軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トレント観察日記(前編)

皆さん、こんにちは。

にわかトレント研究者の国分健人です。

ダビーラ砂漠にトレントの一団を移植してから、すっかりトレント観察にはまっています。

ただ木に擬態して他の生き物を襲うというイメージしかなかったトレントですが、自分達の生存が危うい状況に陥ると、どうやら環境改善のために働くようです。

その様子は、森の木々が自ら森を育て、維持しているかのようです。

「面白いねぇ、ラインハルト。最初は動き回っていたけど、今は配置を考えて動きを抑えているみたいだね」

『そうですな、トレントにとって動き回るという行為は大きな負担になるのでしょうな』

砂漠に移植されたトレントは、最初は森を維持するために動き回っていましたが、そのうちに森全体をカバーするポジションを各自が決めて、殆ど動かなくなりました。

森の中心にいるトレントが池から水を吸い上げ、それを繋ぎ合った触手経由で他のトレントへと送り、各トレントが水を撒いて乾燥を防いでいます。

「水を運ぶだけでも労力がいりそうな気もするけど」

『どうでしょうな、最初に吸い上げてしまえば、後は傾斜を利用して流しているのかもしれませんぞ』

「なるほど、水が流れる力を利用すれば、トレント自身は力を使わなくても良いのか」

そう言えば、植物は毛細管現象なども利用して水を吸い上げているそうですから、トレントも理屈ではなく本能で使っているかもしれません。

『それに、あれをご覧くだされ」

「ん? あれって水路なのかな?」

『そのようですぞ』

森の中心に設置した池には、ラストックの側を流れる川の下流から、闇の盾を通して水を送り込んでいます。

盾の大きさを調整してあるので、ジャバジャバと水が溢れるほどではないのですが、少しずつ流れ出る水をトレントたちは小さな水路を作って周囲まで流そうと試みているようです。

「これは、もう少し水量を増やした方が良いのかな?」

『どうでしょうな、今の水量でも森は維持できているようですから、もう少し様子を見ても良いのではありませぬか』

「そうだね……ん? トカゲ?」

トレントが管理する森を眺めていると、チョロチョロと動く影が見えました。

『どうやら、周囲の砂漠から、虫やトカゲなどの生き物が集まってきているようです』

「そうなんだ。生き物が集まるのは悪いことではないと思うけど、みんなトレントに食べられちゃうんじゃないかな?」

『トレントは、あまり小さな生き物を捉えるのは上手くないようですから、集まってきた小動物が全て食われてしまう心配は必要無いと思いますぞ』

たぶん、砂漠の厳しい環境で生きてきた生き物にとっては、森の中は天国のような住み心地なのでしょう。

予想よりも多くの虫や小動物が集まってきているようです。

「ここは、リーゼンブルグとバルシャニアの交易路からは離れている場所だけど、いずれ人が集まって来るようになるのかな?」

『森が発見されれば、当然人が寄って来るようになるでしょうな』

「だよねぇ、砂漠の真ん中に水が湧いてるんだもんね」

なにしろトレントがいる森なので、人が近付かないように交易路からは離れた場所を選んで設置したのですが、森が広がれば発見されてしまうでしょう。

池に取り入れている水は、海に近い下流から送っているので、本当の意味での湧き水ほどは冷たくないし、澄んでもいません。

それでも、砂漠の真ん中で水が手に入るならば、見つければ旅人が寄って来るでしょう。

旅人が立ち寄るようになれば、トレントに襲われることもあるでしょうし、逆にトレントが討伐されてしまって森を守る者がいなくなる心配もあります。

『トレントが居なくなったとしても、水路が役目を果たすようになれば大丈夫かもしれませんぞ』

「そうかもしれないけど、ここまで頑張って森を育てている姿を見ると、トレントに愛着が湧いちゃうよ」

『それは、そうかもしれませんな』

「そう言えば、魔の森はトレントの大量発生によって生み出されたって聞いているけど、今はトレントは生息していないのかな?」

『どうでしょう、魔の森は相当広いので、我々には気付かれずに生息している個体がいるかもしれませんな』

もし、トレントが森の環境を守っているのであれば、無闇に討伐せずに共存の道を探るのが良いのかもしれません。

「そういえば、実戦訓練場から出る魔物の死体だけで、トレントの養分は足りているのかな?」

『どうでしょう、今のところは足りているようにも見えますな』

「トレントは、木のように地中から養分を取り入れたりするのかな?」

『さて……そうした詳しい生態は、ワシらが生きていた頃には分かっていませんでした』

「その辺りも様子見するしかないのかな……」

引き続きトレントの様子を観察していると、ミルトがひょっこり顔を出しました。

「わふぅ、ご主人様、トカゲが来るよ」

「トカゲって、サラマンダー?」

「ううん、もっと小さいのが何匹か来る」

「案内して」

「わふぅ、こっち、こっち……」

マルトと一緒に影に潜って移動すると、砂漠の中を森に向かって近付いてくる一団がいました。

どうやら、サンドリザードマンのようです。

『森を見つけて様子を見に来たのでしょうな』

「ここに住み着くつもりかな?」

『どうでしょう、トレントたちの恰好の餌食になりそうですが……』

サンドリザードマンは、全部で七頭ほどの群れのようです。

確か、砂漠の岩山の陰などで暮らしているはずですが、日差しを避けられ、水も確保できるとみて寄って来たのでしょう。

「トレントが生きた獲物を捕食するところが見られそうだね」

『どのように襲うのか見ものですな』

サンドリザードマンたちには悪いけど、特に警告はしないで成り行きを見守ることにしました。

四つ足状態で、砂の上を滑るように進んできたサンドリザードマンたちは、森の手前で足を止めると、首を上げて鼻をヒクヒクさせ始めました。

「水の匂いを嗅いでるのかな?」

『そのようですな』

暫く様子見をしていたサンドリザードマンでしたが、意を決したように森に足を踏み入れると、今度は一気に池に向かって進み始めました。

さぁ、トレントの狩りの時間だ……と思ったのですが、意外にも全く動こうとしません。

サンドリザードマンが、すぐ側を通り抜けて行っても、触手すら動かさずにジッとしています。

ゴブリンの死体を与えた時には、すぐさま取り込んだのですが、生きた獲物に対しては慎重なのでしょうか。

一方、サンドリザードマンたちは、一気に池のほとりまで進むと、周囲を警戒しながらも一斉に水を飲み始めました。

やはり、砂漠に暮らす魔物にとっても水は貴重なようですね。

「うーん……トレントは動かないね」

『そうですな、これはちょっと意外ですな』

「この状態で、実戦訓練場から出た魔物の死体を与えたら、どうなるかな?」

『サンドリザードマンとトレントで奪い合い……には、ならない気がしますな』

「うん、僕もそんな気がする。今、トレントは擬態を続けてサンドリザードマンたちの油断を誘っているんだと思う」

『そうでしょうな。機会を捉えたら、一気に襲いかかるのでしょう』

トレントは、どこに目が付いているのかも分かりませんが、間違いなくサンドリザードマンには気付いているはずです。

それでも反射的に襲い掛からないのですから、意外にも高い知能を持ち合わせているような気がします。

『隙をみて、全てのサンドリザードマンに襲い掛かるのか、それとも一部だけを襲って共生するのか、これは見ものですな』

「うん、またまた面白くなってきたね」

新たな来訪者を迎えて、トレントの森から目が離せそうもありませんね。