軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

苦労人ジョーは先を見据える

※今回は近藤譲二目線の話になります。

新旧コンビがギルドへの報告をやってくれると言うので、俺はオーランド商店の皆さんに挨拶をしてからシェアハウスに戻ることにした。

オーランド商店の裏口からシェアハウスに戻るには、目抜き通りを横断する必要がある。

裏路地を抜けて目抜き通りに出ると、昼間とあって多くの人で賑わっている。

東京はスーパーマーケットが増えたせいで個人商店が減り、商店街も昔のような賑わいではないそうだが、ヴォルザードの目抜き通りは平日でも多くの人が集まっている。

威勢の良い売り声や値切り交渉の声、時には喧嘩騒ぎもあって、日本の昔の商店街はこんな感じだったんだろうと思わされる。

情報収集というほどのものではないが、目抜き通りを歩きながら人々の話し声に耳を傾けていると、不穏な言葉が聞こえてきた。

「そのギガースが凄ぇんだって!」

ギガ―スというのは、確か守備隊総出で戦わなきゃいけないほどの危険な魔物だと聞いたことがある。

だが、そんな魔物が現れたにしては、ヴォルザードの街は平穏そのものだ。

どういう事かと首を捻っていると、答えとなる言葉が聞こえてきた。

「また魔物使いが仕留めて持ち込んだそうだ」

つまり、国分が何処かで討伐したギガースをギルドに持ち込んだのだろう。

となれば、ギガースがあるのはギルドの裏手だろう。

依頼完了の報告は新旧コンビに任せたけれど、ギガースがどんな魔物なのかは一目見ておきたい。

ギルドの正面玄関ではなく、裏手の入り口に回ると、黒山の人だかりの向こうに巨体が横たわっていた。

身長は十メートル近いだろうか、褐色の体はゴツゴツとした岩のようで、見るからに硬そうだ。

人間に比べると、腕が長くて太い。

手のひらは、大人の体がスッポリと収まりそうなほど大きい。

最近、俺達もロックオーガを討伐できるようになって、かなりレベルが上がってきた……なんて思っていたが、ギガースは完全にレベルが違っている。

首筋の切り傷などを見ると、眷属のスケルトンが仕留めたみたいだが、だからと言って国分一人で倒せないとは限らない。

「そういえば、バルシャニアに現れた時にも、国分が討伐したって言ってたな」

ギガースを討伐したとは聞いていたが、実物を見ていなかったので、凄さがわからなかったのだ。

そして、討伐されたギガースの実物を見て、改めて国分との力の差を見せつけられているような気がした。

そして、このギガースによって国分は巨万の富を手にするはずだ。

腕の良い冒険者が稼ぐのは当然だが、同級生だと思うと収入の格差を素直に認めたくない。

妬ましいとか、羨ましいとかではなく、同じ高みに到達するための道筋が見えないのが悔しい。

「やっぱり、単純に攻撃力を上げる方法を考えないと駄目なのかな」

より遠くに、より正確に魔法を扱えるように訓練を重ねているが、ギガースの巨体を見ていると、ロックオーガをゴリ押しで倒せてしまうような威力が必要な気がしてきた。

ギルドを後にして、威力の高い魔法を放つ方法を考えながら歩いたが、シェアハウスに着くまでに良いアイデアは浮かばなかった。

「おかえり、ジョー。風呂汲んであるから、昼飯前に入ってこいよ」

「おう、サンキュー」

いつものごとく、ヴォルザードに着いた直後に奇声を上げながら走り去った鷹山は、既に風呂からあがって愛娘を抱えて、だらしない表情を浮かべている。

風呂で旅の埃を落としてから食卓に着くと、先に食べ終えた鷹山が話し掛けてきた。

「遅かったな。新旧コンビの見守りでもしてたのか?」

「いや、ギルドでギガースを見てきた」

「ギガース? たしかヤバい魔物だよな」

「あぁ、国分が何処かで討伐して持ち込んだらしい」

「デカいのか?」

