作品タイトル不明
観光アイテム
クラウスさん立ち合いの下で行われた視察の後、指摘された部分の手直しを行い、宿泊所の建物を引き渡しました。
あれこれ無理難題を言われたら、どう対処しようかと思っていましたが、意外にもあっさりと視察が終わったので、ちょっとホッとしました。
てか、クラウスさんは視察が目的じゃなくて、馬に乗って遠出がしたかっただけみたいですけどね。
視察をしている時間よりも、屋台で飲んでる時間の方が遥かに長かったですし、勿論そうした様子はマリアンヌさんに報告……は、勘弁してあげましょう。
えっ、一緒に酒を飲んで盛り上がったからじゃないですからね。
武士の情けってやつですよ、武士の情け。
宿泊所の野営地への設営は一日で終わりましたが、それまでの下準備には相応の時間が掛かっています。
まぁ、殆どがコボルト隊の頑張りなんですが、僕も一応現場を監督して、手伝っていたんですよ。
という訳で、久々に依頼を抱えていない休日となりました。
一日目は、我が家の風呂場でコボルト隊とゼータ達をワシワシと洗い、乾かして、思う存分モフって慰労しました。
僕的には、かなり体力を削られる作業ではありますが、精神的には癒される時間なんですよね。
休日二日目は、コボルト隊は通常業務に戻り、僕はといえばネロと一緒に自宅警備に徹しようと考えていました。
天気も良いですし、ネロのお腹に寄り掛かり、セラフィマを抱えて最高のお昼寝タイムを過ごそうかと考えていたのですが……。
「申し訳ございません、ケント様。ちょっと仕事がありまして……」
なんということでしょう、あっさりと断られてしまいました。
それどころか、カミラにまで断られてしまいました。
「うーん、僕なにかやらかしたのかなぁ……」
「ご主人様、自宅警備とは孤独との戦いにゃ、ネロを手本にして戦うにゃ」
いやいや、ネロが戦っているのは眠気じゃないの。
いや、そうじゃないか、眠気と戦うどころか思いっきり受け入れちゃってるもんね。
まぁ、今日はお休みだし、僕も眠気と戦うつもりは無いけどね。
セラフィマと昼寝を楽しめなかったのは残念だけど、ネロと一緒に日当たりの良いベランダで自宅警備の体制を整えると、すかさずマルト、ミルト、ムルトが現れました。
うんうん、お嫁さんをモフれなくても、この僕がモフに困ることなんて無いのだよ。
「んー……癒されるなぁ。でも、セラもカミラも何をしてるのかな?」
「わふぅ、うち知ってるよ」
「えっ、マルトは知ってるの?」
「わぅ、うちも知ってる」
「うちも、うちも!」
「えっ、もしかして知らないのって僕だけ?」
「大丈夫にゃ、ネロも知らないにゃ」
いやいや、そこは自信たっぷりに言うところじゃないよね。
でも、僕に内緒なんて、ちょっと寂しいですね。
「セラとカミラは、本を作ってるの」
「えっ? 本って、読む本?」
「読まない本は意味無いの」
「まぁそうだけど、何の本だろう?」
「わふぅ、勿論ご主人様の本だよ」
「えっ、僕の本?」
本を作っているというのも驚きでしたが、その本が僕を描いたものとは更に意外でした。
でも、僕の本って、どんな内容なんでしょう。
「カミラの本は、王城でご主人様がアーブルをやっつけた話なの」
「セラの本は、ご主人様がギガースをやっつけた話なの」
「おぉ、なるほど。確かに読み物としては面白いかもしれない」
どんな内容になっているのか分かりませんが、アルダロスの王城でのアーブルとの対決では、愚王と呼ばれたカミラの父親である国王が殺害され、クーデター成功寸前のところまでいきました。
もし、僕がアーブルと片腕であるネストルや、宰相との密談を撮影した様子をプロジェクターで再生して見せなかったら、騎士団長は敵に回っていたかもしれません。
