軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

縁談

「ケント、無くなった手足を復活させられるか?」

クラウスさんに呼び出されて、ギルドの執務室に着いた途端、こんな質問をされました。

「うーん……出来るかもしれませんけど、やりませんよ」

「そうか、分かった」

理由を突っ込まれるかと思ったのに、意外にもクラウスさんはあっさりと納得しました。

「その話って、ギリクさんの件ですよね?」

「そうでもあるし、そうでもない」

「えっ、どういう意味ですか?」

「ギリクの件は自業自得だから、俺がとやかく言う話じゃねぇ。だが、ケントの能力は把握しておきたい。そういう意味だ」

「そうですか……分かりました」

「でも、今になって聞くなんて、何かあったんですか?」

「ゲスいヒモ野郎が、訓練場で足掻き始めたみたいでな。今すぐ何かしてやる気もねぇが、一応な……」

ギリクについては良からぬ噂を聞いていますが、聞いても右から左に聞き流しています。

ぶっちゃけ、もう関わるのは面倒なんだよね。

「他に用事が無いならこれで……」

「待て待て、ギリクに関わりたくないのは分かってる。本題はこれからだ」

どうやら腕の再生については、ついでに聞いてみただけで、ここからが本題のようです。

「バルシャニアの第一皇子ってのは、どんな人間だ?」

「はっ? バルシャニアの第一皇子? グレゴリエですか?」

「そうだ」

「どんなと言われても、そんなに親密に話した訳じゃないので、裏の性格とかは分かりませんよ」

「それでも構わん」

「妹であるセラフィマを溺愛していた兄バカで、肉体派ですけど頭は悪くないです」

タイプとしては、現皇帝コンスタンと同様の熱血脳筋タイプに見えるのですが、ちゃんと周りも見えていますし、助言にも耳を貸す柔軟性も持ち合わせているように見えます。

「随分と辛辣だな」

「セラフィマ絡みで、結構嫌味も言われましたから」

「なるほどな」

「善人か、それとも腹黒か、どっちだ?」

「基本善人ですね。あまり腹芸が得意な方ではないと思います」

「そうか……」

「グレゴリエが、どうかしたんですか?」

質問を重ねられた理由を問うと、クラウスさんは渋い表情を浮かべて暫しの間沈黙しました。

「アンジェリーナに婚姻の申し込みがあった」

「えぇぇ……バルシャニアからですか?」

「そうだ」

クラウスさんが取り出したのは、銀の縁取りがされた封筒で、同じく銀でバルシャニア帝国の紋章が入っています。

「見ても構わないんですか?」

「構わんぞ、婚姻を申し込むとしか書かれていないからな」

封筒を開けて中身を確認すると、確かに婚姻の申し込みしか書かれていませんでした。

てか、国跨ぎの婚姻の申し込みが、こんな簡素な文面で良いんですかね。

それともバルシャニアでは、こうしたやり方が普通なんでしょうか。

「それで、どうするんですか?」

「それを決断するために、お前を呼び出したんだろうが」

「なるほど」

「なるほどじゃねぇ、もうちょっと判断するための材料をよこしやがれ」

「材料ですか……そうですねぇ……」

バルシャニアがリーゼンブルグへの侵略を計画していた頃に見た演習の様子や、ギガース討伐の時の様子などを話しました。

軍事関係はグレゴリエと第三皇子のニコラーエが担当だったはずで、国民からも人気がありましたし、部下からの信頼も厚かった気がします。

「それじゃあ、お飾りのボンボンじゃないんだな?」

「そうですね。本人も相当武術で鍛えているようですし、実際に指揮を執っている様子も堂に入ってました」

「少なくともマールブルグの馬鹿兄弟よりはマシか」

「そう言えば、双子から別々に来た……」

「あんなもの、断ったに決まってんだろう! ノルベルトの爺ぃにキッパリ断ってやった!」

「まぁ、あの二人じゃねぇ、僕も反対です」

「だろう! あんなのにアンジェはやれん!」

