軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

年越しパーティー(後編)

「ケント、僕らは先に休ませてもらうね」

まだ新しい年を迎えるまでには、だいぶ時間がありますが、マノン、唯香、セラフィマの三人は先に休むことになりました。

「暖かくして休んでね」

「うん、コウタはもうぐっすりだよ」

マノンの腕の中には、僕らの愛の結晶であるコウタがすやすやと眠っています。

コウタが生まれてくる前は、僕も父さんのように愛情を感じられないのではないかと心配したこともありましたが杞憂でした。

抱き上げるだけでも壊れてしまわないか心配になる小さな命が、どうしようもなく愛おしいです。

「コウタ、おやすみ」

コウタの頬にキスをして、マノンには口づけしました。

「唯香も暖かくして休んでね」

「うん、ケントもお酒はほどほどにしてね」

「う、うん……頑張ってみる」

少し膨らみ始めた唯香のお腹をそっと撫で、口づけしました。

「セラ、本当に帰らなくてもいいの?」

「はい、今が大事な時期ですから、ヴォルザードでゆっくりさせていただきます」

セラフィマのお腹にも新しい命が宿っていて、まだ安定期に入らないので、バルシャニアへの里帰りは延期しました。

あちらは、皇帝一家として公式行事に出席しないといけませんし、新年の挨拶はタブレット越しになる予定です。

「セラも暖かくして休んで」

「はい、お先に休ませていただきます」

セラフィマにも口づけした後、そっと抱きしめて可愛いトラ耳を甘噛みしました。

「んくっ……ケント様」

セラフィマに上目遣いで睨まれちゃいました。

「ごめん、ちょっと酔ってるのかも……」

「ほどほどになさって下さいね」

「うん、お休み」

「お休みなさいませ」

三人を見送って、年越しパーティー会場へ戻ると、だいぶカオスな状況になりかけていました。

カミラとベアトリーチェは、アンジェお姉ちゃんと女子会状態です。

というか、カミラが主に話しているみたいなので、もしかすると王族の心得みたいなものを教わっているのかもしれませんね。

でも、アンジェお姉ちゃんだって貴族としての振る舞いは教わっているでしょうから、バルシャニアに嫁いでも大丈夫だと思うけど、皇妃ともなるとレベルが違うのでしょうか。

少し離れた所では、マリアンヌさん、アマンダさん、それに美香さんが何やら盛り上がっている様子です。

ザ・女帝という感じで、あそこに加わると思いっきり駄目出しを食らいそうなので、クラウスさんと唯生さんの所へ戻ろうと思ったのですが、マリアンヌさんに見つかってしまいました。

