作品タイトル不明
侵攻停止作戦(後編)
エルマネアから奪った砲は、全部で五十七門となりました。
国と国同士の戦いで使う数としては、ちょっと少ない気がしますが、まだ使われ始めたばかりという点を考えれば、こんなものなのかもしれません。
コボルト隊の活躍もあってエルマネアの侵攻は止まりましたが、既にヨーゲセンの一部は占領されています。
ヨーゲセンも敗走するエルマネアを追いかけて、押し戻そうとしたようですが、既に占領された街は城門が修復され、守りが固められていました。
「ラインハルト、ここはどうしたら良いかな?」
『とおっしゃいますと、ヨーゲセンに奪還させるのか、それともエルマネアに保持させるのか……ということですかな?』
「そうそう、どっちが良いと思う?」
『ケント様は、どちらが良いと思われますかな?』
おっと、これはラインハルトが僕に考えろと促しているのですね。
たいていの場合、ラインハルトは僕の質問に答えてくれますが、こうして考えるように促してくる場合があります。
これは、僕が考える必要があると思っているからなのでしょう。
「僕は、ヨーゲセンに奪還させてしまった方が良いと思うんだ」
『理由を聞かせてもらえますかな』
「ここは、元々ヨーゲセンの領土だった訳だよね。となれば、ヨーゲセンにとっては侵略が続いていることになり、それを解消するために戦いが続けられることになると思うんだ」
『おっしゃる通りですな。たとえ停戦の交渉が始められたとしても、侵略されている状態では話し合いもまとまらないでしょうな』
どうやら、僕の考えは正解だったようですね。
「じゃあ、ヨーゲセンが奪還できるように手を貸すとしようか」
『ちょっとお待ちくだされ、ケント様』
「あぁ、どんな手助けをするか……かな」
『いえ、そうではなく、手を貸さないという選択も考えみてはいかがですかな』
「えっ、でも占領状態が続けば、ヨーゲセンは取り戻そうとするでしょう。そうしたら、戦争が続くんじゃない?」
『その方が良い場合もありませぬか?』
僕らはエルマネアの侵攻を食い止めるために暗躍している訳ですが、戦争が続くのは今までの行為を無駄にしかねない気がします。
「戦争が続いた方が良いことなんてあるの?」
『ございますぞ、視点を変えてみてはいかがですかな?』
「視点を変える……」
僕はヨーゲセンの側に立って考えていましたが、戦争の当事者であることを考えれば、エルマネアの側からも眺めてみる必要がありますね。
「エルマネアにしてみたら、元のラインまで撤退させられたら、何の成果も無く無駄金を使ったことになるのか。だとしたら、次はより大規模に戦争を仕掛けてくるかもしれないね」
『おっしゃる通り、エルマネアにすれば撤退したら成果無しとなります。銃や砲といった武器の優位性が失われない限りで、更なる戦争を仕掛けてくる可能性はありますな』
「ということはだよ。エルマネアを撤退させた上で、ヨーゲセンに鹵獲した砲や銃を渡して研究させて、武器の優位性を無くさないといけないのか」
ヨーゲセンが自分たちと同レベルの武器を投入してきたら、エルマネアは容易に攻め込むことはできなくなるでしょう。
それは良いとして、こんどはヨーゲセンが新兵器を手に入れてしまいます。
ヨーゲセンだけに留まれば良いですが、他の国の色んな人に広まって、悪用されるようになったら厄介です。
山賊が銃で武装して……なんて考えたくないですよね。
いずれは拡散してしまうとしても、なるべく遅らせたいところです。
「武器の優位性かぁ……難しいなぁ」
『ケント様、他の見方はしないのですかな』
「他の見方? エルマネア以外の視点ってこと?」
ラインハルトは、カクンと頷いてみせました。
その他の見方となると、第三国からの視点ということですよね。
エルマネア、ヨーゲセンと一番近い国となると、フェルシアーヌ皇国です。
「フェルシアーヌとすれば、エルマネアに侵略される可能性を考えると、ヨーゲセンとの戦いが続いていてくれた方が良いのか」
『ですがケント様、フェルシアーヌはヨーゲセンから小麦を買っておりますぞ』
