軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

治癒院の手伝い(後編)

治癒院の手伝いをする許可を貰いに行っただけなのに、ワクチン云々の話になってバッケンハイムに行ったり、八木に仕事を頼んだりで、結局一日潰されてしまいました。

「さぁ、今日からは張り切って治癒院の手伝いをしちゃうよ!」

家を出る前から気合いを入れているのですが、唯香もマノンも凄く心配そうな顔をしてるんですよねぇ。

「手伝ってもらうのは有り難いけど、やりすぎは厳禁だからね」

「もう、唯香は心配性だなぁ、ちゃんと分かってるよ。何でもかんでも、ホイホイ治しちゃ駄目なんでしょ?」

「はぁ……マノン、ちゃんと見ていてね」

「うん、ボクもそのつもりだけど……ねぇ」

唯香とマノンは顔を見合わせて溜息をついています。

「なになに、その反応、まるで僕が駄目な子みたいじゃん」

「健人の治癒魔術が凄いのは知ってるけど、凄すぎなのを自覚してよね」

「大丈夫だって、悪化させるような事にはならないから大丈夫だよ」

唯香は、僕がどんな怪我や病気でも、ホイホイ治してしまうのではないかと心配しています。

守備隊の治癒院には、唯香やマノン以外にも治癒士の人が働いていますが、多くはマッサージや投薬などによる治療です。

僕がやり過ぎてしまうと、そうした普通の治療の意義が失われてしまう恐れがあるのです。

その辺りの打ち合わせは、昨晩のうちに入念に済ませています。

僕が本気出しても良い患者さんは、骨折や出血の酷い、緊急性の高い外傷患者と命の危険がありそうな内臓疾患の患者さんなどです。

「でもさ、基本的に助けて良いんでしょ?」

「それは勿論、助けられる命は助けてほしいけど……」

先日の重症マダニ感染症の患者さんのようなケースを除けば、唯香たちも命を救うことを最優先に治療を行っています。

それでも魔力には限りがあって、選択を迫られるのです。

ただ、その環境に僕が加われば、命を救える確率は間違いなく上がるはずです。

ということで、治癒院のスタッフの皆さんにも挨拶して、いよいよ治癒院の手伝いを始めたのですが……。

「うーん……暇っ」

ヴォルザード中から患者さんは集まってくるそうですが、救急事案はそんなに多くはないようです。

「忙しくなるのは、もう少し経ってからだよ」

マノンが言うには、怪我する人の多くは仕事中に負傷するそうで、朝一の時間は仕事が始まる時間でもあり、怪我をするのは仕事をして疲れてくる頃の時間が多いらしい。

日本だと、病院には朝からお年寄りが大挙して訪れる……みたいな感じだと思うが、膝が痛い、腰が痛い程度では、治癒院は利用しないらしい。

「それは、治療代が高額になるから……とか?」

「ううん、そもそも、腰痛とか膝痛とかでは治癒院は利用しないかな」

僕じゃなくても、唯香だって腰痛や膝痛の治療はできるのだが、唯香だって魔力には限りがある。

この程度で治療してもらって、唯香の魔力が尽きたら困る……本当に治療が必要な人のために魔力を温存してもらいたい……。

そう考える人が多いから、待合室がお年寄りで溢れかえるような事態にはならないらしい。

一方、投薬治療を希望する人は、僕が思っていたよりも多く、大部分は風邪の症状のようです。

風邪の場合、喉や鼻の炎症部分に、軸の長い綿棒で直接薬剤を塗布するという治療が行われるそうです。

唯香の出番は、高熱が続いて体力的に危うい患者などに限定されるようです。

てか、唯香もマノンも一応マスクはつけているけど、お腹に赤ちゃんがいるんだから、風邪の患者には気をつけてもらいたいですね。

僕が最初に担当する患者さんは、お昼少し前に運ばれてきました。

