軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新春企画『ラスト・・・・』(中編)

〇新田和樹の場合

ヤバいことになった。

これで負けたら、ラスト・モテない……だから綿貫に相談するのは嫌だったんだ。

やってやらぁ……なんて威勢よく叫んでみたものの、まるで勝算が無い。

しかも、今回は同じ痛みを分け合っていた古田が、隣にいないどころか対戦相手なのだ。

「くそっ、綿貫のやつ、きっちり退路まで断ちやがって……なにが、ここで勝負から逃げたらモテないだよ……」

古田と互いにベストを尽くすと握手して、なんか勢いでシェアハウスを飛び出してみたものの、何をして良いやら、どこへ行けば良いやら、全く当てが無い。

古田が街の中心部の方へ向かったので、流れで街の外に向かって歩いてみたものの、すぐに城壁にぶつかった。

「いっそ国分に……頼るのは違うよなぁ……」

異世界に残ったクラスメイトの中で、一番女運に恵まれた男の家を訪ねかけたが、思い直して城壁の上へ登った。

城壁の上からは、国分の家の庭などが見渡せる。

家の中とかプライベートな空間は、巧みに見えないようになっているが、眷属達が寛ぐ様子が見られるので、連日見物人が訪れている。

「今日はコボルトちゃんが少ないなぁ」

「どこかでお仕事してるんだろう」

「ネロは相変わらず寝てばっかり」

「あそこ、暖かそうだもんな」

いつの間にか、国分の眷属まで街の人間に知られるようになっているらしい。

ネロと一緒に寝ていた黄色い毛並みのデカい猫が、ピクっと首をもたげて俺の方を見たので、しっしっと手を振ると、ニヤっと笑って寝直した。

「あいつ、俺までオモチャだと思ってやがるな……オモチャは八木だけにしとけ……」

レビンとトレノのコンビには、魔の森の訓練場で何度かオモチャにされた事がある。

日本に居る頃、猫と遊んだ経験はあったが、猫に遊ばれたのは初めてだった。

本気じゃないと分かっているけど、マジになったらどうしようと肝を冷やしたものだ。

国分の家を通り過ぎると、すぐにラストック方面に向かう門に辿り着く。

国分の家の眷属たちは、家を守るだけでなく街も守っているのだろう。

「平和になったよなぁ……」

まだ日暮れまでには間があるとは言え、門は大きく開かれて、徒歩で出入りしている人が数多く見受けられる。

俺が初めてヴォルザードに辿り着いた頃は、門は一日中固く閉ざされたままだった。

それほど門の外には危険な魔物が闊歩していて、森に入るのは命懸けだったのだ。

今でも森の中心部には、オークやオーガ、そして時にはロックオーガも姿を見せるが、魔物だって学習するし、自分の命は可愛いらしく、街道の方には出て来なくなっている。

おかげで隣国リーゼンブルグのラストックとの交易も盛んになり、俺たちも護衛の依頼で楽して稼がせてもらっているのだが……。

「なんか、ヒリヒリしねぇんだよなぁ……」

口の中で詠唱を呟き、遠く離れた木を目掛けて軽く手を振る。

離れた場所で魔法を発動させる方法を、やっとこさ体得できた。

国分のバカに教わった時は、ヒュっとやってズバっだよ……なんて、本当に頭の悪い説明しかしてくれなかったから、会得するのが大変だった。

先に物にした近藤にも聞いて、それこそ中二病のガキみたいに変な動きまでやってみたりして、どうにかこうにか出来るようになったのに、一度も実戦では使っていない。

魔物が出なくなっても、魔の森の中を進む街道には山賊が出ない。

理由は、街道から見つからない場所に潜んでいると、魔物に襲われるからだ。

街道の近くから魔物は消えても、依然として森の中は魔物のテリトリーなのだ。

なので、本当にラストックに向かう街道は平和で、折角の魔法も出番無しなのだ。

勿論、訓練は続けている。

続けてはいるが……やっぱり実戦とは違う。

正直に言うと、物足りない。

毎回、無事に戻って来られて良かったと思うのだが……これじゃあ、冒険者じゃないよなぁと思うのだ。

