軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

目に目を

目には目を、歯には歯を、洗脳には洗脳を……という訳ではありませんが、僕を襲った兵士に対してのセラフィマの説明は実に丁寧なものでした。

兵士が聞かされていた情報の時系列の誤りを正し、正しい情報と決断に至った理由を理路整然と並べていきました。

事実関係の説明は良いのですが、セラフィマが輿入れを決めた理由として、いかに僕が才能溢れた素晴らしい人物か、うっとりしながら語られるのは、かなり恥ずかしかったです。

「ライネフを襲ったギガースを討伐したのはケント様です。当然、ギガースの魔石はケント様のものですが、オークションで売却して得たお金を全額ライネフの復興のためにと寄付して下さったのですよ」

「そうだったのですか……そうとも知らず、私は何という愚かな真似を……」

僕を襲った兵士にデマを吹き込んだ人間は、国民のアイドルであったセラフィマを奪われたという恨み、嫉みを利用して、僕を悪党に仕立て上げたようです。

でも、セラフィマからの説明にまさる説得力は無かったようで、自分が騙されたことに気付いたようです。

「ケント様、この者はいかがいたしましょう?」

「兵士の処分については僕は口を出せないから、一旦拘束してもらって、皇帝陛下に裁定してもらおう」

「そうですね、父にお任せしましょう」

「でも、厳しい処分にはならないように、僕からも頼んでおくよ」

「えっ、殺そうとした私を許して下さるのですか?」

兵士は厳罰を覚悟していたようで、信じられないといった表情で僕を見上げました。

「嘘の情報を鵜呑みにして、他者の命を奪おうとした貴方の行動は誤りです。少なくとも、話の内容が本当かどうか確かめていれば、こんな事態は起こっていなかった、違いますか?」

「はい、おっしゃる通りです……」

「ですが、貴方に厳罰を科しても問題は解決しませんし、貴方には問題解決に協力する義務があります。貴方に嘘の情報を話した人、その人に情報を伝えた人を辿って、情報の出所を突き止めるのに協力して下さい。嘘でバルシャニアを揺るがそうとしている者、そいつを探し出して下さい」

「はい、私に出来ることは何でもやります!」

ついさっき、剣を振り上げて斬り掛かってきたのに、今は忠誠を誓った騎士のごとく協力を約束する。

この単純さを利用されたんでしょうね。

僕を襲撃しようとした兵士を別の兵士に引き渡し、宝物殿の見学を中断して宮殿へ戻りました。

別に、フレッドが護衛に付いてくれているから、このまま見学を続けても問題無いのですが、それでも念のため切り上げることにしました。

宝物殿で襲撃されたと報告すると、さすがのコンスタンさんも顔色を変えて椅子から立ち上がりました。

「うちの兵士に襲われただと?」

「はい、嘘の情報に踊らされていたようです」

「身柄は?」

「他の兵士に引き渡しました」

「そうか、皇族に準ずる者に対して剣を抜いたのだ、処刑するしかあるまい」

「いやいや、待って下さい。処刑は駄目です」

「なぜだ、厳しく処罰しなければ、国の秩序は保てんぞ」

「処刑してしまったら、僕や皇家が口封じしたと思われてしまいますよ」

嘘の情報を信じたり、広めたりしている人間が何人ぐらい居るのか分かりませんが、兵士を処刑すれば口封じだと思ったり、騒ぎ立てるでしょう。

「それよりも、嘘の情報が広まるのを止めるのに役立ってもらった方が良いんじゃないですか?」

「なるほど、確かにその通りだな」

「もし、何か理由が必要ならば、ヴォルザードの流儀だということにして下さい」

「ヴォルザードの流儀とは?」

「ヴォルザードは、魔の森と境を接していて、長く魔物との戦いを繰り広げてきた土地でもあります。そうした土地柄、人材を大切にしています。簡単に切り捨てるのではなく、更生させて役立たせるのがヴォルザード流なんです」

