軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

助言

※ 今回は綿貫さん目線の話になります。

安息の曜日のアマンダさんのお店では、二人の看板娘が頑張っている。

一人はアマンダさんの娘メイサ、もう一人は訳ありお姫様のフィーデリア。

あたしは……娘がいるから、もう看板娘って柄じゃない。

二人の看板娘のうち、一見するとファンが多いのはフィーデリアだ。

何しろ、立ち居振る舞いからして一般市民とはレベルが違う淑やかさなのだ。

カーテシーっていうんだと思うが、スカートを摘まんで腰をかがめて挨拶する姿勢は、女のあたしが見ても惚れ惚れとする美しさだ。

そんなフィーデリアの姿を一目見ようと、同年代の男の子が足を運んで来るのだが、そうなると家族も引き連れて来るから、売り上げアップに大いに貢献している。

家族に冷やかされながらも、フィーデリアを眺めて頬を赤らめている少年を見ると、青春だねぇ……なんて、ちょっと年寄臭い感慨に浸ってしまう。

こんな風に言うと、フィーデリアの一枚看板じゃないのかと思われてしまうかもしれないが、アマンダさんの一人娘であるメイサは常連さんに根強い人気がある。

そもそも、アマンダさんのお店はアットホームな雰囲気なので、お客さんの殆どがメイサがもっと幼い頃から知っているのだ。

母親譲りの裏表のないカラっとした性格と、人懐っこい笑顔がメイサの魅力だ。

それに、本人は気付いていないようだが、メイサは黙っていれば十分に可愛いのだ。

たぶん、他の店の子供だったら、間違いなく同年代の男の子から頻繁に告白されているだろう。

メイサが自分がモテないと思い込んでいる原因の一つは、間違いなく国分の存在だ。

ランズヘルト共和国史上、最年少のSランク冒険者、魔物使いの異名を持ち、強力な眷属を従えて何度もヴォルザードの危機を救っている国分は、少年少女の憧れの存在だ。

それどころか、一国の軍隊をも凌駕するほどの戦力を持つ故に、大人からは一目も二目も置かれる存在だ。

その国分が、かつてアマンダさんの家に下宿していて、メイサをデレっデレに甘やかしていることも、多くの人が知っている。

そして、メイサが国分に夢中なのも、多くの人に知られている。

つまり、今のメイサに告白することは、魔王国分に挑む勇者のごとき気持ちの強さが要求されるという訳だ。

家族連れのお客さんの男の子が、メイサをチラ見しているのをチョイチョイ見掛けるが、そうした子に告白されたという話を聞いたことがない。

これでは、メイサが自分はモテないと勘違いするのも仕方のないことなのだろう。

そして今日もまた、メイサに恋心を抱いている少年がいた。

一人で店に入り、常連のオッサンと相席になった大人しそうな少年は、ちょっと見ただけでメイサに夢中だと分かった。

だけど、その少年は強者どころか弱気な性格らしく、相席のオッサンが気を利かせてくれても、メイサに気持ちを伝えるどころか俯くばかりだった。

まぁ、満席の店の中で告白なんて無理な話だが、まともに目も合わせられないようでは難しいだろう。

それにしても、同年代の少年であれば、メイサと国分の関係は知っているだろうし、一人でお店に来てまで姿を眺めようとするのは、余程惚れ込んでいるからだろうか。

何にしても、あの調子ではメイサとの仲を深めるのは難しいだろうと、その少年のことはすぐに頭から消してしまっていた。

今日も大盛況だった昼の営業が終わり、休憩に入ったところで外の空気を吸いに店の裏手に出ると、国分とコボルト、それにさっきの少年の姿があった。

何をどう聞いたか知らないが、国分は少年がメイサの友達だと聞いて、内輪の昼食に誘おうとしていた。

国分は基本的に他人を思いやる気持ちが強いのだが、時折こうしたお節介を焼くことがある。

恋い焦がれる少年の前で、メイサと国分が顔を合わせれば、どんな事態になるのかなんて火を見るよりも明らかだ。

さて、どうしたものかと頭を悩ませるよりも早く、裏口から顔を出したメイサが国分を目掛けて脱兎のごとく駆け寄って抱きついた。