マールブルグの馬鹿兄弟は別にして、アンジェお姉ちゃんはバルシャニアからの申し込みをどう思っているのでしょうか。

視線を向けると、ヴォルルトがへそ天でモフられていました。

お前は……もうちょっとシャキッとしなさい。

「あの……アンジェお姉ちゃんは、どう思っているんですか?」

「私? 私はねぇ、悪い話じゃないと思ってるけど……ちょっと不安かな」

「不安……ですか?」

「そうだよ、だってバルシャニアの第一皇子だよ。このままいけば、次の皇帝陛下だよ」

「あっ、そうですね」

アンジェお姉ちゃんにばかり気が向いていたけれど、言われてみればグレゴリエは次期皇帝です。

「ケント、グレゴリエに次の皇帝は務まると思うか?」

「一人では難しいかもしれませんが、務まると思います」

「ほう、それはアンジェが支えになれば……ということか?」

「勿論、アンジェお姉ちゃんは頼りになりますが、バルシャニアの皇族一家は仲が良くて、次の皇帝の座を巡って争う様子はみられません」

「ということは、兄弟が協力するということか?」

「はい、第一皇子のグレゴリエは国全般、第二皇子のヨシーエフは内政、第三皇子のニコラーエは軍と言う感じで補佐しています」

「では、皇位を巡って国が割れたりはしないんだな?」

「バルシャニアは多くの少数民族を抱える国なので、国が割れる可能性は常に抱えてます。でも、皇族一家が割れるとは思えません」

「そうか、ケントがそう言うなら家の中のゴタゴタは無さそうだな」

と言われても、僕も腹芸は得意ではないので、絶対に大丈夫かと問われたら自信がありません。

「そうだ、セラフィマに聞いてみたらどうですか? 実の兄妹だから僕よりも遥かにグレゴリエの性格は分かっていますよ」

「そらそうだろう……だが、本当のことを話すと思うか?」

「それって、セラが嘘をつくと思ってるってことですか?」

「そうじゃねぇよ、嘘をつくとは思っていねぇが、外には話しにくい身内の恥とかあるだろう」

「あっ、そういうのは有るかもしれませんね」

「だろう、それを隠すために、他も話せなくなったりするんだよ」

「でも、それって、アンジェお姉ちゃんなら聞き出せちゃうのでは?」

「おぉ、なるほど……」

コボルト隊を虜にするアンジェお姉ちゃんの撫でテクは、人間にも有効だったりします。

マリアンヌさん譲りの豊かなお胸に抱かれて、撫で撫でされたら白状せざるを得ないでしょう。

ていうか、セラフィマならお兄ちゃん自慢で色々話してくれそうですけどね。

「それじゃあ、ケント。今晩、お邪魔するね」

「はい、お待ちしてます」

「ケント、俺は呼ばない気か?」

「えっ、来るんですか?」

「お前なぁ……」

「冗談ですよ、冗談。お待ちしてますよ、お義父さん」

「おぅ、良い酒を用意しとけよ」

「はい、ちゃんとお義母さんにも声を掛けておきます」

「ケント……お前、いい性格になりやがったな」

「はい、お義父さんの教育の賜物です」

「こいつ、そんな教育した憶えはねぇぞ」

「憶えは無くとも、子供は父の背中を見て育つものですから」

「分かった、分かった、お前らの性格の悪さは全部俺のせいだ。これで良いんだろう」

「さすが、お義父さん。勉強になります!」

「嘘つけ!」

という訳で、今夜は領主一家をお招きして、バルシャニアからの婚姻の申し込みについての話し合いを我が家で行う事となりました。

僕が思うに、セラフィマからの情報でコンスタンさん、もしくはグレゴリエがその気になって話を進めたような気がします。

アンジェお姉ちゃんとしては、ヴォルザードにとって利益になるのであれば、断らずに輿入れしそうですが、その辺りのメリットはあるのでしょうか。

いずれにしても、これは領主一家の話……じゃないよな、僕にとっても家族の話なんだから、真面目に取り組まないと駄目だよね。

あれっ、この縁談が成立した場合、僕にとっては義理の兄と義理の姉が結婚することになるのか。

家族同士の結婚って考えると、なんか背徳感があるよねぇ。