軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

若かりし頃 1

※今回はケントたちが召喚される二十年ほど前のクラウス目線の話になります。

「護衛依頼の完了報告だ」

「お疲れ様でした、クラウスさん」

オーランド商店で受け取った依頼完了の伝票をカウンターに出すと、受付嬢のノーマは満面の笑みを浮かべてみせた。

「報酬はどうされますか?」

「俺とドノバンの口座に折半して積んでおいてくれ」

「かしこまりました」

「よろしく」

「あっ、クラウスさん……」

「ん? 指名依頼でもあるのか?」

「いえ、あの……ご予定が無ければ今夜……」

「悪いな、今夜は先約があるんだ」

ノーマの誘いを振り払い、酒場も素通りしてギルドを出ると、空は茜色に染まっていた。

ここヴォルザードは、ランズヘルト共和国の西の端、魔の森と境を接する最果ての街だ。

ダンジョンで採れる鉱石と、魔物の討伐で得られる素材が主な産業で、冒険者の聖地などとも呼ばれていて、 普通の領地に比べて数多くの冒険者が在籍している。

むさくるしい冒険者が集まるギルドにおいて、受付嬢は憧れの存在だ。

その受付嬢からの誘いを断るなんて、普通の冒険者にしてみたら噴飯物の所業だろうが、俺には断る理由がある。

顔付きもスタイルも申し分ないノーマだが、求めているのは冒険者としての能力ではなく俺の出自だ。

俺の名はクラウス・ヴォルザード。

冒険者として活動している時にはクラウスで通し、家名を名乗ることは無いのだが、ギルドの受付嬢ならば俺の家の事情を知っていても不思議ではない。

家名の通り、俺はここヴォルザードを治める領主の弟だ。

「あぁ、やっぱり戻って来たのは失敗だったかな」

半年ほど前に兄貴が家督を継ぎ、頼み込まれてヴォルザードに戻って三ヶ月ほどになる。

それまでは、ブライヒベルグのギルドに籍を置き、気ままな冒険者生活を送っていた。

ブライヒベルグやバッケンハイムでは、俺がヴォルザードの領主一族なのは知られていなかったから、家名目当ての女に煩わされることも無かった。

俺と同じ冒険者の女や食堂の看板娘、商売女、ギルドの受付嬢とも浮名を流したこともあるが、ただの冒険者だと思われていたから出来たことだ。

既成事実を盾にして、結婚を迫られる心配をしながらじゃ、楽しい夜を過ごせるはずがない。

「どうかしたんですか、浮かない顔して」

夕焼けを眺めて苦笑いを浮かべると、ギルドの外壁に寄りかかって待っていたドノバンが歩み寄ってきた。

「あぁ、受付嬢からの誘いが激しくってよぉ……」

「さすがヴォルザード家の家名はモテますね」

「ちっ、言いにくいことを平然とぬかしやがって」

「でも、それでうんざりしてるんでしょう?」

「まぁな」

俺よりも二つ年下のドノバンとは、バッケンハイムで知り合ったのだが、妙に馬が合って行動を共にしてきた。

兄貴からの要請でヴォルザードに戻って来ると決めた時も、当然のような顔で付いてきた。

「晩飯、どうします?」

「埃を落として、いつもの食堂でいいだろう」

「いいっすよ」

領主の屋敷には俺の部屋もあるのだが、堅苦しいのは御免なので、倉庫街の近くに部屋を借りている。

台所などの水回りの他に二部屋あって、ドノバンと共同で借りている。

料理もやって出来なくはないが、護衛依頼でバッケンハイムまで行って来て、さっき戻った

ばかりだから、やる気が起きない。

部屋に向かってブラブラと歩き出すと、北東の門の方から小走りでギルドに向かってくる一団がいた。

「あっ、クラウスさん、ドノバンさん、こんちは!」

「おぅ、小僧ども、薬草の採取か?」

「はい、今戻って来た所です」

「ちゃんと株を残して摘んできたか?」

「バッチリですよ」

「おい、リベリオ、急がないと買い取りのカウンターが混むぞ」

