軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

砂漠緑化計画

リーゼンブルグ王国の西側は、ダビーラ砂漠と境を接しています。

ダビーラ砂漠を越えた西側に広がるバルシャニア帝国とは、長年に渡って敵対関係が続いていましたが、大きな戦いは片手で数えられる程度しか起こっていません。

理由は勿論、ダビーラ砂漠という存在が兵站の維持を難しくしていたからです。

天気が穏やかな時であっても、大量の物資を抱えて砂漠を進むのは困難を伴います。

一度天候が崩れれば、隊列は砂に埋もれて足止めを余儀なくされてしまうのです。

ダビーラ砂漠は、リーゼンブルグ王国とバルシャニア帝国の交流を妨げると同時に、二つの国が泥沼の戦いに陥るのを防ぐ役割も果たしてきました。

そのダビーラ砂漠ですが、西からの偏西風によって年々東へと広がり続けてきました。

リーゼンブルグ王国の西に位置する領主たちは、様々な対策を講じて砂漠が広がるのを食い止めようとしてきましたが、凡庸な領主が現れる度に加速度的に村や街、農地を飲み込んでいきました。

かつてカミラ・リーゼンブルグが統治していたラストックは、砂漠の砂に埋もれてしまった地域から、新たな土地を求めて入植してきた者たちのための街です。

生活の場を失った者たちは、王家の指示に従い、新たな土地を切り開くしかなかったそうです。

それほど、一度砂漠化してしまった土地を再び生活の場とするのは、ほぼ不可能とされてきたのですが……ここ最近、ダビーラ砂漠は西へ向かって追いやられつつあります。

土地を治める貴族の家の騎士団や、王国騎士団から派遣された土属性魔法を使える者たちが、村や街、農地を埋め尽くした砂をまとめて固めておくと、いつの間にか無くなっているのです。

