軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

年末企画『ラスト・・・・』(前編)

〇古田達也の場合

「和樹、分かってるよな?」

「な、何がだよ……」

新田はとぼけてみせるが、明らかに動揺している。

「国分にも子供が生まれて、近藤は……」

「止めろ! 止めてくれ!」

「もう年越しまで一ヶ月を切っているのに俺たちは……」

「嫌だ! 聞きたくない!」

「そうやって耳を塞いで、また寂しい新年を迎えるつもりか!」

「達也だって同じだろう! まさか、お前……」

新田の顔から、サーっと音を立てるように血の気が引いていく。

「そうだったら、こんな話を切り出したりしねぇよ……」

「だよなぁ! 達也に限って、そんな事はあり得ねぇよなぁ」

俺に彼女ができていないと確認すると、新田は勝ち誇ったような顔をしたが、何も、どこも、勝ってねぇからな。

「なにニヤニヤしてんだよ。和樹だって同じだろう」

「まぁな……てか、この不毛な話は止めにしないか?」

「だから! それじゃ何も変わらないだろう」

「そう言われても……何か方法があるのかよ」

「恥を忍んで、スーパーバイザーに相談しようかと……」

「綿貫か……でも、これまで相談しても上手くいってねぇじゃん」

「それは、俺らが下手打ってるからじゃね?」

「まぁ、そうなんだけどよ」

綿貫のアドバイスは的確なんだが、辛辣でもある。

意外とチキンハートな新田にとっては、心抉られる時間が嫌なのだろう。

「まぁ、仕方ねぇか……」

「そんじゃあ、そろそろ帰ってくるだろうから、リビングにいようぜ」

「おぅ……」

シェアハウスの同居人である綿貫早智子は、俺らと同級生であり、シングルマザーでもある。

昼間はシェアハウスの管理人を兼ねている、鷹山の嫁シーリアに子供を預けて、自分はかつて国分が下宿していた食堂に働きに行っている。

何て言うか、同じ歳なのに大人びていると言うか大人なのだ。

これまでにも何度か相談に乗ってもらっているが、上手くいっていないのは俺たちがアドバイスを守れていないからだ。

だが、そろそろ俺たちも追い詰められているので、今度こそは背水の陣で臨もうと思っている。

「はぁ……またなの?」

俺が相談を切り出すと、綿貫は心底呆れたように溜息をついた。

新田のテンションもダダ下がりだ。

「いや、そこを何とか頼む。俺らも追い詰められてるし」

「自覚があるなら足掻くしかないんじゃないの?」

「そうは言うけどよ。国分にも子供が生まれて、近藤はあの調子だから、いつ子供が出来てもおかしくないし、すると俺らは更に置いていかれるじゃないか」

「まぁね……でも、貴子も碧も相手いないじゃん。別に気にしなきゃいいんじゃない?」

シェアハウスに同居している相良貴子と本宮碧にも恋人はいないと聞いている。

だったら、そいつらとくっ付けば良いじゃないかと思うかもしれないが、せっかく異世界に残っているのに相手が同級生というのは違う気がするのだ。

「そうだけど、男で残ってるのは俺らだけじゃんか」

「別にヴォルザードの男は……あぁ、こっちの連中は結構早いのか」

綿貫が言うように、ヴォルザードでは十五歳になると同時に結婚して、所帯を持つ例も珍しくない。

これは魔の森の危険度が今よりもずっと高かった頃は、男が早死にするケースが多かったので、生きてるうちに子孫を残したいという思いから、早婚が多くなったらしい。

結婚が早いということは、当然恋愛する年齢も早く、俺や新田みたいな恋愛童貞の方が珍しいようだ。

「てかさ、あんたらは二人で一緒にいるのが駄目なんじゃない?」

「「あっ!」」

俺と和樹は、雷に打たれたみたい顔を見合わせた。

「「お前のせいか!」」

「ユニゾンか!」

綿貫に突っ込まれるぐらい、台詞もタイミングも思いっきり被った。

「そうか、和樹、お前がガンだったんだな?」

「はぁぁ? お前が俺の足を引っ張ってんだろう」

