軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

甘い罠

※今回は古田達也目線の話になります。

護衛してきた三台の馬車がオーランド商店の敷地に到着し、ジョーが御者のリーダーであるエウリコさんから依頼書にサインを貰っている。

これで今回の依頼も無事に完了だ。

といっても、ヴォルザードとラストックの往復は、退屈に感じるぐらい平和だ。

国分の眷属がパトロールを行っているそうで、街道から魔物の姿を見かけることは滅多に無い。

その上、街道から少し離れれば、そこは魔の森であり、魔物の領域なので、盗賊共がアジトを作るのは困難だ。

そのため、ヴォルザードとラストックを繋ぐ街道は安全そのものだ。

魔の森を抜ける街道は馬車での移動が基本だが、最近は徒歩で移動する旅人も居るそうだ。

俺達も合流してエウリコさん達と挨拶を交わした後、ジョーに声を掛けた。

「ジョー、ギルドへの報告は俺と和樹で行ってくるよ」

「……大丈夫なのか?」

「何だよ、その微妙な間は。俺達だってガキじゃねぇんだし、いつもジョーに任せきりじゃ悪いだろう」

俺の話を聞いた後も、ジョーは心配そうに俺と和樹の顔を交互に眺めた後、決意を固めるように一つ頷き、依頼票を差し出した。

「じゃあ任せるよ。分からなかったら、ギルドの人に聞いてくれ」

「依頼完了の報告ぐらい、俺だってやったことはあるから心配すんな。なっ、和樹」

「おうよ、任せておけって」

俺と和樹が胸を叩いてみせても、ジョーは不安げに苦笑いを浮かべていた。

やっぱり俺も行くというジョーを追い返し、和樹と一緒にギルドに向かう。

俺達と和樹が、依頼完了の報告を買って出たのには理由がある。

それは、モテる男=出来る男だと気付いたからだ。

面倒事をジョーに押し付けているようでは、いつまで経っても俺達の株は上がらない。

つまり、モテるためにジョーがやっていた仕事をやるのだ。

「でもよぉ達也、ぶっちゃけちょっと不安だよな?」

「何でだよ、サインをもらった依頼書を提出するだけだぞ」

「そうじゃねぇよ、受付嬢の反応だよ」

「あぁ、それはな……」

俺達がモテない理由の一つは、ギルドの受付嬢からの評価が低いことだ。

ギルドの受付嬢の一人、八木の嫁マリーデの姉であるフルールさんに、オッパイを揉ませてくれと土下座したことがある。

半分は冗談……いや、八割ぐらいはマジだったからか、それ以後ギルドの受付嬢に塩対応されるようになり、カウンターから足が遠のいている。

「でもよぉ和樹、その塩対応を何とかするために依頼完了の報告を買って出たんだから、悩むよりも打ち合わせた通り堂々と行くしかないだろう」

「まぁな、モテ期への道も一歩からだよな」

ヴォルザードの目抜き通りに建つオーランド商店から、ギルドまでは目と鼻の先の距離だ。

時刻は昼過ぎで、ギルドは空いていた。

俺達がこの時間に戻って来たのには理由がある。

ヴォルザードからラストックまでの間に、国分が作った野営地は三つある。

それぞれの間隔は馬車で半日弱の距離で、オーランド商会の馬車は往路は早朝出発して途中一泊し翌日の夕方にラストックに到着。

復路は昼に出発して、途中二泊して翌々日の昼にヴォルザードに到着する日程で戻ってくる。

これは、全ての野営地の様子を確かめるためで、そこで商売をしている者に材料などを届けたりもしている。

とにかく、儲け話が落ちていないか、オーランド商店はアンテナを張り続けているのだ。

カウンターへと歩み寄っていくと、嫌でもフルールさんの姿が目に入る。

受付嬢の中で一番の巨乳の持ち主だからだが、俺達には塩対応というかゴミ虫でも見るような視線を向けてくるし、この姉にしてあのマリーデありと思うような地雷物件だ。

資産目当てで国分に結婚を迫る様子は、何度か俺達も目にしている。

だが、受付嬢からの印象を良くするためには、避けては通れない相手なのも確かだ。

「いくぞ、和樹」

「おぅよ、達也」

和樹と視線を交わして頷き合い、決意を固めてフルールさんの前に立った。

