軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トレントの生態

トレントを移植したオアシスの直径は、僕の能力限界ギリギリなんで五百メートルほどです。

池の直径が百メートル程度で、もし東京都内にあったら、結構な規模の公園になるんでしょうが、ダビーラ砂漠の真ん中なので、むしろ心もとない感じがします。

移植した森の全ての木がトレントという訳ではなく、樹木全体の中でトレントの占める割合は五パーセント以下だと思われます。

九十五パーセント以上が普通の木なので、ある程度は水を与えてやらないと枯れてしまうので、どのタイミングで水を撒こうか考えていたら、ラインハルトが意外な知らせを持ってきました。

『ケント様、トレントが水を撒いていますぞ』

「えっ、トレントが?」

『なかなか面白い光景ですので、見に行かれた方がよろしいですぞ』

そう言われてしまったら、行かない訳にはいきませんよね。

早速、トレントを移植したオアシスへ向かうと、本当にトレントが水を撒いていました。

それも、トレント同士が触腕を繋ぎ合わせて、中央の池から水を吸い、葉っぱを揺すって周囲に水を撒いているのです。

まるで、トレント式バケツリレーという感じで、オアシスの外周まで水を届かせています。

「もしかして、僕らが考えているよりも乾燥しているのかな?」

『そうなのでしょうな。空気だけでなく、土の下からも水を吸われているのではありませぬか』

「というか、このペースだと池が干上がりそうだね」

『早急な補充が必要でしょうな』

池を作った時には、ラストックの側を流れる川の下流から水を送還しましたが、一度に大量の水を補充するよりも、一定の量を常に補充できる形の方が良さそうです。

「川の下流の底と池の底を闇の盾で繋いじゃおうか」

『それならば、盾の大きさを調節することで水量も調節が可能になりますな』

「池から水が溢れるようになったら、トレントはどうするかな?」

『さて、それも含めて観察するのは面白そうですな』

トレントという魔物は、木に擬態する魔物として知られていますが、その生態はあまり知られていません。

発見した場合には、人が襲われないように討伐されてしまうので、こんな感じで観察する機会が無かったのでしょう。

「それにしても、トレントが水を撒いて木を守るとは思わなかった」

『トレントにしてみれば、自分達の隠れ蓑である森が枯れてしまうと、存在がバレてしまうから守る必要を感じているのでしょうな』

「なるほど、トレントにとって森は必要不可欠なんだね」

『ケント様、このトレントの習性を上手く利用すれば、砂漠の緑化も出来るかもしれませんぞ』

「そうだね、森ごと移植すれば、トレントが森の維持してくれそうだもんね」

トレントにしてみれば、隠れる場所が無くなるのは死を意味する訳で、それこそ必死に森を維持してくれるはずです。

「あとは、養分か」

『そうですな、今回移植した土の厚さには限りがあります。当然内部に蓄えられている養分にも限りがある訳で、それが尽きれば樹木もトレントも枯れてしまうでしょうな』

「とりあえず、ゴブリンを数匹放り込んでみようか」

『ケント様、それよりも良い考えがありますぞ』

「何か、肥料に当てでもあるの?」

『ございますぞ、実戦訓練場です』

「あっ、そうか! 訓練場で討伐訓練に使われた魔物の死体か!」

ヴォルザードでは、若手冒険者の死亡率を下げるために、生きた魔物を実際に討伐できる訓練場が設置されています。

てか、僕らが作ったんですけどね。

その訓練場に生きた魔物を納品するのは、僕の仕事です。

普通の人では、魔物を生きたまま移送するのは大変ですが、僕ならば送還術でぱっと終わらせられます。

定期的にゴブリンやオーク、オーガなどを納品しているのですが、それらの魔物が訓練で討伐された後、死体を片付ける仕事も請け負っています。

コボルト隊が闇の盾を使って回収し、魔の森の奥へと捨てに行っているのですが、その死体をトレント達の肥料に使えば、有効的に活用できます。

「そうだよね、トレントの場合には、別に生きていなくたって良いんだもんね」

『それに、トレントが自分の体の中を通して水を撒くのであれば、その水の中に養分が含まれている可能性もありますぞ』

「なるほど、トレントに水やりだけでなく、肥料の散布もやらせてしまうのか」

もしトレントが、本当に森を維持しているならば、水や養分となる魔物の死体の供給は必要ですが、本当に砂漠を緑に変えられるかもしれません。

「よし、闇属性ゴーレムを使って闇の盾を維持させて、オアシスの池から水が溢れるようにしよう」

『あとは、養分ですな?』

「実戦訓練場から出る死体だけで足りていそうならば、それを継続して、もし足りないようなら、ゴブリンの群れでも連れてこよう」

『ゴブリンが繁殖できるような環境を整えれば、トレントも増えて、森も拡大していくでしょうな』

「そうなったら、別の魔物が寄って来るかもしれないね」

『少なくとも、渡り鳥が羽を休めにくるでしょうな』

こうして考えてみると緑化作業は、砂漠の中に新たな食物連鎖の生態系を作りあげる作業なのだと思ってしまいます。

「虫とか小動物とかも集めて来た方が良いのかな?」

『いずれは必要になるかもしれませんが、とりあえずはトレントの生態を観察することに重きを置いた方が良い気がしますぞ』

「そうだね、一度にあれもこれもと進めていくと、何が効果的で、何が無駄なのか分からなくなりそうだもんね」

トレント達の様子を観察しながらラインハルトと話をしていると、コボルト隊が実戦訓練場からゴブリンの死体を運んできました。

魔石の取り出し作業の練習台にもされたらしく、ゴブリンの胸と腹は無残に引き裂かれ、内部の臓器がはみ出していました。

コボルト隊がゴブリンの死体を放り投げると、すぐさま近くにいたトレントが、触手をウネウネと動かしながら寄ってきました。

「うわっ、あれが口なのか?」

『そのようですな』

ゴブリンの死体を触手で引き寄せると、トレントは木の幹に見える部分の縦方向の割れ目をガバっと開きました。

食虫植物のように、内部の消化液で溶かして食うのかと思いきや、口と思われる裂け目の中には、小さく鋭い歯がビッシリと生えていました。

形こそ違えども、歯が三重、四重に生えている様子などから、溶かすのではなく、咀嚼して養分として取り入れるのだと分かりました。

口と思われる器官に放り込まれたゴブリンは、バキバキ、ボリボリといった絶望感漂う音を残して飲み込まれていきました。

「でもさ、一頭しか食べに来ないね。縄張りとか有るのかな?」

『どうでしょう、とりあえず我先にと襲い掛かって来るわけではなさそうですな』

「良く見たら、あのトレント、他のトレントと繋がっているね」

トレントの触手を辿っていくと、別のトレントの触手と絡み合っていました。

互いを攻撃し合う訳ではなく、大人しく繋がり合っているように見えます。

「やっぱり、水だけでなく養分も分け合っているのかな?」

『可能性はありますな。極度の乾燥状態に晒されるなど、生命の危機に晒されると、種族全体で生き延びる方向に変わるのかもしれませんな』

「普段のトレントは、こんなに協力的ではないのかな?」

『このような協調性を持っているという話は聞いたことがありませぬ』

「だとしたら、トレントの知られざる実態を初めて観察したことになるのか?」

『バッケンハイムなどで論文を発表すれば、大騒ぎになるかしれませんぞ』

大騒ぎというほどの騒ぎにはならないでしょうが、魔物の生態を研究している人にとっては驚くべき情報になるかもしれませんね。