人共、何かあったのか?」

彼女達の目の前で指を鳴らすと、目を瞬かせたエリーが身体をわなわなと震わせ。

「何かあったのは、セレスでしょう!」

叫んだ。

「髪っ……!セレスの髪!」

「あっ、これは」

「髪がない!セレスの長くて綺麗な銀髪がっ、なくなっているのよ!?何で、どうして、昨日の朝まではあったのに!」

悲鳴のような声を上げたかと思えば、目に涙を浮かべて勢いよく話し出すエリー。

「私のセレスに何があったのよ!?誰、誰がその髪を切ったの!ビリー?それともあいつの取り巻き!?」

「いや、彼等は」

「あのクソ野郎共……!いつか何かとんでもないことをすると思っていたのよ!最近は大人しく紳士ぶっていたけど、やっぱりやりやがったわね……!」

「エ、エリー。彼等では」

「あいつら、絶対に丸坊主にしてやるんだから!」

こうなったエリーは私では止めることが出来ず、彼女を宥めてもらおうとルナとリリンへ助けを求め視線を向けるが、目が合ったリリンはくしゃっと顔を顰め大きな目からぽろぽろと涙を零し始めた……。

「リリン!?」

「セレスの髪が……っう、髪が、っく」

「あー、髪か……」

演習先であった事は口外禁止なので、この髪について説明することは出来ない。

鋭利なナイフで切ったのでそこまで見苦しくはないだろうと勝手に思い込んでいたが、どうやら泣かれてしまうほど酷い状態であるらしい。

「リリン、落ち着いて。髪はまた伸びるから」

腰まであった長い髪に比べれば、肩下ギリギリまでしかない今の髪は短く感じるかもしれない。だが紐で結べるくらいはあるし、リリンに言ったように髪などまた伸びる。寧ろ頭を洗う時間が短くなって楽なのでは……?と閃いたところで、ルナに無言で腕を掴まれた。

「あんた今、何かとんでもないことを考えていたでしょう……?」

「え、いや……」

「頭が軽くなって良かったとか、それか、髪を洗うのが楽になって良かったとか、その辺ね」

「……」

「嘘でしょう、図星!?」

「それは、その」

「信じられない!あんたそれでも貴族のお嬢様なの!?あー、もう!リリン、リアッタさんに夕食は遅くなるって伝えてきてちょうだい」

「あ、分かった!」

「エリーは部屋を借りるわよ」

「先に行って準備してくるわ!リリン、箒と塵取りも借りてきて!」

「はーい」

ルナの指示によって、食堂へ走って行ったリリンと、階段を駆け上がって行ったエリーを唖然と見送った私は、ルナに腕を掴まれたまま来た道を戻って行く。

「夕食は……?」

「そんな子犬のような顔をしたって駄目よ。最優先はその髪だから」

ルナにキッと睨まれコクコクと頷くことしか出来ず、大人しくエリーの部屋まで連行された。

「準備は出来た?」

「大丈夫だと思うけど……セレスの髪って、勝手に整えてもいいものなの?そういうのって専属の侍女がやるんでしょう?」

「今はいないんだから仕方がないじゃない」

「そうだけど……」

エリーの部屋に入るなり椅子に座らされ、首元にタオルを巻かれる。

サイトテーブルにはハサミや櫛、タオルや紙袋が置かれていて、今から何をするのか察した。

「このままの髪で過ごさせるわけにはいかないでしょ。セレス、私が髪を整えるから」

「あぁ、よろしく頼む」

「え、いいの?ルナだよ?」

「ちょっと、エリー!エリーとリリンの髪だって私が切っているじゃない!」

「だって、失敗したら……あの人が出てくるかも」

「……あ」

顔を青ざめさせた二人を見てあの人とは誰のことだろうか?と考えていれば、パッと顔を上げたルナが「全部ビリーが悪いのよ」とハサミを手にした。

「あいつの所為なんだから、あいつが責任を取るわ」

「そうよね……多分、きっと、絶対に、この髪を見たらあの人は怒り狂うだろうけど、ビリーがなんとかするべきよね」

「で、どこまで切る?」

「整える程度でいいと思う」

「それなら……って、何で切ったらこんなにバラバラになるのよ」

「万死に値するわね、ビリーの奴」

何故か私の髪を切った犯人にされているビリー。

日頃の行いが悪いのか、どれほど人望がないのだろうと少し悲しくなりながら、今頃寮で夕食を摂っているビリーに同情した。