四角であったり、ただの山型であったり、とにかく砂漠を西へと押し戻すために、掘り起こし、積み上げて、固めておくと、ある日突然姿を消してしまいます。

それは一瞬であったり、まるで地面に飲み込まれるようであったり、消える状況に違いはあれども、砂はどこかへと消え失せてしまうのです。

後に残されるのは、かつて人々が暮らしていた村や街の遺構であったり、農地であった土の地面です。

積み上げた砂が無くなったら、土属性の術士たちはまた砂を集め、積み上げ、固めていきます。

強い西風が吹けば、数日の努力が無に帰すこともありますが、術士たちは黙々と作業を続けています。

「おぉ、綺麗さっぱり無くなってるな」

「あぁ、魔王様のおかげだ」

作業に関わっている者たちは、砂の塊がなぜ消えるのか、ちゃんと分かっているようです。

かつて亡国の危機に瀕したリーゼンブルグ王国を救った、魔王ケント・コクブとその眷属が、砂山をいずこへか運び出しているのだと。

一瞬で砂山が姿を消すのは僕の送還術、地面に飲み込まれるように姿を消すのは眷属たちが闇の盾を用いて影の空間へと引き入れているからです。

リーゼンブルグ王国西部の砂漠緑化計画が始められてから、既に平均で二キロ、ダビーラ砂漠との境は西へと移動しています。

「よし、今日の分は片付いたかな」

「わふっ、もう無いよ、ご主人様」

定期的にリーゼンブルグの西部を巡回して、砂の塊を見つけると送還術を用いて、ダビーラ砂漠の海岸へと移動させています。

そのまま砂漠に戻してしまうと、また風に吹かれて戻ってきてしまう可能性が高いので、影響の少ない海岸線に捨てることにしたのです。

ダビーラ砂漠の海岸では漁は行われていないので、砂を投棄しても影響は限定的でしょう。

「わふっ、ご主人様、トレントはどうするの?」

「前回のは、あれからどうなった?」

「わぅ、枯れちゃったみたい……」

「あちゃぁ、駄目だったか。どうなったのか見に行こう」

実は、リーゼンブルグ王国の砂漠緑化計画を手伝う他に、ダビーラ砂漠の根本的な緑化が出来ないか試しています。

その一つが、トレントの移植なのです。

南の大陸で見つけたトレントをダビーラ砂漠へと送還して、繁殖できるか試してみましたが、最初に送ったものは枯れてしまったようです。

最初に転送した場所からは、だいぶ移動していましたが、バッタリと倒れ、カサカサに乾燥しちゃってますね。

「やっぱり植物の魔物だから、水が無いと生きていけないみたいだね」

ダビーラ砂漠の緑化にトレントを使おうと思いついたのは、魔の森はトレントの大量発生によって出来上がったと聞いたからです。

それならば、ダビーラ砂漠にトレントを送還すれば、勝手に緑化を進めてくれるかもしれないと思ったのですが、現実はそう甘くはありませんでした。

「うーん……あんまり大量に送り込んで、大繁殖とかしちゃったら厄介だし、何か良い方法は無いかなぁ」

何か打開策は無いだろうかと頭を捻っていると、ラインハルトがアイデアを出してくれました。

『ケント様、南の大陸のトレントを含めた地表部分をゴッソリ送還して、オアシスを作ってみてはいかがです?』

「なるほど、トレントだけでなくて土まで移植しちゃうのか、いいね」

言われてみれば、いくらトレントといっても、砂漠の真ん中に放り出されれば生きてはいけません。

生息環境を丸ごと移植すれば、結果も違ってくるかもしれません。

『ただし、一般の旅人が誤って立ち寄らないようにしないと、トレントの餌食となってしまいますぞ』

「そうか、それはマズいね。じゃあ、交易路として使われている所から、見えないぐらい離れた所で実験してみようか」

『念のため、一般の者が近づかないように、眷属を配置しておいた方が良いでしょうな』

早速、トレントによる砂漠緑化計画第二弾に取り掛かることにしました。

トレントが生息するには、最低限でも水と養分が必要でしょう。

そこで、トレントを含む南の大陸の森をドーナツ状に切り取ってダビーラ砂漠へと送り込むことにしました。

そして、森の中心部には、水が砂に吸い込まれないように底を固めた、人工の池を作ります。

これだけですと、いずれ太陽の熱で蒸発してしまいますから、水属性の魔法が使えるザーエ達に巡回してもらい、水の補充を行ってもらいます。

「これでどうかな、ラインハルト」

『そうですな、トレント以外の樹木は自分では移動できませんので、このままでは枯れてしまう可能性が高いような気がしますな』

「時々、人工的に水を与えてやる程度では、焼け石に水かなぁ?」

『ある程度は維持できると思いますが、植物のみの力で自活できなければ、広範囲の緑化は難しいでしょうな』

「そうなんだよねぇ、ここだけ維持できても意味が無いんだよなぁ……」

『それでも、試してみる価値はあるでしょう。試してみて駄目だったならば、何が問題だったのか課題が見えてくるはずです』

「そうだね、その課題を一つずつ解決していけば、いずれ広範囲の緑化に辿り着けるかもしれないね」

という訳で、まずは星属性魔法を使ってダビーラ砂漠を上空から眺めて回り、候補地を選定しました。

ダビーラ砂漠の上空は、何度も飛んで見ていますが、荒涼とした砂の大地が広がる世界は圧巻です。

ここを緑の大地に変えるなんて、本当に出来るものなのだろうかと思ってしまいます。

候補地選びが終わったら、目印用の闇属性ゴーレムを設置しておきました。

続いて、南の大陸にある岩山へと移動して、送還術を使って岩をくり抜いて貯水池を作り、ついでにダビーラ砂漠へと送還しました。

池の水は、ラストックの側を流れる川の下流から、これまた送還術で送り込みました。

「そうか、送還術を使って、時々水を撒けば良いのか」

『ラストックよりも下流であれば、水量が減っても問題ありませんな』

「うん、この方式で水を補充しよう」

最後は、南の大陸のトレントが生息する森へと移動して、ダビーラ砂漠へと送還します。

トレントは、ジッとしていると普通の木と見分けが付きませんが、近くをゴブリンなどの魔物が通り掛かると、枝に擬態した触腕を絡め、洞のような消化器官へと送り込んで養分にしてしまいます。

土に埋もれているように見えますが、根のような脚を使って自ら移動することも可能です。

『ケント様、時折養分になるゴブリンなどを与えてみてはいかがですかな』

「そうだね、養分が足りなそうだったらやってみよう。ではでは、送還!」

トレント十数体を含めた森を地下二メートルぐらいまで掘り下げて、まとめてダビーラ砂漠へと送還しました。

「おっと、ちょっと池と段差が出来ちゃったけど、まぁこの程度なら大丈夫かな」

『ぶははは、まさに砂漠のオアシスですな』

ラインハルトが言う通り、砂漠のど真ん中に、ここだけ緑が生い茂っています。

さて、今度は何日持つか、それともここから緑が広がっていくのか、緑化実験スタートです。