軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不意な再会

バッケンハイムのギルドに顔を出すのは、随分と久しぶりな気がします。

バッケンハイムに来るのも、バルディーニにお灸を据えるクラウスさんを送迎した時以来だと思います。

今日は領主のアンデルさんに会わないといけないので、とりあえずギルドの受付へと向かいます。

人目に付かない場所を選んで、影の空間から表に出て、カウンターへと足を向けました。

この時間は、既に依頼の取り合いが終わっている時間なので、受付前は比較的空いています。

ついでと言っては何ですが、どんな仕事が残っているのか、依頼の貼られた掲示板を覗いてみました。

マールブルグやブライヒベルグへの護衛依頼が数件、イロスーン大森林での討伐依頼などが目に付きます。

『どうやら、イロスーン大森林の魔物は減っていないようですな』

影の空間から覗いているラインハルトが言う通り、オーガやオークなどの討伐依頼は、期限を区切らず継続的に出されているようです。

一時期、空間の歪みを通って南の大陸から大挙して押し寄せた魔物が、そのまま根付き始めているのでしょう。

マールブルグへと通じるイロスーン大森林を抜ける街道は、魔物が入り込めない形に改修済みですから、往来が途絶える心配はありません。

「てか、現場を見た訳じゃないからハッキリとは言えないけど、今は魔の森よりもイロスーン大森林の方が危険なんじゃない?」

『その可能性は無きにしも非ずですな』

陸続きの部分を切断したので、南の大陸から魔の森へと移動してくる魔物は殆どいなくなりました。

ストームキャットとか、ギガウルフならば助走を付ければ飛び越えて来そうですが、それも稀でしょう。

一方のイロスーン大森林も、空間の歪みは解消されているはずですから、新たに魔物が湧いて出ることは無いはずです。

つまり、どちらも既に存在する魔物が、どの程度繁殖しているかが、魔物の密度を決める訳ですが、魔の森では僕の眷属が活動しているので、その分だけ魔物の数は少なくなっているはずです。

「大量発生とか、極大発生なんて起こらないよね?」

『あれは南の大陸に起因していたようですから、空間の歪みさえ発生しなければ大丈夫でしょう』

「それか、魔石の収集のために、眷属のみんなに狩ってもらった方が良いのかな?」

『さて、それはバッケンハイムやマールブルグの冒険者の仕事を奪いかねないので、慎重に検討された方がよろしいでしょうな』

「だよねぇ……」

ラインハルトと会話しながら掲示板を眺めていたので、周囲への警戒が疎かになっていました。

「本日は、どのような御用件でございますか?」

「うえっ……?」

突然後ろから硬い声を掛けられたので、ちょっと間の抜けた声が出てしまいました。

振り返った先にいたのは、バッケンハイムのギルドを事実上仕切っているリタさんでした。

アイスブルーの髪を短く切り揃えている狼獣人の女性で、ギルドの制服をカッチリと着こなしています。

その胸元はささやか系……いえ、何でもないです。

「ど、どうも、ご無沙汰しております。えっと、領主のアンデルさんにお会いしたいのですが……」

「アンデル様ですか? マスターレーゼではなく?」

「はい、ちょっと学術的な研究のお願いに来たのですが、何時ならお会いできますかね?」

「御都合を伺ってまいりますので、待合い室にご案内いたします」

「ありがとうございます」

いやぁ、ずっとヴォルザードで過ごしていると忘れがちなんですが、僕ってこう見えてもSランクの冒険者なんですよねぇ。

マスターレーゼからの指名依頼も何度か受注してますし、眷属のみんなを含めた戦闘能力なら、ランズヘルト共和国で一番なはずです。

リタさんに案内された待合室のソファーに腰を落ち着けると、すかさずマルトたちが影の空間から飛び出して来ました。

「わふぅ、ご主人様、撫でて撫でて」

「わぅ、うちも、うちも」

「はいはい、順番だからね」

あぁ、なんかこの感じは懐かしいですね。

確か、鷹山と一緒にバッケンハイムに来た時が、こんな感じでしたよね。

確か、あの時は受付嬢がノックもせずにドアを開けたので、大騒ぎになったんでしたっけ。

当時を思い返していたら、待合室のドアがノックされました。

マルトたちは、素早く影の空間へと戻っていきました。

「どうぞ……」

「失礼しま……す」

ティーセットを載せたカートを押して現れたのは、魔落ちした末にSランクの冒険者ジリアンに戦いを挑み、破れて散っていったフェルの思い人、確か名前はチコとか言ったはずです。

「Sランク冒険者のケント・コクブさん……」

「どうも……」

僕の姿を認めたチコは、ガバっと音がするような勢いで頭を下げました。

「その節は、本当にありがとうございました。フェルの最期を看取っていただいたそうで……」

「いえ、僕は依頼をこなしただけですから……それより、お幸せですか?」

「はい、あの時、お付き合いしていた方と結婚して、子供を授かるまでギルドの仕事を続けています」

「そうですか、それは何よりです」

初めて会った時は、ポンコツ受付嬢という感じでしたが、ずいぶんと落ち着いた感じがします。

やはり、家庭を持ったからでしょうかね。

「あの……フェルは犯罪を犯したSランク冒険者を捕えようとして、返り討ちにされてしまったと聞いたのですが……」

「まぁ、そんな感じです」

「ケントさんなら助けられたのでは……」

「ごめんなさい、僕はSランクの冒険者ですが、神様ではないので、出来ないこともあるんです」

「し、失礼しました」

「いえ、フェルについては、フェル自身から口止めされていることもあるので、全てを話す訳にはいかないのですが、意地を通した立派な最期でしたよ」

「そうですか、ありがとうございます。でも、どんな事情があったのか分かりませんが、やっぱり生きていてほしかったです」

「それならば、フェルの最後の願いを叶えるために、幸せになってください」

「はい……」

チコは、慣れた手付きでお茶を淹れると、もう一度深々と頭を下げてから退室していきました。

うん、これはリタさんに仕組まれたんでしょうね。

僕としては、フェルからの金貨を届けた時点で仕事を終えたつもりでしたが、チコの中では決着が付かない状態のままだったのでしょう。

それでも、結婚して、新たな人生を歩み始めているのですから、フェルは満足しているでしょう。

てか、死霊になってうろついていたら捕まえられるかもしれませんが、捕まえたら捕まえたで面倒なことになりそうですから、この件はここで終わりにします。

再び出て来たマルトたちに囲まれながら、ゆっくりとお茶を味わっていると、再びドアがノックされました。

「どうぞ……」

ドアを開けたのは、チコとは別の受付嬢でした。

「失礼いたします。アンデル様がお会いするそうですので、ご案内いたします」

「お願いします」

いきなりの訪問だったので、日を改めて出直してくることになるかもしれないと思っていましたが、意外にもすんなりと話を進められそうです。

ではでは、バッケンハイムの領主様の執務室へお邪魔いたしましょう。