軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

対立(前編)

バルシャニアの帝都グリャーエフから戻った翌日、ギルドの執務室を訪ね、クラウスさんに旅行の報告をしました。

まぁ、ある程度の内容については、アンジェお姉ちゃんからも聞いているでしょうし、僕からは魔落ち騒動と暗殺未遂について補足の説明をしておきました。

「なんでぇ、なんでぇ、そんなに物騒なのかよ」

「物騒と言えば物騒なんでしょうけど、ヴォルザードでもポーションもどきなんて物騒な品物が出回りかけてたじゃないですか」

「まぁな、どこの世界にだって馬鹿な事を考えて実行に移す奴は現れるからな」

グリャーエフでの魔落ち騒動は、政治的な要素が絡んでいますが、一時期ヴォルザードでも出回っていたポーションもどきなんて、金儲けが目的でした。

政治的な思想が絡んでいれば許されるなんて言うつもりはありませんが、政治的な対立の無い場所でも物騒な事態が起こっても不思議ではないのです。

「近頃のヴォルザードは平和そのものだが、ちょっと前までは魔の森からの魔物の極大発生にビクビクしながら暮らしてたんだからな」

「確かに平和ですよね。平和なのは良いことですけど、平和過ぎると不安になりますね」

治に居て乱を忘れずではありませんが、何かあっても対応できるように備えておかないといけませんね。

報告の後は、歌劇の内容を散々からかわれて、ちょっと腹が立ったのでお土産の酒は渡すのを保留しておきました。

あまり長居するとクラウスさんの仕事が進まないので、話を切り上げて執務室を後にしました。

普段は、執務室から影に潜って帰るのですが、久々に依頼の掲示板を覗いてみようと思い、階段で一階へ降りました。

とっくに朝の混雑する時間は終わり、今はこれからの仕事を吟味する中堅以上の冒険者が何人かいるだけです。

その中に、見覚えのある人物の姿がありました。

「珍しいね、ジョーが依頼を探してるなんて」

「珍しいというなら、国分の方がよっぽど珍しいだろう。住宅ローンが払えなくなったのか?」

「いやいや、我が家の建設費用はとっくに完済しているからね」

「さすがSランクは違うな。あの豪邸の建設費も支払い済みとは」

「うちは優秀な眷属が揃っているからね」

「羨ましい限りだ」

笑みを浮かべたジョーは、ちょっと考え込んだ後で口を開きました。

「国分、この後暇か?」

「特に用事は無いけど……」

「じゃあ、ちょっと昼飯つきあえ」

「いいよ、それじゃあアマンダさんの……」

「いや、別の店がいい」

そう言うと、ジョーは先に立って歩き始めました。

ちょっと面倒事の気配がするけど、相手がジョーでは断れませんよね。

連れて行かれたのは、大通りから一本入った裏通りにある隠れ家的な店でした。

ジョーは出迎えた店員に話のできる席を頼み、奥まった半個室みたいなテーブルに案内されました。

「へぇ、洒落てるね。よく来るの?」

「いや、二、三回だな」

たぶん、フラヴィアさんの店で働いているリカルダに連れてこられたのでしょう。

ジョーは、注文を取りに来た店員に、適当に料理を頼んだ後で、酒を二杯注文しました。

「えっ、昼間から?」

「用事は無いんだろう?」

「まぁ、無いけど……どういう風の吹き回し?」

「そんな気分の時もあんだよ」

なんだか先行きに暗雲が立ち込めてきたけれど、ジョーじゃなぁ……断れないよ。

「それで、何があったの?」

「あぁ、ちょっと新旧コンビと揉めててさ……」

「はぁぁ……女の子を紹介しろって?」

「いや、そういう話じゃなくて、仕事の中身だな」

「仕事って……オーランド商店の護衛?」

「うん、まぁ……飽きたらしい」

