作品タイトル不明
暗躍の報告
「軍の装備品を奪い、馬は厩舎ごと奪い、麻薬の製造所は川の水で沈めたか……相変わらず仕事が早いな」
ボロフスカでの暗躍を終えて、バルシャニアの帝都グリャーエフに戻り、皇帝コンスタンに報告を入れました。
「ですが、結果としてはボロフスカを立ち直らせる切っ掛けを作ってしまったかもしれません」
麻薬の製造所を沈めた後で偵察した、当主ツィリルと息子であるイグナーツの会話は、バステンが録画しておいてくれました。
その映像も見せながら、暗躍がボロフスカに良い影響を与えたかもしれないと報告したのですが、コンスタンさんは気にしていないようです。
「なぁに、相手が強くなるならば、こちらも強くなるだけだ」
「よろしいんですか?」
「構わん、外からみればボロフスカもバルシャニアだからな」
ツィリルとイグナーツがボロフスカの未来を見ているように、コンスタンさんはバルシャニア全体の未来を見ているようです。
体制派、反体制派という観点から見れば、ボロフスカの強化は望ましい事態ではないのかもしれませんが、バルシャニアという枠組みで考えるならば歓迎すべき状況なのでしょう。
「いずれにしても、ボロフスカは体制が強化されるまでは動かないだろう。それは短期間で成し遂げられるとは思えんし、こちらも同じく体制強化に努めるだけだ」
「でも、ボロフスカの改革が完了すれば、手強い相手が生まれるのですよね?」
「婿殿は心配性だな。前にも話したが、内乱などは珍しい事態ではない。それに、こちらの体制が整えば、向こうも簡単には仕掛けて来られんぞ」
今回、ボロフスカがコンスタンさんの長男グレゴリエさんとツィリルの長女サラヴェナの婚約を破棄したのは、体制派が弱体したと見られたからです。
リーゼンブルグへの侵攻失敗、ギガースとの戦いで多くの騎士を失った……などの情報を元にして導き出された推測です。
実際、騎士の数は減っているので、補充が行われているが、元の状態に戻すことも容易ではありません。
だが、時間は掛かるだろうが、元に戻らない訳ではないし、強化されないとは限らないでしょう。
復興は着実に進められているそうで、新しい騎士の募集や訓練も順調に進められているそうです。
「今後は派手な演習も行って、こちらの復興もアピールしていくつもりだ」
要するに、情報戦を仕掛けて、ボロフスカが内乱を仕掛けにくい状況を作っていくらしいです。
「そう言えば、ムンギアは大人しくしているのですか?」
「今のところは大人しくしているな。なんでも、係争地が神の住処となったとか、ならないとか言っていたな」
もう一つの反体制派部族ムンギアは、隣国フェルシアーヌ皇国と国境にある中州の領有権を巡って争っていました。
この領有権争いに関して、自分達に味方をしてくれないという理由が、バルシャニアの体制への不満となっていたようです。
で、その中州は僕たちが爆材でドーンした後、木の苗木を植え、光属性魔法で成長を促進させ、フラムに時々火を吐かせ、神々が住む島みたいな演出をしました。
その結果、ムンギアも自分達からの侵攻を諦めているようです。
「それでは後は、クラウスさんからの連絡待ちですか?」
「その件だが、連絡が来た」
「えっ、どっちですか? 承諾したんですか、拒否されたんですか?」
「実際に会ってみたいそうだ」
「えっ、アンジェお姉ちゃんがですか?」
コンスタンさんは、その通りだと頷いてみせました。
クラウスさんの胸の内は分かりませんが、アンジェお姉ちゃんが返事をする前に一度会って話をしてみたいと言い出したらしいです。
「じゃあ、グレゴリオさんがヴォルザードに行かれるのですか?」
「いいや、先方はグリャーエフの街も見てみたいそうだ」
「となると……」
「婿殿に指名依頼を出すと言っておったぞ」
「でしょうね」
バルシャニアの帝都グリャーエフとの間には、リーゼンブルグ王国が存在しています。
普通に馬車で移動をしたら、それこそ一ヶ月以上は掛かってしまいます。
日本のように、飛行機や新幹線などという高速での移動手段は存在していません。
安全かつ迅速に移動するには、僕の送還術を使うのが一番手っ取り早いでしょう。
「それじゃあ、帰ったらアンジェお姉ちゃんを連れてきますね」
「待て待て、そんなに簡単に連れて来られてたまるか。少しは体裁を整える時間をよこせ」
「でも、ありのままのグレゴリエさんや、バルシャニアを見てもらった方が良いのでは?」
「それはそうだが、こちらにだって見栄が全く無い訳でもないし、少しぐらい粗隠しをさせろ」
「まぁ、外国の要人を迎えるのに、何もしない訳にはいきませんよね。あれっ? てことは、僕は要人とは思われていない?」
「何を言ってる、お前はもう家族だろう」
「あっ、そうでした……」
当たり前のように言われると、なんか照れくさいというか、ちょっとジーンと来ちゃいますよね。
「まぁ、アンジェリーナ嬢の訪問に関しては、クラウスと相談の上で日程を知らせてくれ」
「分かりました。でも……」
「でも、何だ?」
「アンジェお姉ちゃんは、クラウスさんの娘ですから、不意打ちとかは覚悟しておいた方が良いですよ」
「確かに……ベアトリーチェ嬢もしたたか者だそうだな」
「はい、実の父親をやり込める程度にはしたたかです」
まぁ、したたかと言うならば、コンスタンさんの娘セラフィマも十分にしたたかですけどね。
そこは指摘しないでおいてあげましょう。
「ケントよ。アンジェリーナ嬢を案内するならば、そなたの嫁も連れて来て構わんぞ」
「えっ、うちの嫁もですか?」
「そなたの国には、婚姻を上げた夫婦が旅行をする風習があると聞いたが」
「確かに、新婚旅行してませんね」
言われてみれば、結婚披露パーティーはやりましたが、新婚旅行に行っていません。
「あー……でも、グリャーエフではセラフィマは旅行した気にならないんじゃ……」
「そ、それならば、別の機会に別の場所を訪れれば良かろう」
「でも、五人揃ってとなると……」
「それならば、個別に行けば良かろう」
ていうか、コンスタンさんが娘のセラフィマに会いたいだけですよね。
僕も分かっていて言ってるんですけどね。
「まぁ、うちの嫁を同行させるかどうかは、ヴォルザードに戻ってから相談します」
「そうか、こちらは全員を受け入れる用意をしておくからな」
「分かりました。前向きに検討させていただきます」
「そうか、そうか、楽しみにしているぞ」
やっぱりコンスタンさんは、相変わらずの親バカなんですねぇ。
「あれっ、そう言えば、グレゴリオさんは?」
「閲兵式の準備を始めておるわ」
「えっ、まだ日程が決まってませんよね?」
「グレゴリエもボロフスカの娘を貰うのは乗り気ではなかったが、状況が変わって浮かれておるのだろう」
「でも、まだ会ってないからアンジェお姉ちゃんの容姿は知らないんですよね?」
「いや、バルルトにタブレットなる物で見せてもらったようだ」
「そうですか……」
まぁ、確かにアンジェお姉ちゃんと性格悪そうなサラヴェナを比べたら、月とスッポンですからねぇ。
てか、アンジェお姉ちゃんの豊かなバストに惹かれてるんじゃないだろうね。
なんだか、邪な動機を感じるんだけど……その辺りも報告しといた方が良いんでしょうかねぇ。
特にクラウスさんには詳しく報告しておきましょうかねぇ……。