軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

消える馬車の噂(中編)

シェアハウスで打ち合わせを行った翌日、近藤は買い出しを新旧コンビと鷹山に任せて、オーランド商店に向かった。

目的は、オーランド商店で御者を務めている元冒険者のエウリコに、対策についての意見を聞くためだ。

自分達に不足しているものは経験だと自覚している近藤は、足りない分を補うためにベテランに意見を聞くことを躊躇わない。

くだらない見栄を張って失敗し、自分や仲間の命を危険に晒すほうが馬鹿らしいと分かっているからだ。

「こんにちは、エウリコさん」

「おー、ジョー、もう準備は終わったのか?」

「まぁ、大体は終わったんですが、ちょっと意見を聞きたいんですが、時間いいですか?」

「おぅ、構わないぞ。もしかして、消える馬車の噂か?」

「さすがです、情報早いですね」

「当然だ、漫然と御者をやっているだけじゃオーランド商店では評価されない」

近藤は軽いお世辞のつもりで言ったのだが、返ってきたエウリコの言葉に息を飲んだ。

「うちの旦那は、役に立つ人間は良い待遇を与えて囲い込む。反対に役に立たないと見極められれば、良くて飼い殺し、悪くすればお払い箱だ」

「厳しいっすね」

「それだけの待遇をされてるからな」

エウリコが言うには、同じ御者という仕事でも、オーランド商店からは他の倍以上の報酬を得ているそうだ。

水属性魔法が使えるから、どこでも馬に水を与えられるし、元冒険者だから、いざとなれば戦える。

エウリコの同僚であるピペトやテードロスも、同程度の働きが出来るから、それだけの報酬を受け取るのに十分な資格がある。

それでも現状に満足せず、情報を仕入れているエウリコに、近藤は改めて敬意を抱いた。

「俺達も消える馬車の噂を聞いて、一応対策を練ってみたんですけど、見落としや改善すべき点がないか、意見を聞かせてほしいんです」

「俺で良ければ、いくらでも話を聞くぞ」

「お願いします」

近藤は、新旧コンビや鷹山と一緒に話し合った相手の手口の想定や、それに対抗するための手段などをエウリコに語った。

エウリコは時々頷くだけで、近藤の話が終わるまでは一度も口を挟まなかった。

「どうでしょう、対策はこんな感じなんですが……」

「ジョー、お前ら凄いな。偽の乗り合い馬車なんて、よく思いつくな」

「いや、それは俺達じゃなくて、シェアハウスで共同生活している友人の発想なんです」

「ほぅ、そいつも冒険者なのか?」

「いえ、料理人見習いです」

「はぁ? 料理人だと?」

「まぁ、独特の感性の持ち主なのは確かですね」

エウリコは、発案者が冒険者だったらスカウトするつもりだったが、料理人見習いの子持ちの女性と聞いて諦めた。

「偽の乗り合い馬車という発想も面白いし、そうでなかった場合の対策も概ね問題無いな」

「ありがとうございます。どうしても自分達だけだと見落としがあるように感じてしまって……」

「なるほどな……俺達も一応対策は考えたんだが、うちの馬車が襲われる可能性は低いと思っている」

「えっ、でもオーランド商店はマールブルグやバッケンハイムでも有名ですよね」

「その通りだが、だからこそ『消える馬車』の標的にはならないと思う」

「有名過ぎるってことですか?」

近藤の問いに、エウリコは大きく頷いてみせた。

「その通りだ。ジョー、ちょっと考えてみてくれ。馬車が消えるということは、襲った連中が馬車を自分達のものとして奪い去っていると考えるべきだよな?」

「はい、だからこそ痕跡が……あっ、そうか!」

近藤とエウリコが話している場所からは、明日からのバッケンハイム行きに備えて荷物の積み込み作業が行われている馬車が見える。

そして、その馬車の幌には大きくオーランド商店の紋章が染め抜かれている。

更に、馬車の荷台の側面にも、大きくオーランド商店の文字が彫刻されている