建築関係の仕事をしている三十代の男性で、足場から落ちて腰を強打し、腰から下が動かなくなってしまった状態でした。

「頼む、何とかしてくれ! ここなら、凄い女性の治癒士がいるんだろう」

戸板に載せられて運ばれてきた男性は、激痛を紛らわせるためか、喋り続けていました。

この患者さんは、思いっきり治療しちゃっても良いんだよね……と、マノンに視線を向けると、頷き返してくれました。

「では、治療を始めますね」

「なんだ、小僧! 何をする気だ!」

「何をするって、治療に決まってるじゃないですか」

「お前みたいな小僧に何ができるって言うんだよ。ちゃんとした治癒士を呼んでくれ!」

「はいはい、文句は後で聞きますよ」

僕では無くて唯香の治療を熱望していましたけど、構わず治療を進めていきます。

まずは、神経の状態を知るために、患者さんの足の指に爪を立てて、反応を見てみましたが、全く感じていないようです。

「どうやら背骨が折れてしまっているようで、今のままだと歩けないどころか、起き上がれなくなりそうですね」

「な、なんだとぉ! ふざけるな、やっと仕事が軌道に乗り始めたところなんだぞ」

「だから治療をするんでしょ?」

「大丈夫なんだろうな? また働けるようになるよな?」

「また働けるようになりたいなら、黙って、大人しく治療を受けて下さい」

「わ、分かった……ホントに大丈夫……」

「治療が遅れるほど、結果が悪くなりますよ」

ブスブスと釘を刺してやって、ようやく大人しくなったので、それでは治療を進めましょう。

オッサンは、俯せの状態で運ばれてきていて、腰には角で

強打したらしい傷がありました。

傷の周辺に手をかざし、治癒魔術を発動します。

腰の傷を癒したところで、手を当てて、内部の状態を探りました。

「あぁ、完全に背骨が折れてますね……てか、潰れてる?」

「嘘だろう、それじゃあ、もう歩けるようにはならないのかよ」

「えっ、何を言ってるんですか? 治療はもう終わりましたから、お金払ったら帰って良いですよ」

「はぁ? お前、何を言って……えっ……えぇぇぇぇぇ!」

じっくり時間を掛けて治療しようかとも思いましたが、オッサンがやかましいので、ちゃっちゃと治療を終えました。

「ちゃんと足が動くか確認してください」

「う、動く……足の感覚が戻った。ありがてぇ、これでまた働ける」

「熱いとか、冷たいとか、ちゃんと感じられるかも確認しておいて下さいね。でないと、気付かずに火傷したり、凍傷になってしまいますからね」

「わ、分かった……いや、分かりました。あんた、俺の大恩人だ。さっきはバカにするような口きいて、すまなかった」

「いいえ、足が動かなくなっていれば誰でも不安で気持ちに余裕が無くなるのも当然ですよ」

ちゃんと足の感覚が戻ったと分かり、オッサンはすっかりしおらしくなりました。

「すまねぇ、最後にあんたの名前を教えてもらえるか?」

「僕ですか、ケントといいます」

「えっ……まさか、魔物使い?」

「まぁ、そんな風にも呼ばれてますけど、ちゃんと治癒魔術も使えますから安心してください」

「いや……Sランクの冒険者に治療なんて頼んじまったら、一体いくら掛かるんだ?」

「あぁ、大丈夫ですよ。ちゃんと治療しましたから、一杯働いて支払ってください」

「そ、そんなぁ……」

勿論、治癒院の手伝いですから、Sランクの指名依頼のような法外な値段は取りませんよ。

莫大な借金を背負い込んだと思ったオッサンは、魂が抜け落ちたようにフラフラと会計へと向かいました。

「ケント、色々やりすぎ!」

「だよね……てへっ」

マノンにクソデカ溜息をつかれてしまいました。

この感じだと、帰ってから唯香からお説教食らいそうですねぇ。