軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トレント観察日記(後編)

ダビーラ砂漠の真ん中に移植したトレントの森に、サンドリザードマンの一団がやって来ましたが、トレントは木に擬態したまま動きません。

試しに、ヴォルザードの実戦訓練場から出た魔物の死体を与えてみると、サンドリザードマン達が先を争うようにして食らいついたものの、やはりトレントは動きを見せませんでした。

「ラインハルト、これって何か条件があるのかな?」

『恐らく、そうなのでしょうな。例えば、ある程度以上の大きさの個体が、一定数以上で活発に動いている場合には、反撃を恐れて擬態を続けるなどの決まりがあるのでしょう』

「トレントは反撃されたくないのかな?」

『そうでしょうな。トレント自体は、通常の魔物のように俊敏には動けません。攻撃されればダメージを負いますし、なるべく相手に気付かれずに襲い掛かりたいのでしょうな』

他の魔物がトレントを襲わないのは、襲うメリットが無いからです。

トレントは植物と動物の中間のような存在で、食べても美味しくないようです。

つまり、普通の魔物がトレントに襲われた場合、反撃して逃亡はしても、捕食しようとする魔物は居ないそうです。

「つまり、トレント達はサンドリザードマンに気付かれる事無く、獲物として捕食したいってことだね?」

『そうなのでしょうが……群れを形成しているサンドリザードマンに存在を気取られることなく襲うなんて、普通に考えれば無理ですな』

「だよねぇ、どうするつもりなのかな」

普通の魔物でも、何を考えているのか読み解くのは難しいのに、ジッとしていると木にしか見えないトレントが何を考えているのかなんて想像もできません。

観察を続けましたが、サンドリザードマン達は森に定住するための準備を始めました。

土を掘り、その下の砂を掘り、巣を作り始めました。

土の下から砂が出てくると、サンドリザードマン達は砂浴びを始めました。

普通の魔物は水浴びをして体についたノミやダニを流しますが、サンドリザードマンは砂浴びで体に付いた寄生虫を落としているそうです。

「でも、これって、せっかく作った森の真ん中に砂漠を作るようなもんだし、トレントとしては怒り心頭じゃないかな?」

『そうですな、自分達が住みやすいように整えた環境を破壊するのですから、端的に敵対勢力と思われても仕方の無い行為ですな』

サンドリザードマンにしてみれば、自分達が暮らしやすい環境を整えているだけなのでしょう。

「うーん……それでも動かないのか、よっぽどサンドリザードマンからの反撃を恐れているのかなぁ?」

『どうなのでしょう、このままだと森を維持できなくなる恐れが出て来てしまいましたな』

「だよね、トレント達、水を撒くのも止めちゃってるよね」

『まぁ、すぐに森が枯れる訳ではありませぬが、この状態が続けば乾燥が進んで枯れ始めるでしょうな』

「トレント達にとっては、サンドリザードマンが来たのは災難だったのかな?」

『さて、どうなんでしょうな。我々とは考え方そのものが違っていそうですからな』

確かに、トレントの戦略とか人間である僕には想像できない部分が多々ありそうです。

水を確保できて、突然餌が降って湧いてきて、サンドリザードマン達は活発に動き回っていましたが、徐々に大人しくなってきました。

殆どの個体が砂浴びを終えると、日陰に入ってジッと動かなくなりました。

「もしかして、夜行性なのかな?」

『砂漠の日差しを考えれば、夜行性の可能性の方が高そうですな』

「それなのに、昼間のうちに移動して来たのは、やっぱり水の匂いに惹かれたのかな?」

『水の少ない砂漠で暮らしているからこそ、水の匂いには敏感なのかもしれませんな』

結局、サンドリザードマンたちは、午後の日差しを避けられる場所を見つけると、思い思いに昼寝を楽しみ始めました。

この様子だと、夜にならないと動きは無さそうだと思って、僕もお昼ご飯を食べに、一旦ヴォルザードへと戻りました。

少し遅いお昼を済ませて、僕も自宅警備員のネロと一緒に昼寝を楽しもうとしていたのですが、ひょっこり現れたムルトに起こされちゃいました。

「わふぅ、ご主人様、トカゲが食べられたよ」

「えっ、サンドリザードマンがトレントに食べられたの?」

「わふっ!」

急いでダビーラ砂漠のトレントの森へと移動すると、一頭のサンドリザードマンが、頭からトレントの幹の中へと飲み込まれていくところでした。

「どうなってるの、ラインハルト」

『ワシにも良く分からないのですが、そのサンドリザードマンが急に起き上がって、フラフラと自分からトレントに近付いていったのです』

「えっ、自分から食われに行ったってこと?」

『ワシの目には、そのように見えましたぞ』

ラインハルトの推測では、どうやらトレントが何らかの匂いを出したようです。

不意に目を覚ましたサンドリザードマンは、トレントに近付いていく時に、鼻をヒクヒクさせていたそうです。

そして、トレントの幹をペロペロと舐め始めたかと思ったら、あっという間に触腕で拘束されて飲み込まれてしまったようです。

頭から飲み込まれてしまったので、サンドリザードマンは仲間に助けを求めることすら出来ず、現在進行形で飲み込まれつつあるようです。

「匂いかぁ……なるほど、植物的なアプローチだね」

『自らは動かず、餌となる者たちを匂いで釣って、おびき寄せているのでしょうな』

飲み込まれていくサンドリザードマンは、体高一メートル八十センチ程度あって、かなり力も強そうに見えますが、トレントから逃げ出すのは難しいようです。

というか、既に窒息させられたのか、抵抗する素振りもありません。

「匂いで釣った割には、他のサンドリザードマンは全然気づいていないよね」

『そうですな、もしかすると、呑まれてしまったサンドリザードマンだけが気付くように、何らかの方法で仕向けたのかもしれませんな』

この森は、トレント達の支配下に置かれていると言っても過言ではないでしょう。

自らの触腕を使って池から外周まで水を運んだり、水路を作ってみたり、もしかすると僕らからは見えない地中で詳細なネットワークを築いているのかもしれません。

そして、そのネットワークを利用して、呑まれたサンドリザードマンだけが気付くように仕向けたのでしょう。

結局、一頭のサンドリザードマンがトレントの幹に飲み込まれてしまう事に、仲間のサンドリザードマンは全く気付いていませんでした。

日が西に傾き、サンドリザードマン達が目を覚ました頃には、トレントは何食わぬようすで擬態をしていました。

起き出したサンドリザードマン達は、周囲をキョロキョロと見回したり、ウロウロと歩き回っています。

「居なくなった仲間を探しているみたいだね」

『そのようですな。他の個体に気づかれること無く、一体を確実に仕留めて養分にする……というのがトレント戦略のようですな』

「そうみたいだね。でも、今回は上手くいったけど、次も上手くいく保証は無いよね」

『悪くすれば、仲間に気付かれて、反撃されてダメージを負うリスクがありますな』

「どのぐらいの頻度で襲うのか分からないけど、このままだとサンドリザードマンは全滅しちゃうんじゃない?」

『その可能性はありますが、もしかすると、そこまでは考えていないのかもしれませんな』

様子を窺い、機が熟したと感じたから襲った。

僕らはトレントが森を育てるような行動をとったの見て、高い知能を持つ魔物と思ったのですが、実際には本能のみで活動しているのかもしれませんね。

目を覚ましたサンドリザードマンは、餌を求めるためなのか、夜の砂漠へと踏み出していきました。