フラフラと歩いていたら、実戦訓練場に出た。

ヴォルザードの壁の外、別の壁で囲まれた訓練場では、本物の魔物を使った討伐訓練が行われている。

守備隊の隊員や、駆け出しの冒険者が対象で、魔物は国分が用意しているらしい。

訓練の様子は城壁の上から見物できて、おっさん連中が賭けをやったり、いい加減な素人の駄目出しなんかをやってたりするのだが、今日はその手の連中は居ないようだ。

丁度、訓練が始まるところみたいなので、ちょっと見物していくことにした。

訓練を受けるのは、駆け出しっぽい三人組、教官は……ペデルのおっさんだ。

防具の着こなしとか、身のこなしとかを見ると、本当に駆け出しのようだ。

「頑張れ……頑張れ……」

ふと聞こえてきた声の方へと視線を向けると、俺よりも年下に見える女の子が、拳を握りしめて心配そうに見つめていた。

癖の強い赤毛で、頬にはそばかすがある。

ぽっちゃりを少々超えてしまいそうな、ふくよかな体型で、美人とは言い難い。

それでも自分が今置かれている状況が状況だけに、駆け出し三人の誰か一人がリア充かと思ったら、ちょっとムカついてきた。

とは言え、失敗しろとまでは思わない。

訓練とは言っても本物の魔物が相手だし、ちょっとの油断が大怪我や死に直結するからだ。

「舐めてかかるんじゃねぇぞ。そこのゴブリンは強ぇぞ」

心の中で三人組にエールを送る。

ここのゴブリンは、魔の森の奥から国分が厳選して連れて来る個体ばかりだ。

ゴブリンではあるが、上位種になりかけみたいな手強い奴ばかりで、俺も魔の森の訓練場で何度も苦労させられた。

その上、全体を見渡せる所から見ているから良く分かる、良く分かってしまうのだ。

「ちっ、こいつはヤバいな……」

訓練場に出て来たゴブリンは、最初こそ怯えた表情を見せていたが、駆け出し三人の動きを見ているうちに余裕をかまし始めた。

「駄目だな……腰が引けちまってる」

対する駆け出し冒険者は、ゴブリンからの思わぬ反撃を受けて、すっかり腰が引けてしまっている。

ペデルのおっさんから指示が飛ぶが、腰が引けているから反応が遅い。

「こりゃ、ちょっと無理っぽいな……」

「何なんですか、さっきから!」

「えっ……?」

怒鳴り声に驚いて目を向けると、駆け出し冒険者を応援していたポチャ子が、ただでさえ丸い頬を膨らませて、涙目で俺を睨みつけていた。

「悪いな、声に出てたか。というか、こっち見てないで、応援してやれ」

訓練場を指差すと、ポチャ子はハッとした表情で視線を変えた。

その訓練場では、いよいよ最終局面を迎えていた。

といっても、ゴブリンはピンピンしていて、反撃を受けた駆け出したちの心が折れかけているのだ。

腰が引け、連携が取れず、翻弄され、反撃され、動きが鈍くなっている。

「あっ、ヤバっ……」

動きが鈍ったことで、分断された一人が訓練場の奥で孤立した。

しかも、足をもつれさせて派手に転びやがった。

駆け出し冒険者の首筋に、ゴブリンの牙が迫る。

「打ち据えろ! うらぁ!」

遠隔で発動させた風の拳で、ゴブリンの顔面を思いっきり殴り飛ばす。

こいつは遠隔で魔法を発動させる途中で手に入れた、俺のオリジナル魔法だ。

不意打ちを食らってゴブリンの体が吹っ飛ぶが、魔物はこの程度では殆どダメージを受けない。

この魔法は対人用の非殺傷魔法として使おうと思っているものだが、今は良い具合に嵌まった感じだ。

正体不明の攻撃を受けたゴブリンは、駆け出しから距離を取って警戒している。

ペデルのおっさんがこちらを振り返っていたので、手を振って続けてくれと合図しておいた。

「あ、あの……今のって、あなたがやったんですか?」

「まぁ、手出しするのは駄目なんだろうが、結構ヤバかったからな」

「凄いです……こんなの初めて見ました……」

さっきは怒りに満ちた目を向けていたポチャ子が、今はキラキラした目で俺を見詰めている。

うーん……ポチャ子は、あんまりタイプじゃないんだけどなぁ……。