「更生させて役立たせるか……なるほどな」

「それに、ヴォルザードの流儀を前面に打ち出せば、僕がギガースを操っていたという嘘を打ち消すのにも使えるはずです」

「そうか、大量の死傷者を出すようなやり方は、ヴォルザードの流儀に反するということか」

ライネフでのギガースとの戦いでは、多くの騎士や術士の命が失われてしまいました。

これはヴォルザードの流儀とは相反するやり方です。

もし僕がギガースを操っていたのだとして、ヴォルザード流のやり方を実践するならば、大量の死傷者が出る前に自作自演を行っていたはずです。

「良かろう。事が事だけに何の処分も無しとは出来ぬが、問題解決を優先し、一定の目途が立った時点で謹慎などの処分を下すとしよう」

「はい、そんな感じでお願いします」

「魔落ち騒動の容疑者捕縛についても感謝する」

「えっ、もう捕縛が完了したんですか?」

「なんだ、何も聞いていないのか?」

「はい、眷属に任せっきりだったもので……」

そう言った途端、ラインハルトから報告が入りました。

『薬剤の臭いがしていた者、総勢二十五名を捕縛して引き渡しましたぞ』

おおぅ、さすが仕事が早いというか、早すぎでしょ。

「総勢二十五名だと、今報告を貰いましたが……」

「うむ、こちらにもそのように報告が届いておる」

「証拠となるような品物は所持していたんでしょうか?」

「いいや、そのような報告は受けていない」

「では、取り調べに時間が掛かるのでは?」

「いいや、それは心配していない」

「どうされるのですか?」

「以前、手に入れた薬剤を注入する器具を使う」

どうやら、コンスタンさんも僕と同じことを考えているようです。

「捕まえた連中に、器具を見せて、素直に話さないなら、これを使う……とでも言うつもりですか?」

「その通りだ。あの器具が何に使う品物なのか、当事者でなければ知りえない。そして、何に使う物か分かっていれば、あれを自分に使われると聞けば、話さずにはいられないだろう」

一度魔落ちしてしまった者は、治癒魔法を使おうと、解毒薬を使おうと元には戻りません。

魔落ちさせる側だった人間ならば、それが自分に使われたら、どんな現象が引き起こされるのか、よく分かっているはずです。

「素直に喋りますかね?」

「その心配は無用だろう。既に供述を始めた者がいるそうだ」

「それならば、黒幕に辿り着けるかもしれませんね」

「そうあって欲しいが、簡単にはゆかぬだろうな」

潜入工作を行う者達ならば、捕らえられた場合の対処法も指示されているはずです。

特に黒幕に近づくような情報は、簡単には手に入らないでしょう。

「魔落ちや嘘の情報を広めたのは、ボロフスカですよね?」

「おそらく……その可能性が一番高いと思うが、ボロフスカは否定するだろうな」

「先日の、麻薬製造所の破壊の後で準備して実行したんでしょうか?」

「いいや、魔落ちの件もケントが襲われた件も、ずっと以前から計画されていたものだろう。今回の訪問とは、偶然時期が重なっただけだろう」

「嘘の情報の件は、正しい情報を兵士たちにも開示した方が良いんじゃないですか?」

「そうだな、虚偽の情報が広まるのは、本当の情報が広まっていないのも理由の一つだろうな」

コンスタンさんは、リーゼンブルグへの侵略を取り止めた理由を改めて国民全体に周知するそうです。

「アーブル・カルヴァインの話もするんですか?」

「避けては通れないだろうな」

バルシャニアが、リーゼンブルグ侵攻を具体化させたのは、アーブル・カルヴァインとの密約があったからです。

アーブルのような人間と手を組んでいたのは、バルシャニア皇家にとっては汚点と呼ぶべき事態です。

それでも、アーブルの存在を語らずに侵攻差し止めを語るのは、都合の悪い事態を隠していると思われかねません。

「なぁに、我々はリーゼンブルグの悪徳領主を利用しようとしただけだ。それが上手くいかないと分かったから撤退した……別段恥じる行為ではない」

「そうですね、無駄な損害を回避したのですから、正しい判断をしたのは間違いありませんね」

この後も、コンスタンさんとは、夕食を共にしながらデマ対策について話し合いました。