アーブルは王城を制圧する手筈を整えていましたが、コボルト隊やネロ、ゼータ達の活躍で形勢逆転、ダンスホールでは僕が直接制裁を下しました。
実にドラマチックな展開でしたし、読み物にするには面白そうですよね。
「あれっ、でも……ちょっと待って」
「どうしたにゃ? ご主人様、顔色が悪いにゃ」
「いやいや、大丈夫、大丈夫。読み物として書かれているんだから、主人公の僕は恰好良く書かれているはず……」
アーブルとの対決の様子を思い出していたら、ちょっと不味いことに気が付きました。
最後にアーブルを叩きのめしたのは、身体強化の魔術に風属性の魔術まで加えて加速させた僕の鉄拳だったのですが……骨の強化が足りなかったんですよね。
アーブルは叩きのめしたものの、僕の拳もバッキバキに砕けてしまい、情けない悲鳴を上げながら自己治癒魔術を使ったんでした。
「フィクションだよね……史実に忠実なノンフィクションじゃないよね?」
本の結末が気になってしまい、このままでは夜しか眠れなくなってしまいそうです。
心配だけど、物凄く心配だけど、カミラの演出力に期待しましょう。
「ギガース討伐は……うん、問題無いはずだけど……」
「ギガース討伐では、ネロも活躍したにゃ。きっと恰好良く書かれているはずにゃ」
「そうそう、ネロがギガースを牽制してくれてた……けど、討伐の現場にはセラは来てなかったよね」
「にゃっ! ネロの活躍は?」
「ネロの活躍はちゃんと書いてもらえてると思うけど、僕の様子はコンスタンさんやグレゴリエさんから聞いた話になるんだよなぁ……」
セラフィマは僕のことを悪く書いたりしないだろうけど、元となる情報に悪意が潜んでいたら、とんでもない人物に書かれちゃう可能性も無きにしも非ずだよね。
「それにしても、なんでセラとカミラは本なんて作ろうと思ったんだろう?」
「わふぅ、うち知ってるよ」
「うちも、うちも」
「うちも知ってる」
何だか、また僕だけ蚊帳の外という感じです。
「それで、二人が本を作る理由って?」
「乗合い馬車でヴォルザードまで来た人のお土産」
「お土産?」
乗合馬車を設置する理由は、ヴォルザードとラストックの間での貿易が活発になり、それに伴って商人以外の人もヴォルザードやラストックを訪れてみたいと考えるようになったからです。
つまり、ラストックから訪れる人に対して、ヴォルザードは魔王ケント・コクブの街だというイメージを植え付ける作戦のようです。
「いやいや、ラストックはクラウスさんが治める街だから、僕の街みたいなイメージは怒られるんじゃないかな」
「わぅ、大丈夫。クラウスは儲かればOKだって」
「あぁ、そうだった、クラウスさんならそう言うよね」
つまり、僕はヴォルザードの観光アイテムとして使われるようです。
マルトたちが聞いている話だと、僕の観光利用は本だけではないようです。
例えば、我が家は『魔王の館』的な観光名所となるようです。
まぁ、これまでもヴォルザードの人達から見物されてましたけど、最近は飽きられたのか城壁の上から我が家を見る人も減っています。
ラストックから来た人が城壁に上るようになれば、当然我が家も見られてしまいます。
まぁ、露天風呂とかは城壁の上からでは見えないように作ってありますけどね。
他には、『魔王の下宿先』としてアマンダさんの店が紹介されるそうです。
ブルーノさんのリーブル農園も、『魔王の勤務先』みたいな感じで売り込まれるそうです。
それは流石に農園さんに迷惑が掛かると思ったのですが、むしろ、ブルーノおじいちゃんは自慢のリーブル酒を沢山の人に知ってもらうためにノリ気みたいです。
その他にも、『魔王』を題材にして、ヴォルザードの観光地化が進められるようです。
それで、僕のところにはお金入って来るのでしょうか?
ベアトリーチェが知らないはずがないから大丈夫でしょうけど、こっちの世界に肖像権的な権利とかあるんでしょうかね。