「待った、待った、そうじゃないわよ。モテない度合いはどっちも一緒。モテない男が二人でいるのが駄目って言ってるの」

「「ふぐぅ……」」

綿貫の言葉が鋭利な刃物のように、俺たちの心に突き刺さる。

だが、ここで挫けていたら先には進めないのだ。

「それって、俺と和樹で、モテない度合いが倍になるってことか?」

「違うわね、倍じゃなくて二乗ね」

「ぐぉぉ……二乗」

「倍じゃなくて四倍かよ……」

俺たちが更なるダメージに呻いているのに、綿貫は手を緩めるつもりは無いようだ。

「違うわね」

「違う? なにが違うんだよ」

「そうだよ、俺らバカだけど、二掛ける二は四ぐらい計算できるぞ」

「違うわよ、あんたらのモテない度合いは、どんなに少なく見積もっても五、普通に考えるなら七か八よ」

「げぇ……ってことは」

「四十九倍から六十四倍……だと」

「百四十四倍かもよ」

「「ぐはぁ……」」

止めてくれ、もう止めて……俺らのHPはゼロだ。

「モテない男が二人いて、互いに同意を得ようとすれば、モテない結果に繋がるのは当然よね」

「でもよぉ、一人になったところで、モテないのは同じじゃ……」

「止めろ、達也! もう、止めてくれ……」

新田の精神が崩壊しかけているように見える。

「だからさ、あんたら二人で競うのよ」

「「競う……?」」

「そう、どっちが先に彼女を作るのか」

俺と和樹は、ゴクリと唾を飲み込んだ後、視線をぶつけ合った。

「いいだろう、和樹、手前にだけは絶対負けねぇからな!」

「そうはいくかよ、達也、お前の可能性は全て俺が消し去ってやる」

「笑わすな、お前の黒歴史を俺がどれだけ知っていると思ってんだ!」

「ばっ、馬鹿野郎、手前がその気なら……」

「はいはい、醜い争い止め! なんでそうなるかな、争うんじゃなくて競うんだよ。ボクシングのタイトルマッチの会見で、爽やかなコメントとイキりコメント、どっちがモテるよ」

「あっ、そうか……」

「爽やかな方が女子受けは良いよな」

「でしょ? 競うのは正々堂々スポーツマンシップに則ってだよ」

「分かった。和樹、もしお前が先に彼女を作っても、俺は血涙流しながら祝福してやるよ」

「ありがとう、達也、お前とのモテない日々は、全消去させてもらうよ」

「手前ぇ、なに勝った気でいるんだよ」

「いやぁ、勝負は目に見えているからさ」

「そう言って負けていくとか、恥ずかしいよなぁ……」

「なんだとぉ……」

「なんだよ……」

「はいはい、また醜くなってんよ」

額を突き合わせてのメンチの切り合いになったところで、綿貫が手を叩いて俺らを止めた。

「一つ言っておくよ、女は格好良い男を選び、醜い男を嫌う、これは絶対の真理だからね」

「「ぐぉぉ……」」

「相手の足を引っ張ることを考えるんじゃなくて、どれだけ相手よりも格好良く振舞えるか考えなよ。でないと……負けたら、ラストモテないだからね」

「なっ、なん……だと」

「ラスト……モテない」

「にしししし……」

いやいや、綿貫、なにを楽しそうに笑ってやがる。

まだ負けた訳じゃなのに、背中が嫌な汗でビッショリだ。

和樹に視線を向けてみれば、額に冷や汗を浮かべている。

一瞬、この勝負は取りやめにすべきじゃないかという考えがよぎった。

「あぁ、ここで勝負から逃げちゃうような男は……モテないよねぇ」

「「ぐはぁ!」」

追い詰められた。

さっきまで、追い詰められたと思っていた気持ちは、スカイツリーの安全な展望台から地上を眺めているようなものだったが、今はバンジージャンプ台の上にロープ無しで立ってる気分だ。

「ま、負けねぇよ……やってやらぁ!」

和樹が震える拳を握り締めて雄叫びを上げた。

ここで応えなかったら男じゃないだろう。

「やってやんよ! 和樹、勝っても負けても恨みっこ無しだ!」

「おうよ!」

年の瀬を控えたシェアハウスのリビング、今この瞬間から俺と和樹のラストバトルの幕は切って落とされた。