「護衛依頼完了の報告です」

「お疲れ様でした、拝見いたします」

なん、だと……笑顔だと。

フルールさんがサインの照合を行っている間に振り返ると、和樹も目を見開いていた。

どうなってるんだと目で尋ねると、分からないと首を振られた。

突然フルールさんの態度が変化した理由が分からず、二人して首を傾げるしかなかった。

「はい、確認いたしました。報酬は、タツヤさん、カズキさん、ジョーさん、シューイチさんの四人に等分でよろしいですか?」

「それで、お願いします」

「かしこまりました。道中はいかがでしたか?」

「えっ……えっと、特に問題は無かったです」

以前、カウンターを訪れていた時には、用が済んだらさっさと帰れと言わんばかりの対応だったので、いきなり雑談を振られて面食らってしまった。

それと同時に、これみよがしに胸を張ってみせるフルールさんを見て、頭の中で警鐘が鳴り響いた。

じっくり見たい、穴が開くほど見ていたい、できれば鷲掴みにしたい……けど、何かがおかしい、こんなはずはない。

「預金の引き出しは、いかがいたしますか?」

「い、いや、今日は大丈夫です」

「カズキさんは、どうされます?」

「えっ、俺っ? お、俺も大丈夫です」

「そうですか、ラストックまでの道中で気付いたことなどがあれば、教えていただけると有難いです」

預金の引き出しを断った後も、更に話を続けようとするフルールさんに俺だけでなく和樹も違和感を覚えているようだ。

それに、野営地などの情報はオーランド商店の活動にも影響を及ぼすので、おいそれと流す訳にいかない。

「いや、特には無かったな、和樹」

「おう、いつも通りだな」

「そうですか、魔物の出没情報とかもありませんか?」

「特には……」

「達也、この後打ち合わせだろ?」

「おぅ、そうだった。手続きは終わりですよね?」

「はい、依頼完了の報告は承りました」

「ありがとうございます、急ごう和樹」

「おぅ、遅れるからな」

「あっ、ちょ……」

引き留めようとするフルールさんの声を振り払うようにして、和樹と共にギルドの出口へと向かう。

自慢じゃないが俺達はモテないが、それでもフルールさんの激変ぶりにはヤバさを感じさせるものがあった。

「和樹、どうなってんだと思う?」

「分からねぇよ。でも、あれは地雷だろう」

「待てよ、地雷ってことは……あれか?」

「あれって?」

「この前、デルリッツさんから蚊取り線香とかのアイデア料をまとめて振り込むって……」

「あーっ、そうか、金か!」

オーランド商店からのアイデア料の支払いは、集計が終わった月の翌々月払いになっている。

夏の間に馬鹿売れしたらしい蚊取り線香のアイデア料が、ドカっと俺と和樹の口座に振り込まれたのだろう。

疑問が解けてスッキリすると同時に、背中に冷たいものが走った。

「やっべぇ、塩対応からの激変じゃなかったら、間違いなく引っ掛かってた」

「俺もだ、達也。あの乳はヤバいだろう」

「ヤバいよな……でも、あと五年ぐらいで垂れそうじゃね?」

「実は、もう既に……?」

「やっべぇ! でもなぁ……」

「だよなぁ……」

食虫植物に食われる虫は、たぶん今の俺達のような気分から誘惑に負けた奴らなのだろう。

俺と和樹は、シェアハウスに向かいながら葛藤し続けた。

「達也、あれ……」

シェアハウスへ戻る途中、和樹が指差す方向を見ると、交差する道を足早に歩く片腕の男がいた。

「ギリクか?」

「薄汚れては……いないな」

「何か仕事を見つけたのかな?」

和樹と目線を交わして、ギリクの後を追いかけると、昼間から開けている酒場に姿を消した。

「あそこで働いている……訳ねぇか」

「前に一度行ったけど、安いだけの酒場だったじゃん。片腕で出来る仕事なんて無いだろう」

「んじゃあ、昼間から飲んでるのか? あんな早足で行くほど酒に飢えてるのかよ……」

「でも、その割には小綺麗な格好してなかったか?」

「どうなってんだ?」

和樹と二人、ギリクの入った酒場に入ろうか暫し迷った後で、立ち寄らずにシェアハウスへ向けて歩き出した。