「身長八から十メートルってところだな」

「人型なんだよな? 進撃かよ……」

「あれに襲われたら絶望ものだぜ」

ギガースの姿形や国分を絡めた率直な気持ちを語ると、鷹山はちょっと意外な反応をした。

「俺は……無理だな。ギガースを討伐出来るようにはなれないだろうし、討伐しに行きたいとも思えない」

「意外だな、鷹山なら正面から突っ込んで行きそうだけどな」

「召喚された頃とは違って、今は家族がいるからな。ねぇ、リリサ!」

緩み切った表情で頬擦りしようとした鷹山に対して、リリサは両手を突っ張って全力拒否の姿勢だ。

それでも鷹山は、決して懲りることはない。

シェアハウスでも、依頼の最中でも、鷹山の姿からは家族への溢れんばかりの愛情を感じる。

どうしょうもない親バカだが、呆れるくらい家族を愛しているのだ。

「でも、ヴォルザードにもギガースが現れるかもしれないぞ」

「そん時は、刺し違えてでも殺す。俺の家族を傷付ける奴は、絶対に許さない」

「それでも、実際問題どうやって殺すか考えておいた方が良くねぇか?」

「ロックオーガと一緒の方法で倒せんだろう」

鷹山は、ロックオーガの頭を火属性魔法の火球で包み込んで倒してしまう。

例え、皮膚は魔法で守られていても、呼吸するための内臓までは守られていない。

頭を火球で包んで維持していれば、呼吸した瞬間に肺や気管が焼け爛れて死ぬという訳だ。

「そっか、鷹山の魔法なら倒せるかもしれないな」

「ジョーの魔法だって倒せんだろう。オークは真空にして酸欠で倒したじゃん」

「でもなぁ、ギガース規模の真空を作れるか……」

「だったら、訓練あるのみだろう」

「だな」

鷹山は馬鹿だけど単純なのが良い。

あれこれ迷わずに出来ると思い込めるから、俺には想像できない魔法を使ったりする。

「ジョー、守る人が増えるほど男は強くなれるんだぜ」

「かもな」

「あー……馬鹿にしてんだろう。国分が強いのは、嫁が多いからじゃなくて、ヴォルザードも、リーゼンブルグも、バルシャニアも、全部守ろうとしてるからだぜ」

「あぁ、なるほど……」

飛躍した論理だけど、鷹山の言ってることは正しい気がする。

俺達がまだラストックに居た頃も、俺達は自分の身を守るのが精一杯だったのに、国分は二百人の生徒と教師全員を守ろうと足掻いていた。

魔法を手にした直後が一番成長するのだとしたら、国分がチートな能力を手にしたのは当然なのかもしれない。

「ジョー、強くなりたきゃ嫁貰え」

「はぁ? いや、そうなのかもしれないな」

俺の脳裏に浮かんだのは、一つ年下のイヌ獣人のリカルダだ。

店で接客している時は澄ましているが、二人きりになると、それこそ千切れんばかりに尻尾を振って全身で甘えてくる。

「ちょっと考えるかなぁ……」

そう呟いた途端、鷹山の愛娘リリサが火が付いたように泣きだした。

「ふぎゃあぁぁぁぁぁ!」

「どうしたの、リリサちゃん。パパ、ここにいまちゅよ!」

おしめかな、オッパイかな……などと首を傾げながら、鷹山はリリサを抱えて嫁であるシーリアさんのところへ歩み去っていった。

「そうか……家族か……ここなら育児とかも心配無さそうだし、考えてみるかな」

あまり物が置いてない殺風景な俺の部屋が、服やデザイン画で散らかる様子を頭に思い浮かべてみると、案外悪くないと思えた。

今日は土の曜日で、明日は闇の曜日、リカルダが働いているフラヴィアさんの服屋は休みだ。

「よし、フローチェさん、俺、夕食は要らないです!」

「はーい、出掛けるの?」

「はい、ちょっと……」

シェアハウスの母ことフローチェさんには、食事が必要か不要か伝える決まりになっている。

今夜はリカルダと外食して、そのまま……と想像を膨らませていると娘を嫁に預けた鷹山が戻ってきた。

「おっ、今夜は八発様だな?」

「やらねぇよ……そんなには」

いや、やるかもしれないけど……。