作品タイトル不明
甘々な唯香
ヤバいです。僕は何かやらかしたみたいです。
ここ何日か、ダビーラ砂漠の緑化実験に夢中になっていたのがいけなかったのでしょうか。
夕食の時、隣に座った唯香が甘々ゴロニャン状態なのです。
夕食の席は、いつも決まっている訳ではなくて、その日によって僕の隣や向かいに座る人が変わります。
ただ、唯香の場合、甘々になるとしても、その前にお小言モードが挟まるのです。
僕が何もやらかしていないのを確認した上で、甘やかしたり、甘えたりするのが唯香のパターンなんですが、今日は最初から甘々モード全開なのです。
あー……はいはい、どうせ惚気たいだけなんだろう、爆発しろって、世のモテない男性たちは……世のモテない男性たちは言うのでしょう(大事な事なので二回言いました)。
でも、そんなに甘いものじゃないんです。
ここで調子に乗ったりしようものなら、急転直下のお説教フルコースが待っていたりするんですよ。
えっ、それは僕の行いが悪いからだろうって?
まぁ、殆どのケースではそうなんですけど、たまには誤解の場合だってあるんですよ。
てか、美緒ちゃんやフィーデリアと一緒にお風呂に入った時は、僕が乱入したんじゃなくて、乱入されたんですからね。
あれは完全に無実だと思うんだけどなぁ……。
というか、本当に僕は何をやらかしたのでしょう。
この後、どんなお説教コースが待ち構えているんですかね。
「健人、はい、あ~ん」
「あ、あ~ん……むぐっ」
「美味しい?」
「うん、すっごく美味しい」
味がしねぇ……僕の味覚が死に絶えている。
亜鉛ですか、亜鉛が不足しちゃってるんですか。
「あのねぇ……健人」
「な、何かな、唯香」
ほら来た、来ましたよ、覚悟を決めろ、国分健人。
「私……できたみたい」
「えっ?」
何が……と聞こうとして、はにかむように俯いた唯香を見て、さすがの僕も気付きましたよ。
「赤ちゃん?」
僕の問い掛けに、唯香は頬を赤らめながら、それでも力強く頷きました。
「やったぁ! ホントにホント?」
「ホントにホント、嘘だと思うなら、治癒魔術で確かめてみる?」
そう言うってことは、唯香自身が治癒魔術を使って確認済みってことなのでしょう。
「そこまでする必要はないけど……でも、ちょっと確かめてみたい気もする」
「いいよ」
唯香は両腕を広げて、僕にハグを求めてきました。
まだ、外見で分かるほどお腹は大きくなっていませんが、それでも気を付けながら、唯香を抱きしめて治癒魔術を巡らせてみました。
すると、確かに唯香のお腹の中には、新しい命が息づいています。
間違いなく、僕と唯香の愛の結晶です。
あんまり過剰に魔力を巡らせるのも良くないかもしれませんが、それでも愛しむように僕の魔力で包み込みました。
「あったかーい……健人の愛情を感じる」
「うん、愛してるよ、唯香」
「私も愛してる……」
少しだけ腕を緩めて、唯香と唇を重ねました。
マノンが妊娠した後、ちょっと唯香は精神的に不安定な時期がありました。
子供を身籠ったから、マノンに対して気を使っていたと思うけど、だからと言って、唯香やベアトリーチェ、セラフィマ、カミラをないがしろにした事は無かったはずです。
それでも唯香は、早く子供が欲しかったみたいで、少し焦っているようにも見えました。
そうした精神的なプレッシャーのような物から解放されたのか、今夜の唯香はとても雰囲気が柔らかです。
なんと言うか、一夜にして母の顔になったみたいな感じです。
「これから大変になると思うけど、僕も出来る限りフォローするから、手伝ってほしい時は遠慮せずに言ってね」
「うん、頼りにしてるね、健人パパ」
「パパ……うん、僕もパパになるんだね」
