軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者殺し(前編)

冒険者稼業は、生きるも死ぬも自己責任。

判断を誤ればコロっと命を落としてしまうが、才能次第で莫大な金を稼げたりもする。

とは言っても、稼ぎと命を天秤にかけるのは討伐や依頼を受けている時であって、仕事を離れれば命の価値は一般人と何ら変わらない。

街道や魔の森ではなく、街の中で命を落とせば、一般市民と同様に死因の調査が行われることになる。

ここ最近、ラストックとの往来が活発になり、ヴォルザードのギルドは例年に無い盛り上がりをみせていたのだが、この日は重たい空気が漂っていた。

「マカーリオが殺されたらしいぞ」

「冗談だろう、あの人Bランクだよな?」

「また首筋をバッサリやられてたそうだぜ」

「これで三人目か?」

普段なら、少しでも割の良い仕事を得ようと、我先に掲示板に殺到する冒険者たちだが、この日は依頼そっちのけで事件の噂に耳を傾けている。

第三街区の裏路地で、首から血を流して倒れている男が発見されたのは、昨日の朝だった。

早朝、パン屋の修行に出掛けようとした少年が発見して、すぐさま守備隊へと知らせがもたらされた。

所持していたギルドカードから、殺されたのはBランクの冒険者マカーリオで、ラストックまでの護衛依頼を終え、仲間と打ち上げを行った帰り道で襲われたらしい。

倒れていたマカーリオの状態や、傷の具合から見て、酔っぱらって立小便をしている所を後ろから襲われたようだ。

左の首筋がザックリと切り割られていて、刃先は首の骨の半ばまで達していた。

争ったような形跡も無く、マカーリオは自分の身に起こった事態を把握しきる前に出血多量で意識を失い、そのまま帰らぬ人となったようだ。

実は、この一ヶ月ほどの間に、マカーリオの場合と良く似た手口で二人の冒険者が殺害されている。

いずれのケースでも被害者は一人で居るところを狙われ、左の首筋を一刀で切り割られ、命を落としている。

一件目の被害者はEランク冒険者のドネト、二件目の被害者はDランク冒険者のフランツで、手口は似ていたが二人の間には特に接点が存在していなかったので、連続殺人と思われていなかった。

だが、マカーリオが殺されたことで、手口などから同一犯による連続殺人の可能性が噂されるようになったのだ。

「Bランクまでやられたってことは、相当な凄腕じゃねぇか?」

「バカ、酔っぱらったところを後ろから襲われれば、ランクなんて関係ないだろう」

「金が目的じゃないんだろう? だったら、何のために殺したんだ?」

「金じゃなければ恨みだろう」

「BランクとEランクやDランクが何か関係してんのか?」

「さぁな、そこまでは知らねぇよ」

日本のようにインターネットで被害者の個人情報が晒されたり、事件に関する詳細が明かされたりはしないので、話の内容はあくまでも伝聞だ。

その結果、作り出された噂は、ヴォルザードの冒険者に恨みを持つ、左利きの大男による犯行らしい……というものとなった。

冒険者たちが噂話を切り上げて、それぞれの依頼に出掛けた頃、ギルド二階の執務室では、クラウスがドノバンと向かい合っていた。

「それじゃあ、同一犯なのは間違いないんだな?」

「検視を行った守備隊の係官によれば、傷口の位置や角度、形状から見て、同じ人間が同じ刃物を使って殺害した可能性が高いそうです」

「所持品が奪われた形跡は無いんだな?」

「いずれのケースでも、財布やギルドカードは残されていました」

「全員、酔っていたんだな?」

「足取りを調べた結果、三人とも店は違えども、かなり深酒していたようです」

「三人の接点は?」

「ギルドの訓練場などで顔を合わせている可能性はありますが、同じ依頼を受けた記録は残っていません」

「出身地は?」

「全員ヴォルザードですが、街区はバラバラですし、年齢も違っています」

「じゃあ、ヴォルザードの冒険者が狙われたってことなのか?」

「今ある情報から推察するなら、そうなりますね」

ヴォルザードの冒険者が狙われていると分かっても、対応のしようがない。

「何か手掛かりは残ってないのか?」

「現状で分かっているのは、恐らく犯人は左利きの大柄な人間で、凶器は片手剣だと思われます。いずれのケースでも一撃離脱しているようで、物証らしいものは見つかっていません」