「あぁ、そうか、小麦が入ってこなくなったり、価格が上がる可能性を考えたら、戦争は早期に終決した方が良いのか……うーん、どっちを重視したら良いのかな」
キリアを占領し、ヨーゲセンにまで戦争を仕掛けたエルマネアとフェルシアーヌは、今のところ敵対とまではいっていませんが、いつ状況が変わるか分かりません。
ヨーゲセンとの戦いが続いている状態では、フェルシアーヌにまで戦いを仕掛ける可能性は無いでしょうが、戦争が終結すれば攻めてくるかもしれません。
そう考えると、フェルシアーヌにすればヨーゲセンを犠牲にしてでも自分たちに火の粉が飛んで来ない方が良いのでしょう。
ただし、フェルシアーヌはヨーゲセンから小麦を輸入しています。
戦争が続けば小麦が輸入できなくなったり、大幅に価格が上がる可能性もあります。
そう考えると、一日でも早い停戦が実現した方が良いとも言えます。
『どうされますか、ケント様』
「うん、エルマネアには、戦争前のラインまで撤退してもらおう。それで、この戦争を止める」
『今回止めても、武器の優位性が無くならない限り、繰り返しになるのではありませぬか?』
「武器の優位性については、色んな人の意見も聞いてみたいから後で考えるよ。今は、エルマネアを元のラインまで撤退させることに集中する」
『どうやって、ヨーゲセンを支援なさいますか?』
「うーん……一旦、街の守りを薄くして、守り切れないと思わせて撤退させようかな」
『守りを薄くする?』
「まぁ、ちょっと見ていてよ。そうそう、コボルト隊に命じて、エルマネアの連中から弾薬を奪っちゃって」
『了解ですぞ』
影の空間から覗き見ている街では、城壁と門を挟んで、占領したエルマネアと奪還を目論むヨーゲセンの軍勢が睨み合っています。
門の上には運び上げた砲も置かれていますし、ズラリと並んだエルマネアの兵士が銃を構えているので、ヨーゲセンの側も迂闊に攻撃できないようです。
「わふぅ、ご主人様、弾いっぱい取ってきたよ」
「おぅ、ありがとうね。それでは、戦局を動かすといたしましょかね……送還!」
城門を中心として、幅五十メートルほどの城壁を元の城壁の外側に沿わせるようにして移動させました。
少し浮かせて移動させたので、城壁が着地した衝撃で地響きが起こりました。
それまで門を含めて城壁があった部分が、ぽっかりと口を開けて内部の様子が丸見えです。
「な、なんだ……どうなってる!」
「い、今だ、突っ込めぇ!」
一瞬の空白の直後、ヨーゲセンの軍勢が街に向かって突っ込んで行きました。
「どうなってんだ!」
「撃て、とにかく撃てぇ!」
「弾ぁ、弾が無い!」
「こっちもだ、弾をくれ!」
突然の城壁消失に混乱しつつも、迎撃のため射撃を始めたエルマネア兵士たちは、あっと言う間に弾切れに陥りました。
手元に置かれていた弾薬箱の中身は、コボルト隊が影の空間経由で回収済みです。
更には、後方の弾薬置き場からも、コボルト隊が弾を運び出しているので、補給は出来ない状態です。
「駄目だ、逃げろ!」
「くそっ、弾が無ければ、ただの筒かよ!」
エルマネアの兵士が投げ捨てた銃は、これまたコボルト隊が回収しています。
どのくらいの時間睨み合っていたのか知りませんが、僕が城壁を移動させた後は一時間もしないで勝負は決したようです。
『ぶはははは、城壁が一瞬で移動するなんて、エルマネアの連中はさぞや肝を潰したことでしょうな』
「これが一番手っ取り早いと思ったんだけど……それでも死者を出さずに解決という訳にはいかなかったけどね」
『死人をだしたくないなら、そもそも戦争など起こすべきではない……とは言え、末端の兵士は命令に従うしかありませぬし、こうしている間もエルマネアの国の中枢は、何の痛みも感じておらぬのです』
「そうだね、フレッド達の報告を待って、エルマネアの中枢にドーンしに行きますか」
『ぶははは、良いですな。思い切りやってやりましょう』
「わふぅ、ドーンだ、ドーン、ドーン!」
エルマネアのヨーゲセンへの侵攻は失敗に終わったようですし、戦争を主導した連中に思い知らせてやりましょうかね。