作品タイトル不明
気配りの男
「わふっ、ご主人様、ジョーが来てるじょー」
「ぶはっ……ごほっ……がほっ……」
ひょっこり現れたマルトの一言に、お茶を吹き出してしまいました。
「わぅ、ご主人様、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫、マルトが洒落を言うなんて思わなかったから、ビックリしちゃっただけだよ」
「面白くなかった……?」
「面白かったから吹き出しちゃったんだよ」
心配そうな顔をしているので頭を撫でてあげると、マルトは尻尾をパタパタと振ってみせた。
マルトと一緒に一階まで降りると、近藤は応接間ではなく玄関に立っていました。
「忙しいのに悪いな」
「いや、今日は暇だから大丈夫だよ。とりあえず入りなよ」
「いや、討伐帰りで埃まみれだから、ここでいいよ」
言われてみれば、近藤は革鎧や小手などを装備して、腰には剣も吊っています。
ちょいちょい会っているから気付きにくいですが、もうすっかり冒険者としての風格みたいなものを感じるようになっています。
こちらの世界に来てから、色々な冒険者と出会ってきましたが、ドノバンさんやラウさんのような超が付く一流どころまではいかないものの、一線級の冒険者と比べても遜色ないでしょう。
「討伐帰りに僕のところに来たってことは……何かあったの?」
「国分に直接関係は無いんだが、いずれ関係しそうだし、耳に入れておいた方が良いかと思ってな」
「ん? どういう事?」
何だか思わせぶりな言い方に嫌な予感を覚えたのですが、近藤の話は全く予想していないものでした。
「ギリクさんが、右腕を失った」
「はぁぁ? 何で?」
「ロックオーガにやられた」
「んー……近藤、やっぱ中に入って詳しく聞かせて」
ギリクは、僕がヴォルザードに来た当初にミューエルさんと一緒に知り合い、何かと因縁の多い相手です。
ぶっちゃけ、血縁者でもないし、恩人でもないし、仲の良い友人でもありません。
それどころか、敵対関係に近い間柄です。
右腕を失ったと聞いても、かわいそうと思う気持ちよりも、ザマァと感じる気持ちの方が強いぐらいですが、近藤の言う通り、今後僕の所に話が持ち込まれて来るかもしれません。
遠慮する近藤を応接間に連れ込んで、マルツェラにお茶を淹れてくれるように頼みました。
「そんじゃあ、詳しく聞かせてくれるかな。近藤が付いていながら、どうしてそんな事になったの?」
「いや、俺らは一緒じゃなかったんだ」
「あっ、そうなの?」
「俺は、鷹山と新旧コンビ、それとオスカーっていう、ほら、前にギリクさんが指導していた新人パーティーにいた一人と魔の森で討伐してたんだよ」
近藤達は、護衛の依頼だけじゃスキルアップが出来ないので、新しい魔法のテストを兼ねて討伐を行っていたそうです。
「新しい魔法って、ダンジョンに入るため?」
「いや、それだけじゃないし、十分に準備が整わないうちは俺も行くつもりは無いから心配しなくていいぞ」
「そっか、近藤が新旧コンビの手綱を握ってくれているなら大丈夫か。それじゃあ、ギリクとは魔の森で偶然会ったんだ」
「あぁ、午前の討伐を終えて、こっちに戻って来ながら獲物を探していたら、大きい反応が三つ出て、更に探ってみるとソロの冒険者が魔物二体と戦っているみたいだった」
さらっと言ってるけど、探知魔法だけでそこまで状況を把握できるって凄いよね。
僕はチートのゴリ押しだけど、近藤みたいに地道に積み重ねていくタイプには、いつか抜かされそうな気がするよ。
「それで近付いてみたらギリクだった?」
「いや、遠目でも相手はロックオーガだと分かったし、一人じゃ無理だろうから援護しようと思ったら、腕を引き千切られたのが見えたんだ」
「その時はギリクだって分からなかったんだ」
「そうそう、とにかくロックオーガを引き離すのが先だし、倒さないと俺らもヤバいからな」
「ロックオーガ二頭は倒したんだ」
