作品タイトル不明
苦労人ジョーは呆れる
※ 今回は近藤目線の話です。
ヴォルザードとラストックを往復する場合、早朝に出発して二つ目の野営地で一泊して、翌日の早朝に出発して夕方に到着するというパターンが一般的だ。
一つ目の野営地と三つ目の野営地で二泊して、昼に到着するというパターンも可能だが、あまり一般的ではない。
泊まりが増えれば、護衛の冒険者に支払う報酬が増えてしまうからだ。
そのため、商人の多くはラストックに到着してからが忙しい。
商品を納入した後、その日のうちに持ち帰る商品の積み込みを済ませて仕舞わなければ、翌日の早朝に出発できなくなってしまうからだ。
その間、護衛の冒険者は積み込み作業を手伝う場合もあるし、手を貸さない場合もある。
全ては契約時に条件が提示されていて、手伝う場合には当然報酬が支払われる。
オーランド商店の護衛依頼の時には、積み込み作業はノータッチだったが、今回は荷物の積み下ろしの手伝いをする契約になっている。
正直、護衛と言っても、道中の魔の森では、警戒するだけで殆ど出番が無い。
たまにオークが現れたりするが、脅して追い払う程度は仕事をしたうちには入らない。
なので、ラストックでの荷物の積み下ろしは、追加報酬も稼げるバイトという感覚だ。
中には重たい荷物もあるが、身体強化魔術の練習も兼ねているから苦にはならない。
今回も、また新しい依頼主だが、往路は全く問題無く終われたし、現地に荷物の積み下ろし、そして復路の一日目も問題無く終わろうとしている。
ここまで、魔物には遭遇せずに進んでこれたが、それでも野営地の壁が見えてくるとホッとする。
「全員に連絡、野営地の壁が見えてきたが、中に入るまでは油断しないように」
「新田、了解」
「古田、了解」
「鷹山、了解。後方も問題無し」
連絡用のトランシーバーは、今回も良いアピール材料になっている。
定時連絡以外の緊急コールは一度も無いが、地球の技術が詰まった道具は、ただ使うだけでも注目される。
他の冒険者から見れば、あいつらだけズルいと思うかもしれないが、使えるものは何でも使ってアピールするのも冒険者というものだ。
何よりも、自分達の安全のためだから、使わないという選択肢は無い。
魔の森の中央にある二つ目の野営地は、片方をラストックの騎士団が、もう片方をヴォルザードの守備隊が管轄している。
どちらの野営地を使うかは自由なのだが、ヴォルザードの商人はヴォルザード側の守備隊が管轄する方を利用するのが一般的になっている。
門を潜って、城壁内部へと入った途端、御者を務めているタバス商会の番頭、オンゴーラさんが驚愕の声を上げた。
「なんだ、あれは!」
門を入った右側の守備隊詰所の向こう側に、一昨日には何も無かった場所に大きな建物が建っている。
三階建ての建物の外観は、ヴォルザードで良く目にする建築様式とは異なり、まるで日本の鉄筋コンクリートの建物のようだ。
「あぁ、国分の……魔物使いの仕業ですね」
「そうなのか?」
「確認した訳じゃないですけど、他にあんな建物を二日で建ててしまうような者は、国分以外に居るとは思えないので」
「うーん……一体、どんな魔術を使ったんだ?」
「詳しい方法までは分かりませんが、国分本人の能力プラス、眷属の魔物を総動員したんじゃないですかね」
「そうなのか……」
「それよりも、今夜の野営場所を確保しましょう」
「おう、そうだった」
野営地には、トイレと水場が用意されている。
トイレは水洗式で、粗相をした者がいても、個室丸ごと水洗できる作りになっている。
そのため、臭いの問題は殆ど無いのだが、あまり近くだと人の往来が多くて落ち着かない。
トイレと水場に近すぎず、遠すぎないのがベストポジションになる。
野営場所を確保したら、馬車から馬を外して休ませる。
野営地の内部ならば魔物に襲われる心配は要らないが、積荷を盗まれる可能性はあるので気は抜けない。
「ジョー、ちょっと情報収集に行ってくる」
