軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

着手(前編)

僕の仕事は、リーベンシュタインの領主アロイジアさんを説得するところまでと思っていたのですが、世の中そんなに甘くはないんですよね。

アロイジアさんを納得させて、ゴルドーネという男が経営する商会を摘発することになったのですが、問題は『聖女様の僕』の内部の人々です。

アロイジアさんが『聖女様の僕』に傾倒していたのと同様に、『聖女様の僕』の内部の人々は、ゴルドーネや部下の男たちに騙されている状態です。

教団ナンバーツーである総長のドリスは、ゴルドーネに骨抜きにされて、遠くない将来に結ばれると信じ切ってしまっています。

今の状態で、「あなた騙されていますよ」と言ったところで、聞き入れるとは思えません。

動かぬ証拠を突き付けて、目を覚まさせる必要があるのですが、そのためにはフレッドやバステンが撮影してきた数々の動画を見せるしかないでしょう。

という訳で、動画を使って『聖女様の僕』の関係者を説得し、目を覚まさせる役割を僕が担うことになりました。

昼間のうちに諸々の準備を終えて、『聖女様の僕』の施設に向かうのは日が落ちて、参拝客が帰った後になります。

これは、『聖女様の僕』の評判を落としたくないというアロイジアさんの希望です。

まぁ、実際問題として、衛生環境を向上させるという意味では、『聖女様の僕』の教えは悪くありません。

そもそもが疫病からの復活、病魔を追い払う……といった教義なので、清潔な水で手を洗うとか、体を清潔に保つといった教えは、次の疫病流行を抑える効果があるはずです。

アロイジアさんとしては、そうした教えを生活に根付かせるためにも、『聖女様の僕』の評判を落としたくないのでしょう。

僕とアロイジアさんが『聖女様の僕』の施設に向かうと同時に、リーベンシュタインの守備隊はゴルドーネたちの捕縛に向かいます。

ゴルドーネや手下の腹の中には、闇属性を付与した魔石の玉が放り込まれています。

コボルト隊いわく、ジーピーエスもどきだそうです。

闇属性の魔法が付与されているから、その波動を感知できるコボルト隊からは、どう足掻いても逃げられません。

ゴルドーネたちの捕縛には、ラインハルトやフレッド、バステンもリーベンシュタインの守備隊に協力します。

最初は、スケルトンという見た目にビビっていた守備隊の面々ですが、マルト、ミルト、厶ルトが通訳として言葉を伝えているうちに、緊張がほぐれて来たようです。

「では、私たちも行くとしましょう」

「はい、行きましょう」

参拝の時間が終了し、人も疎らになった施設に、僕らは裏口から入りました。

『聖女様の僕』へは、領主であるアロイジアさんから重要な相談があるから全員を集めておいてほしいと、教会関係者に先触れが出されているらしい。

僕らが訪れた時には、既に全員が食堂に集められていた。

「ようこそいらっしゃいました、アロイジア様」

教団を代表して出迎えたのは、聖女エレミアではなく、ナンバーツーのドリスだった。

「急な話で申し訳ありませんね」

「とんでもございません。領主様からのお願いとあらば、労を惜しんだりいたしませんよ」

この二人は旧知の間柄だそうで、共に聖女エレミアを信奉している同志でもあるそうだ。

二人が挨拶を交わしている間、聖女エレミアは笑みを浮かべつつドリスの後ろに控えていた。

そのエレミアと目が合ったので、笑顔を浮かべて会釈しておいた。

いやいや、別にエレミアと浮気なんかしませんから、みんなから見えない場所を抓るのは止めてくれないかな、セラフィマさん。

「アロイジア様、こちらの方は?」

「彼はヴォルザード所属の史上最年少Sランク冒険者、ケント・コクブさんと奥さんのセラフィマさんです。セラフィマさんは、バルシャニア皇帝の娘さんです」

アロイジアさんの説明を聞き、食堂に集まっている関係者からは、どよめきが起こった。

「どうも、初めまして、ケント・コクブです。説明の補助をさせていただきます」

「セラフィマ・コクブです。お見知りおきを……」

セラフィマが優雅にバルシャニア風の挨拶を披露すると、食堂に集まった人達は一斉に溜息を洩らした。

「では、ケントさん、早速始めていただけますか?」

「分かりました……それでは、皆さんに改めて自己紹介させていただきます。ヴォルザードの冒険者ケントと申します。初めに、カメラという道具について説明させていただきます」

