軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

苦労人ジョーは新たな依頼主を掴まえる(後編)

※今回も近藤目線の話になります。

ヴォルザードからラストックへと向かう街道は、今回も何の危険も感じず順調そのものだ。

ここが、かつては魔の森と呼ばれていたなんて、殆どの者が忘れているのではなかろうか。

俺と鷹山が初めて魔の森を通った時には、切迫した命の危険を感じるほどではなかったが、それでもリザードマンの群れに襲われた。

国分と眷属のスケルトンの助けがあったから撃退できたが、もし俺達だけだったら全滅していただろう。

新旧コンビは、オークの群れに襲われて殺されかけ、ギガウルフの群れにも取り囲まれたそうだ。

そうした魔物もまた、国分とスケルトンの活躍で退けたらしい。

そして今、こうして危険を感じずに馬車を走らせていられるのも、国分と眷属たちのおかげなのだが、その有難味も忘れられつつあるような気がする。

「マグレダさんは、以前からラストックと取引していたんですか?」

「とんでもない! ここが安全になったから新たな取引先を探して通うようになったけど、以前は危険すぎたし、護衛の費用が高すぎて商売にならなかったよ」

街から街へと荷物を運ぶ場合、当然護衛などの費用が掛かる。

こうして楽に往来が出来るようになる以前は、腕の立つ冒険者を雇わなければならず、当然費用も高くついたそうだ。

「マールブルグには以前から通っていたけど、こっちは割に合わなかったからね。どこの商会も一緒だろう」

「そうですね。オーランド商店ですらラストックへは進出していなかったみたいですしね」

俺達が頻繁に護衛を請け負っていたオーランド商店は、御者を務める人達も元冒険者だし、そこに更に護衛を雇うのだから、戦力は相当高くなる。

それでも魔の森を越えるのは、リスクが高すぎると判断されていたのだ。

「こうして魔の森を抜けられるようになったのも、魔物使いのおかげなんだろう?」

「えぇ、途中にある野営地をつくったのも国分です」

「あぁ、あたしらも利用させてもらってるけど、あんな物を一人で作っちまうなんて、とんでもないねぇ」

「俺達も驚いたり呆れたりするのには慣らされましたよ」

今夜の野営も、国分が作った野営地を利用させてもらうつもりだ。

ヴォルザードの守備隊やリーゼンブルグの騎士団も常駐するようになって、揉め事なども減っていると聞いている。

ヴォルザードからラストックまでの道中、三か所のうちの最初の野営地で昼休憩を済ませ、中間の野営地で宿泊する。

中間の野営地が近付いてきて、初日は無事に終われそうだと思っていたら、突然前方からけたたましいハンドベルの音が響いてきた。

「全員警戒、前方でトラブル発生の模様、内容は不明」

「新田了解」

「古田了解」

「鷹山了解」

すぐさま三人から返事がきた。

ダレてる様子も、力んでる様子も感じられない。

「マグレダさん、速度を緩めながら近付いて下さい。状況によっては加勢します」

「分かったよ、よろしく頼むよ」

街道でのトラブルについては、助け合うのが原則だ。

とはいえ、あまりに強力な魔物の場合には、逃亡しても構わない。

まずは相手を確認するためにも近付かないといけない。

マグレダさんが速度を落として馬車を進めていくと、前方に動きを止めた馬車を見つけた。

止まった馬車の左側には、盾を構えた冒険者の姿があり、更に左側には森から踏み出してこようとしているオークの姿があった。

「対象確認、オーク、数は三頭以上」

魔物の情報をトランシーバーで伝えると、すぐさま三人から了解すると返事があった。

「マグレダさん、止めて下さい」

「あいよ、応援に行くのかい?」

「いいえ、ここから援護します」

「この距離からかい?」

「はい、倒すのではなく追い払う目的ですから」

まだ止まっている馬車まで、百五十メートルほどの距離がある。

この距離でも魔法ならば攻撃は可能だが、もっと引き付けてから撃つのが一般的だ。

ジリジリと馬車へと近付こうとしているオークに狙いを定め、最近新たに開発した魔法を発動させる。

パーン!

突然鳴り響いた破裂音に、オークだけでなく対峙している冒険者までもがビクリと動きを止めた。

これは集めた風を一気に解放して音を立てる、言うなればコケ脅しの魔法だ。

馬車を護衛している場合、魔物は討伐するよりも追い払った方が良い。

倒しても良いのだが、倒してしまうと死体を処理しないと別の魔物を引き寄せてしまうからだ。

魔物を追い払うのに、一番適しているのは火属性魔法だ。

死なない程度、でも食らえば火傷する魔法をぶつけられると、大概の魔物は逃走を選択する。

一方、風属性魔法の場合、火属性のような派手さがないし、威力を間違えると致命傷になってしまうから追い払うには適していないのだ。

そこで、考えたのが派手な音で追い払う魔法だ。

音を立てるだけなので、あまり魔力を消費しないで済むし、音だけとは言っても耳元で食らえば鼓膜が破れる可能性だってある。

動きを止めていたオークと冒険者だったが、音だけで他に変化が無いと分かると睨み合いを再開した。

「さすがにコケ脅し一発じゃ無理か……そんじゃあ次だ」

再び、オークを狙って魔法を発動させる。

「ブギィィィ!」

三頭いるオークのうち、一番遠いオークが悲鳴を上げて斜め後方を振り返った。

その背中からは血が流れている。

これは遠距離で魔法を発動させる方法の応用で、今度は攻撃の向きを変える練習をしていたのだ。

敵と対峙している時に後方から攻撃があれば、挟み撃ちを警戒しなければならなくなる。

「だいぶ混乱してるみたいだな、もう一発……」

冒険者と魔法が来た方向をキョロキョロと見回しているオークに向かい、もう一度コケ脅しの魔法を発動させる。

パーン!

「ブギィィィ……」

一番手前にいるオークが、耳を押さえて悲鳴を上げた。

オークは、人間よりも嗅覚が優れているのは良く知られているが、大抵の動物は人間よりも優れた聴覚をしている。

だから、ただの破裂音でも効果があるだろうし、耳元で発動させてやれば効果は大きくなる。

「ブギッ、ブヒィ……」

「ブグゥ、ブヒブフゥ……」

混乱したオークたちは、盛んに鳴き交わしながら、ジリジリと森の方へと下がっていく。

そろそろ、仕上げといこうか。

コケ脅しの魔法を三度発動させた直後に、今度は細かい風の刃をバラバラと叩き付けてやる。

「ブギィィィ……」

一頭のオークが逃走に移ると、残りの二頭も後を追って森へと逃げ込んでいった。

「マグレダさん、行きましょう」

「はぁぁ、こいつは恐れ入った。オーク三頭を離れた場所から手玉に取っちまうとは、あんた若いのに大した腕前だよ」

そう言うとマグレダは、上機嫌で馬車を走らせ始めた。

「いつまでも、魔物使いのオマケじゃいられませんからね」

「今のあんたを見て、そんなことを言う奴なんか居やしないよ」

「だと良いですけど……まだまだですよ」

「はぁ……いい男だねぇ、あたしが若けりゃ押し倒してでもモノにするね」

いやいや、それは勘弁してもらいたい。

押し倒されたら潰されそうだ……とは、間違っても口にしないけどな。