「俺達は、何度もマールブルグやバッケンハイムに行っている。守備隊の人間にも顔見知りが多い」

「つまり、襲った連中がオーランド商店の振りをするのは難しいんですね」

ランズヘルト共和国では、馬車の登録制度が無い。

そのため、御者が乗り替わってしまえば、別の馬車であるかのように振舞うことが可能だが、幌や荷台に店の名前が入っていては、成り代わるのは難しい。

「言われてみれば確かに、その通りですね」

近藤が初めてオーランド商店の依頼を受けた時、店の名前や紋章が大きく染め抜かれた幌を見た瞬間、依頼に誘ってくれたペデルと一緒に頭を抱えそうになった。

大店として有名な店の名前が大きく描かれているという事は、自分達は金持ちだと宣伝して歩いているようなものだから、待ち伏せを行う山賊達にとっては格好の獲物なのだ。

だから、殆どの商人は馬車に店の名前などを書かず、逆に薄汚れさせて金目の物は載っていないかのように振舞う。

それが『消える馬車』の手口の場合には、弱点となってしまっているのだ。

「じゃあ、俺達が遭遇する可能性は低そうですね」

「と思うんだがな……『消える馬車』の件が噂になるって事は、同じ手口を使いづらくなっているって事だ。もし、その連中が手口に見切りを付けて、最後に大きく稼いでやろう……なんて考えているのだとしたら、うちが狙われてもおかしくないぞ」

「なるほど、最後の荒稼ぎに狙うに格好の獲物ですね」

「まぁ、俺達はどう転んでも良いように、万全の備えをしておくだけだ」

「そうですね。俺も戻って、みんなと最終確認をしておきますよ」

エウリコとの面談を終えた近藤は、シェアハウスへ向かって歩き始めたが、不意に足を止めて考え込んだ。

「ちょっとズルいか? いや、使えるものは何でも使うのが冒険者だ」

近藤が足を向けたのは、シェアハウスではなくケントの家だった。

門番のリザードマンに声を掛けると、ケントは在宅していると告げられた。

ストームキャットやギガウルフが寝転んでいる庭を抜け、玄関のドアノッカーを鳴らすとケントが出迎えた。

「おっす、近藤。まさか、またギリクの話じゃないよね?」

「違う違う、今日は別件だ」

「そっか、まぁ入って……」

応接室へと案内されて、お茶を出してもらった後、近藤は『消える馬車』の話を切り出した。

「……という訳で、俺達は偽の乗り合い馬車みたいな方法で襲い、商人や護衛は殺して堀に投げ込んでいると思ってるんだ」

「なるほど……街道脇の壁を高く作ってあるから、よじ登らないと堀の下の様子が見えないんだよね」

「そうか、それで被害者が発見されず、『消えた馬車』みたいな噂話になってるのか」

「たぶん、バッケンハイムギルドには討伐依頼とか捜索依頼とか出されていると思う」

「Sランクが勝手に動く訳にはいかない……って事だな?」

「依頼の形式がどうなっているのか分からないけど、専属で受けている冒険者がいる場合には手出しできないよ」

「分かってる、何かしてくれって話じゃなくて、街道の建設に関わった国分は、知っておいた方が良いかと思ったんだ」

「そっか、盗賊の討伐は無理かもしれないけど、行方不明者の捜索だったら怒られないかな」

ケントは眷属のコボルトを呼び出すと、手の空いている者達で、堀の底を確認してくるように命じた。

捜索が行われている間に、近藤は自分達の対策を話し始めたのだが、全部を話し終える前にコボルトが戻ってきた。

「わふぅ、ご主人様、グルグル巻きの死体があるよ」

「いくつ?」

「四つ……でも、ゴブリンが来たから減っちゃうかも」

「駄目駄目、ちょっとゴブリンは蹴散らしといて」

「わぅ、分かった」

影に潜ったコボルトを見送った後で、ケントは近藤に向き直った。

「という訳で、ちょっとバッケンハイムまで行ってくるよ。犯人までは捕まえられないと思うから、道中気を付けてね」

「了解、安全第一で行って来る」

近藤はケントと握手を交わし、今度こそシェアハウスへ足を向けた。