軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

元女冒険者の計画

※今回は元女冒険者ロレンサ目線の話です。

ようやく這って歩けるようになった。

まったく、赤ん坊の体ってのは、こんなにも思い通りにならないものとは知らなかった。

いや、覚えていなかったという方が正しいのかもしれない。

今の赤ん坊の体になってからは数か月だが、あたしにはマールブルグの女冒険者として生きた記憶がある。

いわゆる前世の記憶ってやつだが、さすがに赤ん坊だった頃までは覚えていない。

今はただ、思い通りにならない体を思い通りに動かせるように、ジタバタするしかない。

女冒険者だった頃の最後の記憶は、相方のパメラと一緒に飲みに行った晩の出来事だ。

酔いを醒まそうと一人で公園に立ち寄った時、飲み屋で締め上げた駆け出しの冒険者に背後から刺され、拠点に戻った辺りで記憶が途切れている。

腹の奥まで刺された感覚や、ブーツの中に溜まっていた血の量を考えると、あのまま命を落としたのだろう。

その後の記憶は、赤ん坊として生まれ変わってからになる。

最初は目もロクに見えず、パニックになってしまったが、状況が把握できた後からは、とにかく早く成長できるように、オッパイ飲んでは眠る生活を続けた。

良く見えない、良く聞こえないなかでも、目を凝らし、耳を澄ませて必死に情報を集めてきた。

それによると、今居る場所はマールブルグではなくヴォルザードで、若者が共同所有しているシェアハウスらしい。

しかも、住民は女冒険者だった頃の恋人、ジョーやその仲間達のようだ。

今の体の父親は、ジョーの仲間のシューイチ、母親はシーリアというそうだ。

恐ろしいほどの偶然に、神の悪意が働いているのではないかと思ってしまった。

前世の記憶では、父親のシューイチは少々性格的に難があったが、顔だけは整っていた印象がある。

母親のシーリアだが、鼻と鼻が当たるほど近付けてくる顔の造作はかなりの美形に見えた。

しかも驚いたことに、シーリアはリーゼンブルグの第四王女だったらしい。

シーリアの母親が平民出身だったせいで、まともに王女扱いされなかったようだ。

そのおかげで、平民のシューイチと結ばれることが出来たし、リーゼンブルグを離れて平民として暮らしていられるらしい。

まぁ、母親の出自とかには正直あまり興味は無い。

それよりも気になっているのは、今度のあたしは可愛く成長できるかどうかだ。

ぶっちゃけ、女冒険者をやっていた前世のあたしは美人とは言い難い容姿をしていた。

男と力で勝負できるほどガッチリした大きな体、頑丈に張り出した顎、屋外の活動が多かったので日焼けしてカサカサだった肌。

男に舐められずに済んでいたが、可愛いとか綺麗とか男達からチヤホヤされた事は、大人になってからは一度も無かった。

体が少々小さくても、魔法が上手く使えれば女でも冒険者として活動できる。

逆に体が大きければ冒険者としては有利だが、女として見てもらえなくなる。

女冒険者だった頃、あんなゴツい容姿でジョーみたいな有望な若手冒険者を恋人に出来たのが、今でも不思議に思えてしまう。

そのジョーには、機会があるごとに大好きアピールを続けているが、前世とは変わり過ぎている容姿のせいで、あたしがロレンサの生まれ変わりだとは気付いてもらえないでいる。

というか、生まれ変わっても執着していると気付かれたら、気持ち悪いとか思われてしまうだろうか。

それならば、前世のことは悟られないようにして、シューイチの娘としてジョーに接近した方が良いのだろう。

ただ、この体が成長するまでには、まだまだ時間が掛かる。

シェアハウスには、同年代の女も一緒に暮らしているようだし、そいつらの話によるとジョーに女が出来たらしい。

なんでも、服屋で働いている犬獣人の女だそうで、シェアハウスで暮らしているタカコとかいう女の同僚らしい。

本人を見ていないから分からないが、服屋で働いているならば、それなりの容姿をしているのだろう。

たぶん、前世のあたしよりは確実に可愛いだろう。

ジョーがその女と付き合いだしたのは、あたしに捨てられたから……らしい。

どうしてそんな事になっているのか分からないが、たぶんパメラが死んだのではなく、行方知れずになった……みたいな感じにしたのだろう。

確か、意識を失う前に、ジョーには知らせないでと言った気がする。

死んだと知らせないなら、行方知れず、ジョーを捨てた事にするしかないのだろうが、我ながら失敗だった。

そもそも、あたしが死んだと知らないならば、生まれ変わってここに居ると気付くはずがない。

やっぱり、このままシューイチの娘としてジョーに近付くしかないだろう。

まぁ、この体が成長するまでは、他の女に現を抜かしていても構わないさ。

今度は可愛い女に成長して、ジョーを悩殺してやるから。

それまでは、服屋の犬っ子に貸しておいてあげるよ。

赤ん坊としての生活は、思い通りに話せない、動けない、下の世話までみてもらわなきゃならないなど、不自由なことばかりだが、開き直ってしまえば快適だ。

シューイチの嫁、あたしの母親であるシーリアは良く気が付くし、その母親のフローチェも赤ん坊の扱いには慣れているようだ。

概ね快適な生活を送っているが、鬱陶しい連中がいない訳ではない。

ジョーとパーティーを組んでいる、カズキとタツヤだ。

あたしが女冒険者だった頃も、女にモテない、女にモテないと嘆いていたが、未だに女に縁が無いらしい。

いくら女に縁が無いからといって、まだ乳飲み子のあたしに手を出そうなんて頭がどうかしているんじゃなかろうか。

シューイチやシーリアが、あたしから目を離した隙を見つけては、耳元で訳の分からないことを囁いたりする。

「リリサ、カズキは格好いい、カズキはいい男、カズキと結婚する……」

何の呪いだ。

しかも、カズキだけでなく、タツヤも同じ呪いを掛けようとしてくる。

カズキとタツヤの呪いの呪文が始まったら、即座に大泣きしてやっている。

シューイチも可愛い娘なんだから、悪い虫が付かないように目を離すんじゃないよ。

赤ん坊の生活は、毎日変わり映えがしなくて退屈だが、最近、ちょっとした変化があった。

あたしに妹分が出来たのだ。

といっても、実の妹ではなく、サチコという女が産んだミクという女の子で、今もあたしの横でスヤスヤと眠っている。

あたしと同い年になるので、サチコが仕事をしている時には、シーリアが面倒を見ている。

逆に、サチコが仕事から戻った後は、あたしがお乳を貰ったりしている。

これは、乳姉妹とでも言うのだろうか。

同じ家に、同じ年に生まれたのだから、自分で動けるようになったら面倒を見てやるつもりだ。

こちとら二度目の人生で、前の人生の記憶が残っているのだから、何も知らず純粋無垢なミクがカズキやタツヤみたいな男に引っ掛からないように守ってやろう。

「リィィィィィリィィィィィサァァァァァァァァ……」

家の外から、あまり聞きたくない声が近付いて来る。

どうやらシューイチが依頼を終えて帰って来たようだ。

シューイチが無事ならジョーも無事に戻って来るはずだ。

ジョーがシューイチよりも遅く戻ってくるのは、ギルドへの報告などを一手に引き受けているからだ。

そのうちに、ジョーにばかり負担を掛けないように、シューイチを教育してやらないといけないな。

「お仕事しないパパ、嫌い……」

とか、言ってやろうかね。