作品タイトル不明
エルマネアの内情(後編)
筋書き通りに物事を進めるためには、お膳立てが必要です。
エルマネアの王様と戦術大臣なる人物をギャフンと言わせてやるためには、連戦連勝を誇ってきたエルマネア軍敗走の知らせを聞かせるのが一番です。
そのためには、ヨーゲセンの軍隊が元の国境線まで押し返すのは当然として、ギガース騒ぎで疲弊していたところを併呑されてしまったキリアの住民の解放も必要だと思いました。
併呑された後のキリアでは、政府の主要ポストをエルマネアから送り込まれてきた者達が占め、好き勝手に法律の改正を行っているようです。
新たに送り込まれてきた役人たちによって、袖の下は当たり前の汚職天国という状況が出来上がっているみたいです。
勿論、そうした状況に反対する人達もいますが、キリアの住民は武装を解除させられ、銃で武装したエルマネアの兵士によって強硬な取り締まりを受けているようです。
という訳で、どんでん返しの転落ストーリーを味わってもらうために、キリア国内でもコボルト隊による砲、銃、弾の盗み出し作業を開始しました。
キリア国内にいるエルマネアの兵士は、もはや反抗勢力に抵抗するだけの力は残っていないと高を括っていたらしく、油断しきっていたので、盗み出しは簡単でした。
銃と砲に頼った戦術は、魔力の大きい小さいに関係無く、多くの人材を使えるメリットがありますが、砲、銃、弾が揃っていて成り立つものです。
そして、これらの品はエルマネア国内で生産されているので、無くなりました、ではすぐに新しい品物を……という訳にはいかないのです。
銃などを奪った後で、エルマネアの兵士が銃を持っていないという情報を街に流すと、待ってましたとばかりに各地で反乱が勃発しました。
キリアの民が新しい政府を立ちあげられるか分かりませんが、それでも汚職まみれのエルマネアによる隷属政府の瓦解は間違いないでしょう。
キリアの住民に捕まったエルマネアの兵士は、かなり壮絶な目に遭わされているようですが、元はと言えばエルマネアから始めたことですし、あまり助けてやろうという気にはなりませんね。
一方、ヨーゲセンとの戦線でも、我がコボルト隊は楽し……いや、奮戦を続けています。
武器の盗み出しに加えて、兵士への嫌がらせも平行して行われているようです。
バルシャニアのリーゼンブルグへの侵攻を食い止めた時と同じく、兵士への睡眠妨害が基本となります。
眠っている枕元に、突然金属製の皿が降ってきて大きな音を立てる。
熟睡していると、突然足首を掴まれて引っ張られる。
横向きで眠っていると、耳に水を入れられる。
仰向けで眠っていると、鼻に砂を入れられる。
化け物の仕業だとか、死んだヨーゲセンの兵士の呪いだとか、色々な噂が広がっていきますが、原因は分からず、兵士たちの士気はダダ下がりしました。
武器も無く、戦う気力も無く、エルマネアの兵士の一部は、降伏という選択をしています。
そして、待ちに待った知らせがエルマネアの王城へと届けられました。
「何だと! 負けただと? 貴様、寝言をほざいているのか!」
「とんでもございません、自分は前線から届けられた知らせをそのままお伝えしているだけです!」
報告に来た兵士は、床にぶつけるのではと思うほどの勢いで頭を下げ、持参した報告書を国王バラズノフに差し出しました。
差し出された報告書を引き千切るような勢いで手にしたバラズノフは、内容を一瞥するとグシャグシャに丸めて床に叩きつけました。
「なんだ、この報告書は! 突然魔大筒が無くなった? 砲弾、弾薬が無くなったから戦えませんだと! 兵士なら魔筒が無くとも戦ってみせるのが当然だろう!」
銃中心の戦術を推し進めてきておいて、その銃が無くなったら自分達で何とかしろとは、無茶振りにも程がありますよね。
その後も、突然魔大筒が破裂して味方に損害が出たとか、魔筒が暴発して撃ち手がダメージを受けたとか、魔筒の使用を拒否し始めたなど、届く知らせはネガティブな物ばかりとなりました。