毎回、カメラやパソコン、プロジェクターなどの説明からしないといけないのは、結構面倒なんですけど、こちらの世界には存在しない機械なので省く訳にもいきません。

説明して、実際に撮影してみて、それを再生して、これらの機械の役割を理解してもらえないと、話が先に進まないのです。

今撮影したばかりの映像だけでなく、別の日や別の時間に撮影した映像を見せると、当然ながら集まった人たちは驚いていました。

「それでは、これらの機械の役割はご理解いただけたでしょうか?」

「本当に凄い道具ですね、感動いたしました」

教団のまとめ役でもあるドリスは、少女のように瞳を輝かせ、頬を紅潮させています。

長年修道院で暮らしてきたそうなので、本当に純粋な人なのでしょう。

ちょっと、これから再生する映像を見せるのは、酷な気がしてきました。

それでも、進めない訳にはいかないので、アロイジアさんと目線を交わし頷きました。

「皆さん、ケントさんの説明には納得してもらえたようでなによりです。では、本題に入ろうと思います。私は、この教団の運営に疑問を抱いております」

静かではあるものの、厳しい響きを伴ったアロイジアさんの言葉によって、その場の空気が一瞬で張り詰めました。

「教団の運営に疑問とは、どのような事でしょうか?」

「私は『聖女様の僕』の教えの多くは、とても素晴らしいものだと思っています。ですが、ここ最近の教えや運営方針には疑問を抱かざるを得ません。例えば、お金は汚れである……とか」

「それは、お金に囚われて、心が汚れてしまうと疫病を招きかねないからで、何もおかしな事ではありません」

すかさず反論したのは、やはりドリスでした。

「では、その話は、一体いつ、誰が言いだしたのですか?」

「それは勿論、聖女様が……」

「本当ですか、聖女様」

急に話を振られたエレミアは、戸惑っているような表情を浮かべた後、ドリスの顔色を窺いながら、ぎこちなく頷いてみせた。

「聖女様、私は貴方の御業には心酔いたしておりますが、今の姿を見て貴方が言いだした教えだとは到底信じられません」

「何を言うのです、聖女様の言葉が……」

「黙りなさい、ドリス。お金が汚れであるという教えは、貴方とゴルドーネが……いいえ、ゴルドーネが貴方に吹き込んだものでしょう」

「な、何を言いだすのですか、なぜ教団の教えにゴルドーネが関係しているなんて言うのです」

「それは、ゴルドーネという男が、どうしようもないクズだからですよ。ケントさん、お願いします」

アロイジアの合図で再生を始めたのは、ゴルドーネと五、六人の部下の男達と酒を酌み交わしている映像です。

「ゴルドーネさん、なんでこんなに儲かるんです?」

「なんでかだと、簡単さ、帳簿に書かれている半分も品物は納めていねぇ」

「マジっすか! そんじゃ儲けが倍ってことっすか?」

「バカが……そんな訳ねぇだろう、元値の五倍以上の値段で納めてるんだ、儲けは十倍以上だよ」

質問していた若い男以外の全員が、ゲラゲラ笑いだした。

その映像を見ている、ドリスをはじめとした教団関係者は蒼ざめ、顔を引き攣らせている。

「ボロ儲けじゃないっすか! でも、バレないんすか?」

「バレてるさ」

「えぇぇぇ、マズいじゃないっすか」

「心配ねぇよ、あそこの女どもは、みーんな色ボケしてやがるからな」

「色ボケって……?」

「ちょいと結婚をチラつかせてやると、簡単に食いついてきやがるんだよ」

「ゴルドーネさん、あのドリスとかいう女と結婚するんすか?」

「んな訳ねぇだろう! バカ言ってんじゃねぇよ、あんなもん、利用するだけ利用したらポイだよ」

また映像の中で男達が笑い転げ、それを見たドリスは魂が抜け落ちたようになっています。

「でも、大丈夫なんすか?」

「大丈夫に決まってんだろう、俺様にぞっこんだからな。あのババア、会う度に命を捧げてもいい……なんて潤んだ瞳で迫ってきて、最っ高に気持ち悪いんだぜ! ぎゃはははは……」

品の無い笑い声をあげるゴルドーネの顔がアップになったところで、ドリスが卒倒し、アロイジアさんが慌てて抱き止めた。

その後も、ゴルドーネや部下の裏の顔が次々と明らかになり、食堂には悲鳴と嗚咽が響いた。