軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大掃除(メイサ)

※今回はメイサちゃん目線の話です。

年の瀬が近づいて来た。

我が家の食堂も、年末年始には休みになる。

年内の営業は昨日で終わり、今日は大掃除をする予定だ。

普段から掃除はしているが、年に一度、徹底的に掃除して、綺麗な店で新年を迎えるのが、うちのお母さんのモットーなのだ。

「アマンダさん、いるかい?」

大掃除に準備を整えていると、裏口からお母さんを呼ぶ声がした。

「はいよ……おや、ローラさんじゃないかい、どうしたんだい?」

「申し訳ない、実はうちの旦那がギックリ腰をやっちまって、動けなくなっちまったんだよ」

「おやまぁ……この年の瀬に大変だねぇ」

「今日は、ここをやる予定だったんだろう?」

「そうだけど、ギックリ腰じゃ仕方ないさ。また年明けにでも頼むと思うから、お大事にしておくれ」

「すまないねぇ、毎年御贔屓にしてもらっているのにさ」

「いいさ、いいさ、別に今すぐ詰まるって訳でもないから大丈夫だよ」

「本当に、すまないね……」

ローラさんの旦那さん、アドモスさんは煙突掃除屋だ。

毎年、年内最後の営業を終えた翌日に、掃除に来てもらっている。

うちは魔道具のコンロも使っているけど、薪を使った竈もつかっている。

竈の他に、暖炉でも薪を燃やしているので、煙突には煤が溜まる。

掃除をしないでいると、煤が積もって煙突の抜けが悪くなったり、何かの拍子で煤の塊が落ちてきて、部屋中が煤だらけになったりする。

料理を出す商売で、店の中が煤だらけになってしまったら、それこそ商売あがったりになってしまうので、定期的に掃除を頼んでいるのだ。

今日は煙突掃除をしてもらい、部屋に舞った煤を含めて、天井から床まで綺麗にするはずだったのだが、予定が狂ってしまった。

「お母さん、どうするの?」

「さて、どうしたもんかねぇ……」

新年を迎えるのに店は綺麗にしておきたいが、年明けの営業前に来てもらえるなら煙突掃除を頼みたい。

そうなると、もう一度大掃除をすることになってしまう。

どうせ二度手間になってしまうなら、年内の掃除は諦めて、煙突掃除が済んでから大掃除を……といかないのが、うちのお母さんなのだ。

「あぁ、やっぱり気分がスッキリしないから、掃除だけでもやってしまおうかね」

「でも、二度手間になるかもよ」

数年前のお母さんなら、迷うこともなく掃除を始めていただろうが、私の指摘に迷った様子を見せたのは、それだけ年を取ったからかもしれない。

「いや、やるよ! 掃除しないで新年なんて迎えられないよ!」

「まぁ、そう言うと思った。じゃあ、テーブルとか運んじゃおうか」

年に一度の大掃除だから、店のテーブルや椅子も全部外に出して、徹底的に掃除するのだ。

運び出しを始めようと思ったら、また裏口から声が聞こえてきた。

「こんちは! 煙突掃除の御用はありませんか!」

「ケント!」

裏口から我が物顔で入ってきたのは、元下宿人のケントだ。

たぶん、コボルト隊の誰かが知らせたのだろう。

自然に体が動いて、飛び付いてしまった。

「うわぁ、危ないよ、メイサちゃん」

「ケント、煙突掃除してくれるの?」

「掃除屋さんがギックリ腰だって聞いたんだけど」

「そうなの、でも、ケント煙突掃除なんて出来るの?」

「はっはっはっ、Sランク冒険者なんだよ。煙突掃除なんて簡単、簡単」

そう言うとケントは、どこの煙突を掃除するのか、お母さんと相談を始めた。

「要するに、厨房の煙突と暖炉の煙突の内側に積もった煤を落とせば良いんですね?」

「そうだけど、大丈夫なのかい?」

「まぁまぁ、パパっと片付けちゃいますから、ちょっと待ってて下さい」