当然、バラズノフの怒りの矛先は、魔筒による戦術を推し進めた戦術大臣ナラーゾへと向けられます。
「ナラーゾ、どうなってるんだ!」
「い、いや、私にも何がなんだか……」
「だったら確かめて来い!」
「はっ?」
「前線に出向いて、何が起こっているのか己の目で確かめて来い!」
「そ、そんな……」
「なんだ? 戦術大臣のくせに現場に立って作戦を練ることを拒否するつもりか?」
「いえ、とんでもございません。ただ、今は情報が錯綜しておりますから、もう少し状況が落ち着いてから……」
「馬鹿をぬかすな! こちらが劣勢になった時に、的確な判断が下せずに戦術大臣を名乗るつもりか! それとも貴様は、己の能力を偽ってその地位を手に入れたとぬかすつもりか!」
「めっそうもございません! ただちに支度を整えて、前線の視察に向かいます」
「立て直せ! 前線を押し返し、ヨーゲセンを支配下に置くまで戻って来るな!」
「ははぁ!」
ナラーゾは平身低頭した後で、王の間を後にしました。
「フレッド、ナラーゾの居場所を把握しといてね」
『りょ……というか、闇属性の魔石を腹に仕込んであるから見失いようがない……』
「なるほど、さて、これからどうするのかね」
ナラーゾは王城を出ると馬車で自分の屋敷に戻り、腹心らしき男を呼び出しました。
「バルキエ! バルキエ!」
「はい、どうされました、ナラーゾ様」
「金目の物を集めて馬車に積み込め」
「はっ? ど、どうされるのですか?」
「決まっている、逃げるんだよ」
「逃げる? なぜです?」
突然の申し出に混乱するバルキエに、ナラーゾは王城での出来事を話しました。
「そんな、戦争なんですから勝つ時もあれば、負ける時もありますよ。逃げる必要なんて……」
「原因が分かって負けるなら良い、負けた原因を取り除けば勝てるからな。だが、今回は違う」
「と仰いますと?」
「負けた原因が分からん。突然大魔筒や弾がゴッソリ無くなった……なんでだ?」
「それは……分かりません」
「そうだ、訳が分からない。訳が分からない相手に勝てると思うか?」
「それは……思えません」
「だろう、だから逃げるんだ。このまま負け続ければ、あのバカ国王は責任を全て俺に負わせるだろう。グズグズしていれば破滅するだけだ」
ただの小悪党だと思っていたら、意外にも思い切りの良い決断をするようです。
「ですが、逃げると申されましても、どこへ逃げるのですか?」
「キリア経由でフェルシアーヌへ逃げる。魔筒関連の設計図を持ち込んで、エルマネアで迫害されていたから逃げて来たと言えば、今と同じかこれ以上の生活ができるぞ」
「なるほど……」
「分かったら、支度を急げ」
「ナラーゾ様、奥方様はどうされますか?」
「置いていくに決まってるだろう」
「えぇぇぇ……」
「フェルシアーヌで若い女に乗り換えれば良いだけだ。さぁ、支度を急げ」
「は、はい……」
バルキエと呼ばれた男は不満そうな表情をしながらも、ナラーゾに命じられた逃亡の支度を始めました。
『思い切った決断のできる男だと思いましたが、クズであることに違いはありませんでしたな』
僕と一緒に成り行きを見守っていたラインハルトが、呆れたように言い捨てました。
「まぁ、他人の功績を横取りして成り上がるような奴だからね」
『こいつは、どうされますか?』
「そうだねぇ……とりあえず、どこまで逃げられるか見てみようか」
『フェルシアーヌまで逃げきってしまったら、どうします?』
「フェルシアーヌの領土に入ったところで、金目の物も魔筒関連の設計図も盗み出した上で、どんな人物なのかフェルシアーヌの人に教えてやろうかと……」
『ぶはははは……逃げ切ったと安心した所で、絶望に突き落としやるのですな?』
「これだけ多くの人を戦乱に巻き込んだんだから、その程度でも生温いんじゃない?」
『そうですな、きっちり破滅させてやりましょう』
ナラーゾに関する筋書きは出来上がりましたので、後は国王バラズノフへの仕上げを考えましょうかね。