「おぅ、一頭は鷹山が頭の周りを炎で包んで、喉や肺を焼いて倒した。もう一頭は先に目を潰して、達也が片足を穴に落として拘束して、俺が目から風の槍を突き入れて脳を破壊した」
魔の森の訓練場でロックオーガの相手をさせた時には、近藤たち四人にギリクと本宮さんを加えた六人でも一頭を倒すのがやっとでした。
それが四人で二頭を危なげなく倒せるようになったとは、パーティーとしての連携もレベルアップしているみたいですね。
「ロックオーガを倒して、さあ手当てをしてやるかと思ったらギリクだったんだ」
「そうそう、そんな感じ。そんで、守備隊の診療所に担ぎ込んだけど、引き千切られた腕はロックオーガに齧られてたんで、繋がらないと思って捨ててきた」
「なるほど……ここまで聞いた感じだと、唯香とマノンが治療して、命に別状は無いのかな?」
「あぁ、その通りだけど……どうすんだ?」
「どうするって?」
「国分なら再生出来るんじゃねぇの?」
「まぁ、やれば出来ると思うけど……やらない」
「ミューエルさんに頼まれても?」
さすが近藤、的確に問題点を突いてくる。
「んー……やらない。てか、一人で魔の森に入って、ロックオーガ二頭と戦うなんて自殺行為でしょ」
「まぁ、それはその通りだな」
「何でそんな事になったの?」
「それは、聞いてない」
「なんで?」
「あのギリクさんが右腕を失ったんだぜ。しかも、俺達に助けられて命拾いして、そんな状況で聞けねぇし、聞いても答えないだろう」
「まぁ、それはそうだね」
大した実力も無いくせに、無駄にプライドばかりが高い犬っころですから、近藤達に助けてもらったら、事情を話すはずもないですね。
「てかさ、この前ダンジョンで泡銭を稼いだとか自慢しまくってたんじゃないの?」
「そういう話だったけど、散財して金が無くなったんじゃねぇの?」
「泡銭を稼いで調子こいて、働きもせずダラダラ過ごし、金が無くなったからって鈍り切った体で討伐に出掛け、身の程も弁えずロックオーガ二頭に突っかけて返り討ちにされたのか」
「まぁ、そういう感じなんだろうけど、ホント国分は、ギリクさんには辛辣だよな」
「僕が辛辣なのは、そもそもギリクが無駄に突っかかってくるからだからね」
「一時は、しおらしく頭を下げたのになぁ……」
「あぁ、そんな事もあったねぇ。訓練場を使わせたけど、ちょっと腕が上がったら元通り……根本的に駄目なんだよ」
「まぁな、あの無駄な自信はどこから来るのか謎だわな」
本当に近藤の言う通り、実力を伴わないクセに、なんでギリクはあんなに自信満々なのか理解できません。
「まぁ、国分が手を貸さないなら、俺は無駄足だったのかな」
「いや、そんな事はないよ。いきなり治してくれと言われるよりも心の準備が出来たし、知らせてもらって良かったよ。ありがとう」
「礼を言われるほどの事じゃないさ。国分には散々世話になってるからな」
「僕が勝手にやってる事だから気にしなくていいよ」
「それに甘えてると成長しないから色々工夫はしてるんだが、ロックオーガあたりになると簡単にはいかないな」
世の中の人が全員近藤みたいなら平和なのに、なんでギリクみたいなのが生まれて来るんだろうね。
「ところで、ミューエルさんには知らせておいた方がいいかな?」
「うーん……近藤もコーリーさんの店には行くんだよね?」
「あぁ、魔力の回復を助ける薬とか、ちょいちょい使わせてもらってる」
「それなら、知らせておいた方が良いかも」
「でも、ギリクさん出入り禁止になったとか言ってたんだよなぁ」
「あぁ、同棲してる女性がいるのにミューエルさんに強引に迫って叩き出されたんだよ」
「マジで? あの人何考えてんだ?」
「さぁね、理解不能だし理解したいとも思わないよ」
「まぁな、うん……ちょっとコーリーさんの店にも行って来るか」
「何か、面倒事を全部近藤に任せてるみたいで悪いね」
「それは、お互い様だって」
近藤は、ぬるくなったお茶を飲み干すと、コーリーさんの店へ出掛けていった。