「マノンの方が先だから、もうすぐだよ」
「うん、おむつの替え方とか練習しないとだね。鷹山のところは……無理そうだから、綿貫さんか八木に頼んで練習させてもらおうかな」
「ふふっ、そんなに慌てなくても、自分の子供で何度もやるようになるよ」
「それもそうか……」
マノンに視線を向けると、大きくなったお腹をポンっと叩いてみせました。
おぉ、引っ込み思案な僕っ娘だったマノンちゃんが、なんだか肝っ玉母さんになりそうですよ。
お腹も大きくなってきて、授乳の準備のためか、胸も大きくなってます。
これで、我が家でささやかなのは……。
「ケント様、なにか失礼なことを考えていませんか?」
「い、いいえ……とんでもない、思い過ごしだよ、セラ」
大丈夫、セラフィマだって子供を授かれば、リサヴェータさんみたいに立派になりますよ。
「唯香、唯生さんや美香さんには報告したの?」
「ううん、まだ報告してない。健人より先に知らせられないよ」
「そっか……どうする、日本に戻って報告する?」
「それって、送還術で日本に行くって事だよね」
「うん、そうなるね」
「うーん……まだ安定期に入ってないから、送還術はちょっと不安かなぁ」
「じゃあ、オンラインで顔を見ながらにしようか?」
「うん、その方がいいな」
唯香の両親への報告は、唯生さんが休みで家に居られる日に、オンラインですることにしました。
唯生さんにも、美香さんにも、実の息子のように可愛がってもらっていますが、子供が出来たとなると、感じが違うかもしれないので、ちょっと緊張しますね。
「健人のお父さんには?」
「えっ、父さん? うーん……どうしよう」
「もう、ちゃんと報告しないと駄目だよ」
「だよねぇ……じゃあ、メールで……」
「けーんーとー……」
「嘘、嘘、やだなぁ、冗談だよ」
むぅ……っと眉をしかめてみせると、いつもの唯香という感じです。
「健人、何か失礼なことを考えてるでしょ?」
「とんでもない、しっかり者のママになりそうって思ってただけだよ」
「パパもしっかりしなきゃ駄目なんだからね」
「はいはい、分かってますよ、分かってますとも……」
「もう、ホントかなぁ……」
「ホント、ホント、ホントのホントだって」
「なんだか怪しいけど、今夜は許してあげる」
唯香は僕の腕を抱えて、スリスリと頬を寄せて甘えてきます。
うん、うん、甘々の唯香は可愛いですねぇ。
「そう言えば、僕らって高校生になる前にパパとママになっちゃうのか」
「んー……産まれるのは、まだ先だから、時期的には同級生が高校に上ってからだと思う」
「あー……でも、鷹山や綿貫さん、八木ももう人の親なんだよなぁ」
「そうそう、私たちが一番って訳じゃないよ」
「でもさ、クラスメイト同士で結婚して、子供が出来るのは僕らが一番じゃない?」
「それはそうかも……でも、一番に拘らなくても良くない?」
「まぁ、そうなんだけど、何となくね。八木に負けてるのが、ちょっと納得いかないかも」
「ふふっ、この前、マリーデが子供を検診に連れてきたけど、大きくなりそうな気がする」
「確か、マリーデの父親が大きい人なんだよね」
「そうそう、男の子だから、マリーデやマリーデのお父さんに似るんじゃないかな」
「そっか……八木の血が強く出ないのは良いことだと思うな」
「また、そんな事言って……」
八木も子供が産まれてから、以前のような軽薄さは薄れてきて……いないかなぁ。
八木は、どこまでいっても八木だし、僕も、どこまでいっても僕のままのような気がします。
というか、唯香が妊娠したってことは、中学生が中学生を妊娠させちゃったってことだよねぇ。
また、な〇うの運営さんから怒られちゃうんじゃ……おっと、誰か来たみたいだ……。