国分相手に緊張している様子だった少年の表情が、一瞬にして凍り付く。

そりゃあ、メイサに恋している少年ならば、営業スマイルか恋する乙女の表情かなんて一目で分かってしまうだろう。

こうなってしまうと、メイサは国分以外は目に入らなくなってしまう。

少年の存在には全く気付かず、国分にしがみ付き、うっとりした表情で頬擦りしている。

そして、少年は俯いたままジリジリと後退りし、共同井戸の影に姿を隠すと、背中を向けて走り去っていった。

店に入ろうとした所で、少年の姿が無いことに気付いたが、国分もメイサも少年はフィーデリア目当てだと思い込んでいるのには呆れて物が言えなかった。

しかも昼食の席では、フィーデリア目当てのその他大勢の一人だと思われた少年のことは話題にすら上がらなかった。

国分もメイサも善人だけど、自分たちを対象とした恋愛については本当に残念すぎる。

昼食の後、国分は影に潜って帰って行き、あたしらは休憩した後で夜の仕込み作業をした。

あたしの仕事は夜の仕込みまでなので、夜の営業も手伝うというフィーデリアを残してシェアハウスに戻ることにした。

「それじゃあ、あがらせてもらいます」

「はいよ、お疲れ様、今日もありがとうね」

アマンダさんに挨拶して裏口を出ると、共同井戸の脇にあの少年の姿があった。

「あっ……」

「ちょい待ち!」

目が合った途端、背中を向けて立ち去ろうとする少年を呼び止めた。

このままだと、こじらせストーカーになりそうだと思ったからだ。

バツが悪そうに立ち止まった少年に、クイっと顎を振って付いて来るように指示して歩き出す。

アマンダさんの店から、十分に離れたところで少年と向かい合う。

「あたしの生まれた国には、恋は盲目って言葉があるんだよ。人を好きになると、その人しか目に入らなくなって、それ以外の人が何をしているのか見えなくなってしまう……そういう気持ち、分かるよね?」

少年は、はっとしたように目を見開いた後、大きく頷いてみせた。

「でね、見えなくなってしまうのは、好きな人以外の他人だけじゃなくて、自分が何をしているのかも見えなくなっちゃうんだよ。君は、自分が何をしているか、ちゃんと見えてる?」

少年は、今度の問い掛けには顔を引き攣らせた。

「家の周りをウロウロされて、見張られているかもしれないって気付いたら、相手がどう思うか考えたことはあるかい?」

少年は、今にも泣きだしそうな顔で首を横に振った。

本当に自分の行動が見えていなくて、たった今、何をしていたか気付いたようだ。

「すみませんでした……」

「まぁ、メイサは気付いていなかったみたいだし、あたしから伝えたりはしないけど、もうやめようね」

「はい……」

少年はホッとしたようだが、表情は沈んだままだ。

メイサに思いを寄せて、そのメイサが思いを寄せている相手が誰か目の当たりにしたのだから、落ち込むのも当然だろう。

「辛いよね。胸が苦しくなるでしょ?」

「……はい」

「それでも諦めたくないなら、まずはメイサと普通に話せるようになりな」

「普通に話す……」

「それも無理なら挨拶するところからかな」

「挨拶だったら……」

正直、今の少年を見ていると、挨拶すらハードルが高そうな気がするけど、それもクリアーできないならば、その先に進展のしようがないだろう。

「今の君を見ていると、一方的にメイサに憧れているように見える。でもね、恋愛って対等な立場に立たないと成立しないんだよ。普通に挨拶して、普通におしゃべりをして、普通の友達になって、それから特別な関係になっていくものだよ」

「普通の友達から……」

「自信が無いなら、自分を磨くんだね。武術でも、魔法でも、料理でも、知識でも、何でも良いから、他人に負けない何かを身に付けてごらん」

「他人に負けない何か……」

「まぁ、いっぱい悩んで、頑張りたまえ!」

「ぶふっ……はい……」

背中をポンと叩いただけで、少年は前のめりに倒れそうになった。

ガチムチになれとは言わないけど、もうちょっと鍛えた方が良さそうだな。