「単独犯かどうかも分からないんだな?」

「はい」

「これで終わってくれれば良いが……」

「恐らく無理でしょうね」

「はぁ、せっかく景気が良くなってるってのに、面倒な……」

「現状では、まだ影響は出ていませんが、四人目、五人目と続けば、少なからぬ影響が出てくるでしょうな」

冒険者の多くは、稼いだ金は後先考えずに散財する。

冒険者が散財した金は、飲食店や武器屋、服屋、娼館などを広く潤していく。

最果ての街と呼ばれていたヴォルザードの経済は、今も冒険者に依存する部分が大きいのだ。

その冒険者が身の危険を感じて散財しなくなれば、ヴォルザードの経済に暗い影を落とすことになる。

「とりあえず、守備隊の夜間巡回を増やすしかないな」

「それでも駄目なら……ケントを使いますか?」

「それは最後の手段だ。何でもかんでもケントに頼ってばかりじゃ、健全な街の運営とは言えなくなっちまうからな。それに、ケントの眷属を使ったからと言って、必ず犯人を捕らえられるとは限らねぇだろう」

酔っぱらって深夜の街をフラつく冒険者は、一人や二人ではない。

ケントが眷属を総動員しても、酔っ払い冒険者全員をカバーしきれないだろう。

「リーチェ、まだケントの耳には入れるなよ」

「私が言わなくても、噂が広がれば耳に入ってしまいますよ」

「それもそうか。なら、勝手に動くなって言っておけ」

「まずは、ケント様以外の者たちで解決を目指すのですね?」

「そうだ。何でもケントに頼ってばかりじゃ、街の仕組みが弱体化するばかりだからな」

クラウスは守備隊に巡回を強化するように命じ、冒険者には酔っぱらって、一人で夜中にフラフラするなという通達を出した。

犯人が単独犯であるならば、冒険者が二人以上で居ると、襲撃するのが難しくなる。

たとえ一人を不意打ちで倒せたしても、もう一人に反撃されれば、襲う側が手傷を負ったり捕らえられるリスクが増大する。

根本的な解決にはならないだろうが、現実的に打てる一番有効的な方法だと言えるだろう。

ギルドの執務室で、クラウスとドノバンが今後の方針を話し合っていた頃、マカーリオの殺害現場にはカルツとバートの姿があった。

守備隊の信頼の象徴のようなカルツを派遣することで住民を安心させ、人当たりの柔らかいバートが聞き込みを行うのが、このコンビのいつものパターンだ。

「どうだ、バート」

「いやぁ、目ぼしい情報は無いですね。夜中の犯行ですし、争って物音がした訳でもないですからね」

「そうだな……」

現代の日本と違い、歓楽街を除けばヴォルザードの人々は早々に床についてしまう。

路地裏には街灯も無く、人通りの絶えた夜中では目撃者を探すことも容易ではないのだ。

ただ、噂話を聞きつけて、事件の現場を一目見ようと立ち寄る者は少なくない。

二人は、そうした者たちからも根気強く話を聞き続けた。

その情報がもたらされたのは、昼近くの時間になってからだった。

昼飯を食べに行くついでに現場を訪れた者の一人が、バートの聞き込みに対して気になる話があると切り出したのだ。

「これって、この前の冒険者殺しと関係してるのかい?」

「その可能性も考えている」

「だったら、前の殺しがあった晩に怪しい奴を見かけたぜ」

「怪しい奴? どんな奴だ?」

「ガッチリした体格の若い狼獣人の男で、何だか思いつめた表情でブツブツ言いながら事件のあった方に歩いていったんだ」

「他には?」

「右腕が無いみたいで、袖が風に吹かれてヒラヒラしてたな」

「それは、事件のあった晩の話で間違いないかい?」

「あぁ、あの晩は知り合いと飲んで少し遅くなったんだ、歓楽街を回り込んで第二街区の家に向かう途中ですれ違って、事件のあった方に歩いていった。あいつは怪しいな」

「剣は持っていたか?」

「あー……どうだったかな、持っていたような……いなかったような……」

「その男に、もう一度会ったら顔を判別できるかい?」

「あー……どうだろう、似たような人が混じっていると分からないかも……」

建築関係の仕事をしているという男とバートの会話は、周りに居た野次馬たちの耳にも届いていた。

その結果、怪しい片腕の狼獣人の話に尾鰭がついて広がっていった。