作品タイトル不明
それぞれの出会い
国立歌劇場での観劇を終えて、宮殿へと戻る馬車に乗ったのですが、マノンがちょっとご機嫌斜めです。
と言っても、膨れっ面が可愛いので、もうちょっと放置しちゃいましょうかねぇ。
いやいや、お腹の子に悪影響が出るといけませんので、ちゃんとフォローしますよ。
「どうしたの、マノン」
「ケントが悪いんじゃないんだけどさ……ボクとセラは違いすぎてて……」
「えっ、マノンもセラも同じように愛してるよ」
「うん、それは分かってるんだけどね……」
どうしたんでしょうかね。
劇の内容が原因なのは確かでしょうが、ぶつけどころが無い不満みたいですね。
「セラと違うって、どの辺りが?」
「ケントとの出会い方……」
「僕との出会い方?」
「うん……」
コクンと頷いたマノンは、僕との出会いについて話し始めました。
「ボクとケントが初めて会ったのって、ギルドの講習だったよね?」
「そうそう、リドネル達と一緒に受けた初心者講習、あの時のドノバンさんは怖かったなぁ……」
「そうそう、ドノバンさんが凄い迫力で……って、そうじゃなくて、ケントはボクのこと男の子だと思ってたよね?」
「うん、異世界のイケメン君だって思ってた。てか、庭師の見習い仕事に行って、一緒にお風呂に入ろうとした時まで気付かなかった」
うん、あの時はマジでビックリしたんだよね。
男の子だと思っていたマノンの胸に、ささやかながら膨らみがあって……生えてなかったんだもん。
「ほらぁ……セラと全然違う。ボクもセラみたいにロマンチックな出会いが良かった」
「あははは……なんだ、そんなことかぁ」
「そんなことって、ボクにとっては黒歴史なんだよ」
「でも、あれは劇の演出であって、実際の状況は全然違うんだよ。ねぇ、セラ」
「はい、全然違いますよ。ケント様は、もっと荒々しく私を抱きしめて、一夜を共に……」
「してないからね! 僕は手紙を置きに行っただけだから!」
慌てて、実際はどうだったのか説明する羽目になっちゃいましたよ。
「でも、皇女様の寝室に忍び込むなんて、駄目なんじゃないの?」
「うん、マノンの言い分も分かるけど、ぶっちゃけ話が通じそうなのはセラしかいなかったんだよね」
コンスタンさんも、グレゴリエさんも、もうリーゼンブルグに攻め込む覚悟ガン決まりだったから、止められるのはセラフィマしかいませんでした。
「それに、セラを説得できれば、コンスタンさんも耳を貸してくれると思ったんだ」
実際、交渉に応じてくれたし、状況を聞いて出兵を中止してくれました。
「というか、マノンは僕との出会いが黒歴史だなんて言うけど、あの程度は黒歴史でもなんでもないよ。ねぇ、カミラ」
「ごふっ……そ、そうですね」
僕のお嫁さんの中で、僕との出会いが最悪だったのは、間違いなくカミラでしょう。
「えっと……ケントはカミラに追放されちゃったんだっけ?」
「ラストックから、森を抜けた先の街の兵舎に出頭しろって言われて、僕はてっきり夜の森を歩くだけだと思ってたんだからね」
「も、申し訳ございませんでした」
いや、本当にあの時のカミラは最悪でしたよ。
「そう言えば、私が水だけでも持たせてあげてって頼んだら……」
「そうそう、泥水をすすってでも辿り着いてみろって言われたんだ」
「そ、そんな事は……言ったかもしれません」
カミラが、物凄く肩身が狭そうにしています。
あんまりイジメると、今度は僕がお説教食らいそうなので、そろそろフォローしておきますかね。
「いやぁ、ゴブリンに襲われて食い殺されそうになったけど、結果的にラインハルトたちと巡り合えたし、マノンやリーチェと知り合ったのも、カミラに追放されたおかげでもあるんだよね」
「でも、私は死地に追いやろうとしました」
「うん、でも結果的に死んでないし、そういう運命だったんだよ」
そもそも、カミラに召喚されていなかったら、僕は日本で冴えない人生を送っていたでしょう。
五人もお嫁さんを貰うどころか、彼女もいない寂しい青春を送っていた気がします。
「もう何度も何度も謝ってもらったし、全部水に流したんだから、カミラが気に病む事なんて何も無いんだよ」
「はい……」
うんうん、良い落としどころじゃないですかね。
「私が初めて健人を意識したのは、入学式の翌日だったかな……」
「えっ、唯香はそんな前から僕を意識してたの?」
「意識したって言うか……入学早々、居眠りして先生に怒られてたのを憶えてるの」
「ぐはぁ……そうだった、でもあれは、入学式の日の晩に、色々考え事してよく眠れなかったんだよ」
「でも、健人はしょっちゅう居眠りで怒られてたよね?」
「うぐっ……その通りです」
居眠りの罰則でやらされた草むしりは、ヴォルザードで庭師見習いの仕事に生かされました。
「私が最初にお会いしたのは、我が家に庭師の仕事でいらした時でしたよね?」
「そうそう、マノンと一緒に行って、その最終日に……」
「もう、その話はいいよ」
マノンは恥ずかしそうにしてますが、あの時の映像は鮮明に僕の脳裏に刻まれてますからね。
「あの当時から、父はケント様を面白い奴だって話してたんですよ」
「クラウスさんには、いっぱい面倒掛けちゃったからなぁ……」
「とんでもない、ケント様がヴォルザードにしてくださった事に比べたら、全然足りませんわ」
「そんな事ないよ。誰も頼る人のいない、全く知らない世界に放り出されて、路頭に迷わずに暮らしてこれたのは、クラウスさんがヴォルザードを治めていてくれたからだよ」
ギルドに登録したばかりの新人には、格安の下宿を紹介し、初期費用の貸し付けまでしてもらえた。
僕の場合は、魔の森で魔物に襲われた馬車からお金とか物とか持ち出していたから、何も支援が無くても何とか出来たかもしれないけど、あの仕組みが無かったらアマンダさんやメイサちゃんとは巡り合えていなかっただろう。
「こうして考えてみると、人の縁って不思議だね。僕は日本では人との縁に恵まれていなかったけど、こっちに来てから沢山の縁に恵まれているよ」
「私たちを繋いでくださったのは、ケント様ですよ」
「セラフィマの言う通りです。私はバルシャニアに来るなんて思ってもみませんでした」
「うん、僕も皇女様と王女様を嫁にするなんて思ってもみなかったよ」
いや、チート級の能力を手に入れたって分かった時には、王族と結婚、ハーレム展開なんてパターンも有りかも……なんて思ったことはあったかな。
「まだ、バルシャニア旅行の途中だけど、次はリーゼンブルグや日本にも出掛けようか」
「賛成、ボクはケントが生まれた街に行ってみたい」
「私はリーゼンブルグの王都が見てみたいかな」
次の旅行先は、唯香以外の全員が日本を希望しました。
そう言えば、最近日本にも帰っていませんね。
ネットも繋がってるし、テレビも見れちゃってるんで、あんまり帰りたいって思わないんですよね。
てか、みんなを何処に連れて行けば喜んでもらえますかね。
行き先は、リクエストを聞いてから決めましょうかね。