軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

侵攻停止作戦(中編)

翌朝までにコボルト隊が奪って来た銃は、全部で六十八丁になりました。

エルマネアの兵士が保有している銃は、もっと沢山あるそうですが、銃が消失する事態が続いたために、肌身離さず持っているように命令が下ったそうです。

コボルト隊には、あくまでも気付かれないようにして奪ってくるように命じておいたので、これで十分でしょう。

それに、銃は残っていても、肝心の弾薬の殆どは奪ってきていますので、戦闘の継続は難しいでしょう。

エルマネアの兵士の中にも、魔法を使える者はいるようですが、部隊は銃や砲を運用する戦術で動いているので、魔法のみでの戦闘は難しいでしょう。

「ラインハルト、エルマネアの部隊は、ここだけじゃないんだよね?」

『他にも二ヶ所で戦線を構築して、ヨーゲセンを押し込んでいるようですな』

「じゃあ、そっちからも奪ってこようか」

『そうですな、銃はともかく砲が無くなれば、侵攻を諦めざるを得なくなるでしょうな』

「でも、こっちの情報が伝われば、僕らの正体を明かさずに奪うのは難しくなるだろうね」

『当然、エルマネアの連中も警戒するでしょう』

別に姿を見られたところで、正体まではバレないとは思いますが、それでも必要も無いのに目立つ気はありません。

「ちょっと、他の戦線も見に行ってみようか」

『ご案内いたしますぞ』

既に、バステンやフレッドが他の戦線の偵察をしてくれているようです。

昨日、銃や砲を奪った街では、ヨーゲセン側の反抗も始まっているようで、徐々にエルマネアが優位性を失って、戦争は泥沼の様相を呈しているようです。

勝敗の行方は分かりませんが、たぶんエルマネアは撤退を余儀なくされるでしょう。

ラインハルトの案内で移動した街では、今まさに攻城戦の真っ最中でした。

ヨーゲセンの街の多くは、広大な農地の真ん中に城壁都市が作られていて、有事の際は人々を城壁の中に避難させる体制が作られているそうです。

エルマネアの兵士たちは、砲撃によって局面の打開を目論んでいるようで、一ヶ所に砲を集めて攻撃を繰り返していました。

エルマネアの砲は、前から砲弾を入れる前装式ではなく、後ろから砲弾を詰め込む後装式です。

火薬ではなく、爆発する魔道具を使う銃弾を大きくしたタイプなので、こうした形に行きついたのでしょう。

「あの辺りを集中的に狙っているみたいだけど」

『あの裏に兵士の詰所がある……』

「城壁の厚さは変わらないの?」

『詰所の部分は少し薄い……』

フレッドの話を聞いていると、ヨーゲセンの情報が洩れているように感じます。

「それじゃあ、ちょっとイタズラしてやろうかな……」

『何をするの……?』

「それは、見てのお楽しみ」

ちょっと戦場から離れて、畑の土を取ってきました。

「装填急げ!」

「二番、良し!」

「四番、良し!」

「三番、良し!」

四門並べられた砲は、装填を終えたところで一斉に撃ち出されるようです。

そして、最初に装填を終えた二番の砲に、僕も装填を終えました。

「一番、良し!」

「撃てぇ!」

号令と共に、一斉に発射されるはずが、二番の砲が轟音と共に暴発しました。

「うぎゃぁぁぁ……」

「何だ、何が起こった!」

二番の砲の砲身に土を詰め、更に硬化させておいたので、暴発が起こったのです。

砲身は内圧の上昇に耐えきれずバラバラになって飛び散り、二番の砲手のみならず、一番、三番の砲手にまで被害が出ているようです。

『ケント様、あれは銃でも同じことが起こる……?』

「うん、起こると思うよ」

『なるほど……コボルト隊が遊ぶには良いかも……』

まぁ、確かにドーンが大好きなコボルト隊にとっては、恰好の遊びかもしれませんね。

アルトを呼んで暴発のメカニズムと、危ないからくれぐれも慎重に行うように伝えておきました。

すると、すぐに前線で騒ぎが起こり始めました。

これまで、統率された一斉射撃を行っていた部隊が、あちこちで起こった暴発によって射撃を停止しています。

「どうなってる、負傷者を後方に下がらせろ!」

「全員、魔筒の詰まりを確認しろ!」

シリンダーリボルバータイプの魔筒は、一度分解しないと銃身の詰まりを確認できないようです。