「ヤベぇ! クラウスさん、ドノバンさん、失礼します!」

まだ駆け出しの冒険者たちは、薬草の入った籠を抱えてギルドへと走っていった。

「随分と面倒見が良くなったじゃないですか」

「まぁ、兄貴が治めてる街だし、面倒見る奴がいないと、駆け出しが死にやすい街だからな」

冒険者の聖地なんて呼ばれている一方で、ヴォルザードでは冒険者の死亡率も高い。

魔の森に連なる森には強力な魔物が出没するので、準備も整えずに薬草の採取に行けば簡単に命を落としてしまうのだ。

「人が安全に出入りできる場所で薬草を探すのは大変だが、魔物が出る確率は低い。薬草を探すのが楽な場所は魔物が現れる確率が高く、一つ間違えるだけで命を散らすことになる」

「それは他の街でも一緒じゃないんですか」

「一緒だが、魔物の密度が違うからな」

バッケンハイムやブライヒベルグに居た頃には、自分よりも若い冒険者の面倒など見たことは無かった。

俺自身、年上の冒険者には突っかかって行くばかりで、面倒を見てもらったという記憶は無い。

いや、あれが面倒を見てもらったことになるならば、ラウの爺ぃには世話になった。

顔を合わせる度に手合わせを申し込んでは、完膚なきまでに叩きのめされた。

手を抜かれ、遊ばれ、からかわれ、最後に本気の凄みを見せつけられる。

あれは確かに鍛錬だったし、鍛えてもらっていたのだろう。

ラウに突っかかって行くのを見て、俺に舐めた口を利く奴は減っていった。

Sランクにも物怖じしない態度が認められ、一丁前に扱われるようになった。

やっぱりラウには面倒を見てもらったと思うが、面と向かって礼など言うつもりは無い。

それと、ドノバンと巡り合ったのも、ラウが切っ掛けだった。

その意味でも世話にはなっているが、しつこいようだが礼を言う気は無い。

部屋に戻って、水浴びして旅塵を落とし、小ざっぱりした服に着替えて近所の食堂へ向かう。

倉庫街で働く労働者向けの食堂は、親父は不愛想だが料理の味は良く、値段も手頃だし看板娘の愛想が良い。

「いらっしゃいませ!」

「二人だ、入れるか?」

「奥のテーブルどうぞ!」

「おぅ、今日もいい尻してんな、アマンダ」

看板娘の肉付きの良い尻をスパーンと叩いて奥のテーブルに向かう。

「ちょっと、あたしの尻は太鼓じゃないんだからね!」

「悪い、悪い、つい……な!」

アマンダが頬を膨らませ、店からはゲラゲラと笑いが起こる。

「これ以上大きくなったら責任取ってもらうからね!」

「そいつは、俺だけの責任じゃねぇだろう」

「うー……ご注文は!」

「煮込みと腸詰、それとエールだ」

「俺もエール、それと串焼き」

ドノバンは開いた手の平を見せた後、ひっくり返して手の甲を見せる。

「煮込みに腸詰、串焼きが十、エールが二でーす!」

手頃な値段のこの店で腹ごしらえをして、興が乗れば次の店に飲みに行くし、興が乗らなきゃ帰って寝るというのが最近のパターンだ。

「明日はどうします?」

「今回の依頼は暇だったからな、ちょいと討伐に行ってみるか」

「ですね、座りっぱなしじゃ体が鈍りますからね」

「山賊でも撫で斬りにすりゃあ、ちっとは鍛錬の代わりになったかもしれねぇけどな」

「二日前に、いくつかのパーティーが連合で討伐したらしいですよ」

「なんだよ、そいつに乗っかれれば、良い稼ぎになったのにな」

「どのみちオーランド商店じゃ素通りですよ」

「それでも割り増しは出すだろう」

「まぁ、そうですね」

ドノバンは、仕事以外では茶を淹れるのが趣味という変わった男だ。

ラウの爺ぃに鍛えられたそうで腕は立つ。

ヴォルザードに来たのは魔物を討伐する機会を増やすためだそうだ。

ここ数年、ヴォルザードでは平穏な日々が続いている。

魔の森の魔物が減ったからだと言う奴もいるが、俺はむしろ悪い兆候だと感じている。

それを確かめるためにも、直接森に入って状況を確かめる必要がある。