軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閉幕

エルマネアの軍勢を追い払い、元の国境線まで押し戻したヨーゲセンの軍勢は、そこで進軍を止めました。

自国の領土を回復したのも要因の一つですが、ヨーゲセンの軍勢が勢いに乗って領土拡大を目論むと、どこからともなくギガウルフの遠吠えが聞こえてきて、天空では電光をまとった巨大な猫が

駆け回り、兵士たちが恐れをなして進めなくなったというのが一番の理由のようです。

『ここで止めてしまってよろしいのですか、ケント様』

「ラインハルトは、もっと攻め込ませた方が良いと思っているの?」

『その方が魔筒という優位性を持つ、エルマネアの力を削げるのではありませんか?』

「そうかもしれないけど、元の国境線を超えて攻め込めば、今度はエルマネアの民衆の反発を買うんじゃない?」

『それは間違いありませんな』

「戦争を終わらせるには、どこかで基準を決めないといけないし、それならば元の国境線に戻すのが後腐れが無くて良いと思ったんだ」

『そうですな、手打ちにするには一番妥当なラインですな』

国境線が元の位置に戻ったところで、あとは当事者同士の話し合いで何とかしてもらいましょう。

『ケント様、エルマネアの王城の偵察が終わった……』

「フレッド、どこか良い建物はあった?」

『バラズノフが命じて建てさせている館がある……』

「それは新築ってことだよね?」

『新築……』

「てことは、歴史的な価値はほぼ無いってことだよね?」

『その通り……ドーンしても問題無し……』

エルマネアによる侵攻を阻止し、最後の総仕上げは、鹵獲した魔大筒を使っての国王バラズノフゆかりの建築物の破壊です

その計画を実行に移すにあたって、ドーンしても人的被害が出ないで、かつ歴史的な価値の無い建物を探してもらいました。

建設中の建物ならば、時間さえ見計らえば、人が巻き込まれる心配もないでしょう。

加えて、国王バラズノフの命令で建設中ならば、見せしめ的な意味でも持って来いです。

「じゃあ、その建物を目標にするから、丁度良い発射地点を探しておいて」

『りょ……』

フレッドが大魔筒の発射地点を探しに向かうと、入れ替わるようにバステンが戻ってきました。

『ケント様、ナラーゾが捕まりました』

「フェルシアーヌに到着したの?」

『いいえ、フェルシアーヌへ向かう途中で、野盗のような連中に捕まったようです』

「野盗?」

『はい、エルマネアがキリアを占領下に置いたために、取り締まり活動が停止してしまい、結果として野盗が増えてしまったようです』

「なるほど、色んな所に影響が及んでいるんだね」

元々キリアは、ギガースの襲撃によって多くの公共機関がストップした状況だったようですが、エルマネアによる実行支配が悪化に拍車をかけたようです。

「ちょっと様子を見に行こうか?」

『ご案内いたします』

「でもさ、ナラーゾは護衛を付けていなかったの?」

『勿論付けていましたが、フェルシアーヌへ逃亡する予定だったので、最低限の人数しか連れていなかったようです』

フェルシアーヌへの逃亡は、エルマネアに対する明確な反逆です。

キリアを通って、フェルシアーヌへ向かう理由を納得させられる人数も限られていたのでしょう。

「頼む、助けてくれ! 俺の頭の中には魔筒の設計図が入っている。そいつを使えば、いくらでも

金を稼げるようになる」

バステンに案内された場所では、ナラーゾが命乞いの真っ最中でした。

「魔筒ってのは、エルマネアの連中が使っていた、弾を飛ばす兵器のことか?」

「そうだ、あれは魔力の少ない人間でも、凄腕の魔導士を倒せる武器だ」

「お前が考えたのか?」

「そうだ、俺が考えた」

「そうか、俺の家族は魔筒で殺された」

「ま、待ってくれ。俺はそもそも狩猟や国の守りを固めるために……」

ナラーゾが喋り終える前に、野盗らしき男が剣を振り下ろしました。

「いぎゃぁ! うわぁ……血がぁ……」

野盗の剣は、お世辞にも切れ味が良いとは言えないレベルだったようで、首の骨を断ち斬れず、