これまでも、暴発事故が全く起こっていなかった訳ではないのでしょうが、突然あちこちで暴発が発生して戸惑っているように見えます。

「ドーンだ、ドーン!」

「うちも、上手くドーンしたよ」

「うちもやる!」

「うちも、うちも!」

コボルト隊は、すっかり銃を暴発させる遊びに嵌まってしまったようで、エルマネアの兵士が必死に銃身を掃除して、また攻撃を再開させるとあちこちで暴発が起こりました。

ライフルのように構えて射撃を行っているので、暴発すれば良くて重症、悪けりゃ死亡です。

銃も壊れ、撃ち手も壊れ、エルマネアの攻撃は完全に勢いを失いました。

『ケント様、街の連中が討って出るようですぞ』

「おっ、反撃だね」

街を守る城壁の上から、エルマネア側の混乱を見て取ったヨーゲセンは、門を開いて騎馬隊で討って出ました。

本来なら、ここで一斉射撃を行い、守り手側の戦力を削いで戦局を優位に進めるのがエルマネアの戦術なんでしょうが、肝心の射撃、砲撃が出来ない状態では話になりません。

「退却! 退却して立て直す!」

エルマネアの指揮官は退却の判断を下しましたが、これは退却というよりも敗走と呼んだ方が相応しい状況です。

重たく移動の難しい砲は置き去り、銃を使って反撃を試みる者は暴発の憂き目に遭う。

まさに、踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂状態ですね。

「ラインハルト、フレッド、エルマネアの放棄した武器は回収しちゃって」

『お任せ下され』

『りょ……』

戦乱のどさくさに紛れて、エルマネアの砲を十六門鹵獲しました。

前回奪った十七門を加えると、影の空間には三十三門も砲が並んでいます。

『なかなか壮観ですな』

「うん、そうなんだけど、これはどうしたものかなぁ……」

『と言いますと?』

「ヨーゲセンに渡しても、弾が無くなれば終わりだし、フェルシアーヌに渡しても同じだよね」

『コンスタン殿に渡すのではないのですか?』

「まぁ、一部は研究用に渡すつもりだけど、なんかエルマネアの侵攻を止めるのに、役に立つ方法は無いかと思ってね」

『そうですな……ならば、エルマネアの中枢に撃ち込んでみますか?』

「あぁ、他国に攻め入って、調子に乗ってる連中の頭を冷やすのか……それは面白いかも、ちょっと下調べしてもらえるかな」

『りょ……』

なんだかフレッドが、やる気満々ですね。

『ケント様、ついでなので、残りの戦場からも鹵獲を進めましょう』

「そうだね、主力の武器と弾薬を奪ってしまえば、エルマネアの侵攻も止まるでしょ」

撃ち出す砲が無い、撃ち出す弾も無いとなれば、もう撤収するしかありませんよね。

残り一ヶ所の戦場に向かったのですが、どうやら、こっちが主戦場だったようです。

ぱっと見ただけでも、戦場の規模は他の二つを足したよりも大きく、それだけの人員が送り込まれています。

エルマネアの砲撃の運用は、四門を一つの部隊として、五つの部隊が一塊になって動いているようです。

こちらの戦場では、見ただけで三倍ほどの人間が蠢いているようです。

「これは、これは……」

『手出しするのは止めておきますか?』

「いやいや、奪い甲斐がありそうだと思っただけだよ」

『ぶははは、確かに、これだけあれば持ち出し放題ですな』

「わぅ、ご主人様、ちょっとドーンしちゃ駄目?」

「いいよ、バレないように上手くやってね」

「わふぅ、ドーンだ、ドーン、ドーン!」

あーあっ……コボルト隊が新しい遊びに夢中になってしまいました。

一グループ四門の砲が、発射の号令と共に全て暴発して吹っ飛びました。

「ドーンだドーン!」

「ドーン、ドーン、ドーン!」

戦場のあちこちに散らばったコボルト隊は、砲だけでなく銃も手当たり次第に暴発させていきます。

敵を攻撃するどころか自爆しかねない状況で、エルマネアの兵士たちは攻撃をためらっています。

「何をしてる、さっさと撃て!」

「やなこった、そんなに撃ちたきゃ自分で撃ちやがれ!」

「この臆病者が、貸してみろ! ぐわぁ!」

反抗的な態度の兵士から銃を奪い取った上官らしき男は、万が一の事態に備えて腰だめにして銃を撃ったものの、まんまと暴発して腹にダメージを食らっています。

そして、ここでも城壁の上から敵兵の混乱を見てとった城壁内の人間は、門を開いて討って出て、エルマネアの兵士たちを更なる混乱に陥れていた。