「おう、こっちは夕飯の準備してるよ」
野営場所を確保して、馬車を停めたところで、新田が情報収集に出掛けた。
謎の建物は国分の仕業なのは間違いないとして、一体何のための建物なのかが不明だ。
大きな建物が建つということは、そこに入る人や物が存在するということだ。
魔の森を抜ける物流の一端を担っている者としては、それが自分達の稼ぎに繋がるか否かは確かめておく必要がある。
「何の建物なんだ?」
「やたらと小さな窓が付いてるけど……」
鷹山も古田も、野営場所からも見える建物を眺めて首を捻っている。
日本の鉄筋コンクリート建築のように見えるが、窓の数が異常だ。
「三階建てだよな?」
「六階建てじゃねぇだろう」
高さとしては三階建てだが、窓の並びは六段になっている。
国分が建てている以上、何らかの理由があるのだろう。
「ジョー、火が点いたぞ」
「おぅ、今夜はうどんだ」
鷹山が準備したのは、オーランド商店と共同開発した、ヴォルザード式の練炭コンロだ。
火力が安定して長持ちする、一定規格の炭とコンロという発想は、こちらの世界には存在しておらず、殆どのパーティーは竈を組んで調理を行っている。
土属性の魔術士がいれば竈の設営は簡単だが、居ない場合には手間が掛かる。
それに、魔の森の野営地では薪を確保するには一度外に出るか、内部で割高な薪を買うしかない。
なので、手間の要らない竈と炭というセットは売れると睨んだのだ。
俺達は、練炭の製造法や寸法などの詳細な規格と、日本で流通している見本を提供しただけだが、商品化されるとロイヤリティーが振り込まれることになっている。
「こいつが売れたら、働かなくて良くなるんじゃね?」
「そこまでは儲からないだろう」
古田と新田は、蚊取り線香のアイデア提供で、かなり儲けたらしいが、二匹目のどじょうとなるかどうか。
「俺は、シーリアとリリサに不自由しない生活を送らせてやれればそれでいい」
「俺は安定とかまでは考えてないな」
「ちっ、リア充どもめ……爆発しろ」
この依頼を受ける前、俺はリカルダと同棲を始めた。
八木みたいに顰蹙を買わないように、夜の営みは配慮しているつもりだ。
まぁ、これでシェアハウスで暮らしている男の半数以上が所帯持ちで、パートナーがいないのは新旧コンビだけとなったから、嫉まれるのは仕方ないと諦めている。
「ていうか、合コンしようぜ、合コン」
「やらねぇぞ、先走って台無しにしたのは、お前らだからな」
俺がリカルダに頼んでセッティングしてもらった合コンは上手くいきかけていたはずが、新旧コンビが何やら早とちりして台無しにしたらしい。
「いや、そこを何とか……」
「自分で何とかしろ」
「冷てぇじゃねぇか、ジョー」
またいつもの愚痴パターンに入りかけたところに、情報収集から新田が戻ってきた。
「おぅ、分かったぞ。乗り合い馬車のための宿泊施設だとさ」
「ラストックとの間に乗り合い馬車を通すのか」
「みたいだな」
「あの変な窓は何なんだ?」
「カプセルホテルなんだってよ」
「あぁ、あれ一個一個がカプセルになってるのか」
カプセルホテルで個別に窓が付いていると考えれば、あの窓の数は納得だ。
「てかよ、建物の材質がやべぇ。何を使って作ってあるのか知らないけど、叩くと金属みたいな音がする」
建物の近くに、同じ材質の柱が立ててあるそうだが、通りすがりの冒険者が剣で斬り付けたら刃こぼれを起こしたらしい。
ついでに、建物は半日ほどで出来上がったそうだ。
「国分のやつは、どこに行こうとしてるんだ?」
「さぁな、俺に聞かれても分からねぇよ。てか飯にしようぜ」
「てか、聞いてくれよ和樹、ジョーが冷てぇんだよ」
「八発様がどうしたって?」
「合コンしてくれねぇって言うんだぜ」
「何だとぉ!」
「あぁ、うるさい、うるさい、さっさと飯にするぞ!」
結局、この晩も新旧コンビの愚痴に付き合わされる羽目になった。
国分よ、そんな建物を建てる余裕があるなら、こいつらに女の子を紹介してやってくれ。