「ケントさん……」

にっこり微笑んで、おいでおいでをされてしまったら、行くしかないですよねぇ……。

「飲み物やおつまみは足りてますか?」

「ええ、大丈夫よ。ケントさんも一緒にいかが?」

「はい、いただきます」

こうした場合、お姉さま方には逆らわないのが鉄則です。

マリアンヌさんに注いでもらったお酒を口元にもっていくと、燻製のような香りを感じました。

「これは……なんだか煙っぽいような……」

「ふふっ、でしょう。ちょっと癖があるけど、飲んでいると美味しくなってくるのよ」

「うん、なんだか大人の味がします」

「ケントさんの歳で、それが分かるなら大したものだわ」

マリアンヌさんの言うとおり、癖の強いお酒ですが、味わっていると深みというか、奥行のようなものを感じます。

焚火を囲み、干し肉を齧りながら、このお酒を飲んでみたくなりました。

「ケントさん、今年も一年お疲れさまでした」

「こちらこそ、お世話になりました」

「本当にケントさんは謙虚よねぇ……史上最年少のSランク冒険者で、数々の偉業も成し遂げていたら、普通なら後ろに倒れそうなぐらい踏ん反り返っているものよ」

「いやぁ、僕はそういうの似合わないと思うんで……」

「この前は、あたしの店の煙突掃除までやってくれたんだよ」

アマンダさんが、煙突掃除のおじさんがギックリ腰で動けなくなり、困っていたから助けただけなんですよね。

「本当に、唯香は良い人と結ばれたと思うわ」

いやいや、美香さん、それは買いかぶりってもんです。

「いやぁ、唯香には怒られてばっかりですよ」

「あの子、長女の割にはおっとりしてないのよねぇ……」

「それは僕が頼りないからだと思いますよ」

「とんでもない! ケントさんが頼りなかったら、この世に頼りがいのある男なんて居なくなっちゃうわよ」

「そうだよ、うちの店に初めて来た時は、なんて頼りない子だろうって思ったけど、今じゃ立派に一家の大黒柱になったじゃないか」

「そうですかねぇ……」

「自覚が無いところが、健人さんの良いところね」

いやぁ、女帝の皆様から揃って褒められるなんて、後が怖いんですけど。

でも、アマンダさんに褒められるのは嬉しいですね。

「僕が、ちょっとは見られる男になれたんだとしたら、それは周囲の皆さんが教え導いてくれたからです。僕一人では、何も成し遂げられなかったと思います」

「はぁ、五人も嫁を貰うなんて聞いた時には、ちょっと心配もしたけれど、取り越し苦労だったみたいだね」

アマンダさんに、くしゃくしゃっと頭を撫でられると、なんだかヴォルザードに来た頃に戻った気がします。

「健人さん、これからも唯香をお願いしますね」

「はい、来年には子供も生まれますし、唯香も不安だと思うので、支えになってあげたいと思っています」

「ケントさん、ヴォルザードもよろしくお願いしますね」

「はい、ここは僕の家族や友人が暮らす大切な街です。守っていきますよ」

ヴォルザードだけでなく、リーゼンブルグやバルシャニアも守るつもりでいますけどね。

「頼もしいねぇ、ついでにうちの娘も貰っておくれよ」

「メイサちゃんは、まだまだこれからですよ。きっと素敵な出会いが待っていますよ」

「それじゃあ、売れ残ったら貰っておくれ」

「売れ残ることは無いと思いますけど、変な男を連れてきたら、とっちめてやりますよ」

「それじゃあ本当に売れ残っちまうよ」

「でも、ろくでもない男なんかとは結婚させませんよ」

「そうだね、売れ残ったら貰ってもらえるんだから、しっかり見極めてもらおうかね」

メイサちゃんは、可愛い妹ですからね、チャラ男とかゲス男になんか渡しませんよ。

珍しくお説教されずに女帝たちから解放されたので、ようやくクラウスさんたちの所に戻ったら、アウグストの兄貴が酒の肴にされていました。

「おぅ、戻ってきたな。ケント、お前から見てアウグストはどうだ?」

「どうだと言われても、本当にクラウスさんの息子かと疑うくらい真面目ですよね」

「私は、そんなに真面目じゃないぞ」

確かに、だいぶ柔らかくなりましたけど、クラウスさんと比べたらねぇ……。

「でも、昼間から酒飲んだりしないですよね」

「そんな事はしないぞ」

アウグスト義兄さんは、そう言うとクラウスさんに視線を向けました。

「タダオ、昼間の酒が美味いんだよな?」

「クラウス、それは思っていても口に出す場面じゃないぞ」

「ケント、まさか父上は本当に昼間から酒を飲んでたりするのか?」

「さすがに毎日じゃないでしょうけど、さらっと勘定を押し付けられたこともありましたね」

「ば、馬鹿野郎、あれはアドバイス料だろう……てか、酒の一杯二杯で痛むような懐してねぇだろうが」

「まぁまぁ、そうですけど、アウグスト義兄さんは呆れてますよ」

「アウグスト、毎日昼間から酔っぱらってなんかいねぇぞ。きっちり仕事はやる、一杯やるのは余裕がある時だけだ」

「分かってます、年明けからは私も一緒に仕事しますから、しっかり見させてもらいます」

年明けからはアウグスト義兄さんが、家督を継ぐ準備に入るそうですから、監視の目が増えることになりますね。

「まったく、ケントのせいで俺の楽しみが減っちまったじゃねぇか」

「大丈夫ですよ。アウグスト義兄さんが仕事するようになれば、仕事が早く片付くようになって、明るいうちから飲めるようになりますよ」

「おぅ、そうか、そうか、だったら早いところ仕事を覚えてもらわないとだな」

「義兄さん、ゆっくりで良いそうですよ」

「ははっ、そうさせてもらうよ」

「お前ら、年が明けたら扱き使ってやるから覚えてろよ」

今年も笑いの絶えないパーティーで一年が終わっていきます。

新しい年も、良い年になりそうです。