ナラーゾは道端に倒れ込んで藻掻いています。

「うるせぇ、さっさと死ね!」

「ぐぁ……やめぇ……いぎゃぁ……」

ナラーゾは野盗の男に滅多斬りにされ、ズタボロ、血塗れの状態で事切れました。

野盗の男は、動かなくなったナラーゾの首に剣を叩き付け、苦労して頭を切り落としました。

「ミラーナ、ルード……カーニャ、仇は討ったぞ……おぉぉぉぉ!」

野盗の男はナラーゾの首を掲げて雄叫びを上げましたが、それって仇討ちになるのかな。

『ケント様、理不尽に戦乱に巻き込まれて家族や友人を亡くした者は、誰であれ敵国の人間を殺すことで仇を討ったような気になるものです』

「バステンの言うことも分かるけど、それが戦乱が続く理由のような気がするよ」

『はい、私もそう思いますが、理性では分かっても感情は納得してくれないものです』

「そうだよね……」

僕だって、けっして親しくなかった船山が死んだ時には、怒りで我を忘れてカミラを殺そうとしました。

あの船山でさえ、異世界という環境下では仲間だと思っていたのですから、もし僕の家族が殺されたりしたら、冷静でいられる自信はありません。

「ナラーゾは、負の連鎖を断ち切る一助になったのかな?」

『どうでしょう、私欲のために大いなる負の遺産を作りあげた男ですから、この程度では負債の穴埋めには足らないでしょうね』

「バステン、ナラーゾが魔筒関連の設計図を持ち出しているはずだから、探して回収しておいて」

『了解です。野盗共の手に渡ると面倒ですからね』

ナラーゾが思いの外あっさりと退場してしまいましたので、そろそろフィナーレといきましょうか。

エルマネアの王都が夜の闇に沈むのを待って、人気の無い場所を選び、影の空間から砲を引き出して建設中の館へ狙いを定めました。

「ここで本当に大丈夫なの?」

『ぶははは、お任せ下されケント様、既に魔の森で試射を重ねてきましたから、狙いを外すことなどあり得ませんぞ』

「うわぁ、試射してきたんだ」

『弾なら、いくらでもありますぞ』

ずっとコボルト隊が楽しみにしていると思っていたのですが、すでにドーンを楽しんでいたようですね。

というか、コボルト隊の装填作業がスムーズすぎやしませんかね。

『ケント様、いつでも撃てますぞ』

「建設中の建物の近くに人は?」

『猫の子一匹いない……』

「では、では……撃てぇぇぇ!」

僕の号令と同時に、十五門の砲が一斉に火を噴きました。

間髪を入れず、更に十五門、その後更に十五門と砲による三段撃ちが行われました。

「ドーンだ、ドーン、ドーン!」

発射を終えた砲は、コボルト隊に押されて闇の盾を通り、影の空間に収納しました。

真夜中の静けさを破り連続して轟いた発射音に、エルマネアの王都で暮らす人々は驚いて跳ね起きたようです。

その中の一人が、国王バラズノフです。

「何事だ! 魔大筒を発射したのは、どこのどいつだ!」

「ご報告いたします! 建設中の新しい後宮が攻撃を受けました!」

「なんだと、館はどうなった!」

「崩壊しました……」

「バカな……」

バラズノフは急いで服を着て、砲撃があったという建設現場へと急ぎました。

王城の敷地の中にある建設現場には、真夜中だというのに、多くの兵士が集まっています。

建設中であった新しい後宮は、無残にも瓦礫の山と姿を変えていました。

まぁ、やったのは僕らなんですけどね。

「なぜだ……いったい、誰が……」

瓦礫の山となった新しい後宮の前で、国王バラズノフは崩れるように跪きました。

では、この間に最後の仕上げといきましょう。

普段バラズノフが執務を行っている部屋へと移動して、壁一面に真っ赤なペンキで殴り書きをしておきます。

『今後一切、魔筒や大魔筒は自国の防衛のみに使用すべし、他国の侵略に用いること能わず。禁を破りし時は、この国を亡ぼす!』

限られた者しか足を踏み入れられない国王の執務室の壁に書き殴った文章ですし、砲撃の直後ですから、流石に信じてくれるでしょう。

これにて、エルマネアによる侵攻作戦は幕を閉じることとなりました。