そう言って、ジョーが溜息を洩らしたところで、店員さんが料理と酒を運んできました。

「バルシャニアからの無事な帰還に……」

「ジョーの多難な前途に……」

「やめてくれ」

乾杯した後、ジョーは大ぶりなカップに注がれた酒を半分ほど一気に飲みました。

なんだか、相当ストレスが溜まっているみたいですね。

「そもそも、国分のせいなんだからな」

「はぁ? なんで僕のせいなのさ」

「街道が安全すぎる」

「あぁ、それは確かに僕も無関係じゃないね」

ジョー、鷹山、新旧コンビの四人は、ヴォルザードで一番大きな商会であるオーランド商店から護衛の仕事を請け負っています。

ヴォルザードから、ラストックやマールブルグ、バッケンハイム、時にはブライヒベルグまで足を延ばすこともあるそうです。

「オーランド商店から仕事を貰い始めた当初は、山賊と遭遇したこともあったし、オークと遭遇したこともあったけど、最近は何の襲撃も起こらず馬車に乗ってるだけだ」

ジョーは馬車に乗っているだけだ……なんて言っているけど、実際には夜間の警備とか行っているはずなので、遊んでいられる訳ではない。

それでも、一度も襲撃を受けない状況が続いて、マンネリ化しているのだろう。

「あいつらの言う事も分からなくはないけど、生活するには金が必要だし、金を稼ぐには意に沿わない仕事もやらなきゃ駄目だろう」

「まぁね、僕もやりたい事だけやってる訳じゃないし」

「だろう? あいつら、その辺を分かってないんだよ。すいません、お代わり!」

ジョーは、殆ど料理を口にしないうちに一杯目の酒を飲みほし、二杯目を注文しました。

これは、長くなりそうですね……。

「新旧コンビは、護衛の仕事を止めたいの?」

「いいや、減らして欲しいんだと、そんな簡単にこっちの都合を優先してもらえないっつーの!」

ギルドへの依頼完了報告は、新旧コンビや鷹山も行っているそうだが、依頼の受注に関してはジョーが一手に引き受けているらしい。

「毎回、毎回、デルリッツさんからチクリ、チクリと嫌味を言われて、ペコペコ頭を下げてる俺の身になれっつーの!」

「うわぁ、大変なんだ……」

「大変に決まって……って、国分には分からんだろうな」

「まぁ、チクリチクリと嫌味を言われる事は無いかなぁ……」

むしろ僕の場合は、ボッコボコに叩かれるパターンですよね。

「だったら、新旧コンビに受注もやらせたら?」

「駄目に決まってんだろう! デルリッツさんと揉めて仕事切られたらどうすんだよ」

「いやぁ、仕事切られたりはしないと思うよ」

「どうして、そう言い切れる」

「だって、ジョーたちに不利益を与えるならば、僕はオーランド商店の敵に回るし」

ジョーは口に運びかけていたカップを止めて、僕に視線を向けてきました。

「マジ?」

「マジ。だって、デルリッツさんだよ。あの人が、僕と敵対するリスクを計算していないはずがないじゃん」

「それは……そうだな」

「てか、新旧コンビとは蚊取り線香とかで儲けてるんでしょ。むしろ、ジョーよりも良い条件で仕事取ってくるかもよ」

「言われてみれば……そうかも」

延々と愚痴を聞かされる展開になるかもしれないと心配していましたが、どうやらジョーが正気を失う前に止まってくれたようです。

「これで新旧コンビとの揉め事は解決かな」

「いや、まだだ」

「えぇぇ……まだあるの?」

「あいつら、本気でダンジョンに行きたいって言いだして」

「えっ、まさか行ったの?」

「いや、行ってはいないみたいだけど、色々と情報を集めているらしい」

「でも、それは止められないんじゃない?」

「まぁな、でも鷹山はダンジョンに行く気無いみたいだし、俺も乗り気ではない」

どうやら、ジョー vs 新旧コンビではなく、パーティーを二分するような状況になっているようです。