作品タイトル不明
合コン(後編)
「ちょっとマルグレット、何なのその言い方」
「ケントさんに対して失礼じゃないの」
ぶっきら棒な言い方をしたマルグレットに対して、アイナとヤンヌが口を尖らせて抗議の声を上げました。
「あぁ、大丈夫、大丈夫、冒険者が嫌いな人は珍しくないから、気にしなくていいよ」
全ての冒険者が野蛮だという訳ではありませんが、ならず者と紙一重みたいな輩も少なからず存在していますし、そうした連中の方が目立っているのも確かです。
そのため、最果ての街と呼ばれていたヴォルザードでも、冒険者に対して良いイメージを持っていない人も少なくないんですよね。
「でも、ケントさんはヴォルザードを救ってくれた英雄ですよ」
「たった一人でリーゼンブルグに抗って、二百人の仲間を助けたんですよね」
「まぁ、そうだけど、冒険者が苦手な人はいるからね」
何とか宥めようとしているのですが、アイナとヤンヌは不満そうな表情を隠そうともしません。
「リカルダ、やっぱ私は邪魔みたいだから帰る」
「えっ、ちょっと待って、まだ始まったばっかりだし」
僕は合コン自体が初体験なんですけど、こんなにピリピリした展開が続くものなんですかね。
「まぁまぁ、冒険者が嫌いなのは分かったけど、冒険者という肩書を抜きにして、ちょっと話してみてよ。みんな違う世界から来た連中だから、ヴォルザードで育った人とは考え方も違ってると思うよ」
腰を浮かせかけたマルグレットでしたが、僕らが異世界から来ている事を強調すると、立ち去るのを思い留まってくれたようです。
「そもそも、僕らがいた世界には魔法も魔物も存在していないから、冒険者という職業も無いんだ」
「冒険者がいない? 嘘でしょ?」
「嘘じゃないよ。過去には似た職業が存在していたかもしれないし、物語の中には登場するけれど、僕らの時代には存在していないね」
「いいな、私もそんな世界に生まれたかった」
ここまでの様子から推測すると、マルグレットは素行の良くない冒険者が身近にいる環境で育ってきたのでしょう。
「僕らの育った日本は、ヴォルザードよりは治安は良かったけど、それでも悪い奴もいたよ」
「別に冒険者が全員悪い奴だなんて言わないけど、あのクソ親父を見て育ってきたから、ぜったいに彼氏とか旦那にはしたくない」
「クソ親父って、実の父親なの?」
「残念なことにね……」
そう言うとマルグレットは大きな溜息をつきました。
なるほど、実の父親では離れようがありませんね。
「仕事もせずに、酒飲んで暴れる……とか?」
「当たり……マジで家に帰りたくない」
「だったら、自立するしかないんじゃない? もう働いているんだよね?」
「うん、お針子の仕事はしてるけど、まだ一人暮らし出来るほど稼げていないから……」
マルグレットは、フラヴィアさんの店で売っている服の仕立てをやっているそうです。
まだ見習いから本採用になったばかりで、一人で家を借りて暮らしていけるほどの余裕は無いそうです。
「それに、私が家を出たら母さんが一人になっちゃうから……」
「なるほど……だったら、お母さんも一緒に家を出られるようにしないとだね」
「はぁぁ……そんなの何時になるのか分からないよ」
「だったらさ、ジョーたちのシェアハウスを参考にしてみたら?」
「えっ、シェアハウス?」
ジョーや新旧コンビが暮らすシェアハウスは、僕の同級生七人が中心となって開設したものです。
共同でお金を出し合って建物を買い取り、家賃のような形で返済をおこない、共用部分の運営も行っています。
「物件を探したり、共同で借りたり買ったりする仲間は必要だけど、シェアハウスならお母さんに管理人をやってもらうとか、方法はあるんじゃない?」
「そ、その話、もう少し詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
「あぁ、シェアハウスに関しては、僕は少しお金の立て替えはしたけど、詳しく関わっている訳じゃないから、実際に住んでる和樹や達也に聞いて」
「お、おぅ、何でも聞いてくれ、なぁ和樹」
「おう、俺たちに答えられることなら何でも答えるぜ」
うんうん、我ながら絶妙なパスですよね。
シェアハウスの話には、アイナとヤンヌも興味を示して、新旧コンビにあれこれ質問し始めました。
でも、マルグレットの家のように、元冒険者の夫によるDV家庭は、結構ありそうな気がしますね。
奥さんや子供が暴力に怯えるような状況は放置する訳にはいきません。
あまり暴力が酷いケースでは、一時避難をするセーフティハウスのような場所があった方が良い気がします。
ちょっとクラウスさんに相談してみましょうかね。
セーフティハウスについて考えていたら、隣に座った達也に肩を叩かれました。
「なぁ国分、ヴォルザードにはDVを防ぐ法律とか無いのか?」
「さぁ、どうなんだろう。日本でもDVの対策とか、まだまだの部分があるから、こっちではもっと遅れてるかもね」
「そうか……でもよぉ、こういうことって早めに手を打たないとマズいんじゃね?」
「そうだけど、僕が勝手に出来る話じゃないから、ちょっとクラウスさんと相談してみるよ」
「おぅ、さすが婿殿は頼りになるな」
「仕事増やすなって愚痴られそうだけどね」
ただ、マルグレットの置かれている状況を把握しないと、どう対処して良いのかも分からないので、念話を使ってフレッドに偵察を頼みました。
『フレッド、この会が終わったらマルグレットの後をつけて、家の状況を確認してきてくれないかな。出来れば撮影もして欲しい』
『りょ……』
家の中で暴力を振るっていても、守備隊などの調べが行われている時には大人しい……なんてケースもありそうですし、撮影しておけば否定できませんからね。
「マルグレット、身内の恥を晒すのは心苦しいかもしれないけど、一人で抱え込んでいても出来ることには限界があるし、こう見えても達也や和樹は腕が立つから頼っていいよ」
「本当ですか? ありがとうございます……」
マルグレットは深々と頭を下げて、肩を震わせ始めました。
「私、あんな失礼な態度をとったのに……こんなに親切にして下さって……」
ほら、チャンスだよ……って、弱みに付け込むのは良くないかもしれないけど、ここは僕じゃなくて新旧コンビの出番でしょ。
「そんな水臭いこと言うなよ、こうして知り合ったのも何かの縁だよ、なぁ和樹」
「そうそう、達也の言う通り。俺らも難しいことは分からないけど、腕っぷしなら自信あるから頼ってよ」
「ありがとうございます……ありがとう……」
「良かったね、マルグレット」
「これで、お母さんに楽させてあげられるよ」
アイナとヤンヌはフラヴィアの店の店員さんで、マルグレットとは面識があったものの詳しい家庭の事情までは知らなかったそうです。
問題の原因がロートルの元冒険者ならば、こちらは若手のホープをぶつけるまでです。
娘の幸せの邪魔をするような駄目親父なら、キャーンと言わせてやらないといけませんよね。
男女の出会いを演出するための合コンのはずが、いつの間にやらマルグレットの家庭の問題を解決するための会議になっていました。
でも、下心が溢れ出てしまうよりも、新旧コンビのマジな面がアピールできたから良かったのでしょうね。
それに状況が進展したら、また集まって相談しようという約束を取り付けられました。
うん、新旧コンビ、一歩前進じゃない。