そう言い残すと、ケントは影の中へと沈んで行った。

ケントは全ての属性の魔法が使えるが、中でも闇属性の魔法を得意にしている。

影に潜って遠くまで移動したり、影の中から敵を偵察したりするらしい。

ケントが影に潜って暫くすると、ぶぉぉぉぉ……っと風が吹き抜けるような音が聞こえてきた。

音は煙突の中から聞こえてくるようだ。

普通の煙突掃除は、屋根の上の煙突の出口から、重りとロープを付けたブラシを使って煤を落とす。

竈や暖炉に煤が落ちてきて、家の中が煤だらけになるのだが、煤が舞う気配は無い。

緊急事態なので、ケントの申し出を受け入れたものの、お母さんは心配そうな顔をしている。

煤がドバっと落ちてきやしないかと、暖炉の中を覗き込んだりしているが、どうやら中は見えなくなっているらしい。

煙突掃除のアドモスさんは、うちのお母さんよりも年上に見えるし、毎年掃除が終わるまで半日ぐらいは掛かるのだが、ケントは一時間ほどで戻って来た。

「アマンダさん、終わりましたよ」

「もう終わったのかい?」

「えぇ、煤は根こそぎ落としちゃいましたよ」

掃除が済んだという暖炉の中をケントが明かりで照らしたので覗いてみると、煙突のレンガの地肌の色が見えるほど綺麗になっていた。

「こりゃまた、ずいぶん綺麗にしてくれたね」

「魔法を使えば、そんなに手間じゃないですよ」

「いやぁ、助かっちまったよ。煙突掃除をすると煤が舞うからね。大掃除が二度手間になるのも仕方ないと諦めてたんだよ」

「アマンダさんの付き合いもあるでしょうけど、やっぱり新年は気分よく迎えたいですよね」

「あぁ、これで気持ち良く新しい年を迎えられるよ」

「肝心の大掃除はこれからなんでしょ? どうせだから手伝いますよ」

「いいよ、もう下宿人じゃないんだし」

「まぁまぁ、遠慮しないで下さい。援軍は一杯いますから」

ケントがそう言うと、影の中からひょこひょことコボルト達が姿を現した。

マルト、ミルト、ムルトだけでなく、ぞろぞろと出て来てテーブルと椅子を運び始めた。

「アマンダさん、天井の煤掃いもするんですよね?」

「いいのかい?」

「任せておいて下さい」

天井の煤を掃う者、壁にはたきを掛ける者、戸棚の上を拭く者、床を掃除する者。

店のフロア、厨房、二階に上がる階段、二階の部屋まで、コボルト達が一斉に動き回って、あっと言う間に大掃除を終わらせてしまった。

「あぁ、どこもかしこもピカピカじゃないか、有難いねぇ……」

「アマンダさん、今年は年越しのパーティーを我が家で開きますから、メイサちゃんと一緒に泊りがけで遊びに来てくださいね」

「何から何まで、本当に有難いねぇ、あたしは良い息子を持ったよ」

お母さんの目が、ちょっと潤んでいるように見える。

「メイサちゃんは、ちゃんと宿題を終わらせて来るんだよ」

「分かってますぅ、せっかく遊びに行くんだもん。ケントの家で宿題なんかやりたくないからね」

「そうそう、美緒ちゃんも、フィーデリアも楽しみにしてるからね」

ケントは、私の頭をポンポンとしてから、影に潜って帰っていった。

「おかあさん、楽させてもらっちゃったね」

「ホントだよ。これまで下宿させた中では、ダントツの出世頭だからね」

「じゃあ、私は上で宿題やってるからね」

「おやおや、雪でも降るんじゃないかい」

「降りません! 私だって、いつまでも子供じゃないんだからね」

「そうだね。楽しい休みのためだ、頑張りな」

たぶん、お母さんは食器を磨いたり、流しを磨いたり、まだこちゃこちゃと掃除を続けるのだろう。

それでも、ケントのおかげでお母さんに楽をさせられた。

年越しのパーティーの時には、ちゃんとお礼を言わないと……立派なレディーとして。