軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ローラー作戦(前編)

ここは魔の森の奥にある国分健人専用訓練場。

魔の森を抜ける街道の野営地で、ポーションもどきの副作用によって暴れた冒険者が起こしたボヤ騒ぎが収まった後、三体のスケルトンが膝を突き合わせて念話で会話をしていた。

『許せない……我慢の限度を超えた……』

『分団長、フレッドの言う通りです。組織を壊滅させましょう』

『言われるまでもない、長きに渡り争いを続けていたリーゼンブルグとバルシャニアの間を取り持ち、二つに分かれてしまったリーゼンブルグが再び一つとなる可能性を見せてくれたケント様の行いに泥を塗るような所業を許せるはずがなかろう』

『しかも、復興の邪魔……』

『本当に、これで職人の数が減れば民の暮らしにも悪影響が出かねません』

『その通りだ。だから潰す……徹底的にだ』

相談するまでもなく、ラインハルト、バステン、フレッドが下した決定は、ポーションもどきを流通させた組織の壊滅だ。

『組織特定は……どうやる……?』

『リーゼンブルグの王国騎士団と連携しますか?』

『特定の必要など無い。言ったであろう、徹底的に潰すと』

『でも、どうやってやる……?』

『我々とコボルト隊だけでは手が足りません』

『フレッドもバステンも思い違いをしておるな』

『思い違い……?』

『どういう意味ですか?』

『では問おう、我々はなんだ?』

ラインハルトからの唐突な問いに、フレッドとバステンは腕組みをしてカクっと首を傾げた。

『ケント様の騎士……』

『忠実なる眷属ですか?』

『どちらも正解だが、ワシが言いたいのはそういうことではない。我々は生身の騎士ではなく、影に潜むスケルトンだ。騎士の誇りは失ってはいないが、リーゼンブルグ王国騎士団の規律に縛られる存在ではないということだ』

ニヤリを笑みを浮かべたラインハルトを見て、フレッドとバステンはカクンと頷いてみせた。

『なるほど……それならば……』

『人員不足もカバーできますね』

『だが、罪なき者まで裁くつもりはない。まずは、コーリー殿に頼んで試薬を手に入れることにしよう』

『分団長、先に目星を付けておいた方が良いのでは?』

『アルダロスは広い……』

『そうだな、今夜のうちに動くか。手の空いているコボルト隊を集めろ。街道のパトロールはイッキたちオーガ部隊に任せて、ゼータ達も参加させて怪しげな薬を所持している者を洗い出せ』

『りょ……』

『了解です!』

ケントがジョーとの話を終えて自宅に戻った頃、三体のスケルトンとコボルト隊、それにゼータ、エータ、シータはリーゼンブルグの王都アルダロスの各所へと散らばっていった。

影から影へと伝って移動し、扉が閉ざされていようが、鍵が掛けられていようが入り込み、内部の様子を探る。

探すのは所有を禁じられている違法薬物と、それを扱っている人物だ。

違法と思われる薬物が置かれている場所や売人らしき人物を見つけたら、闇属性の魔力を付与した魔石の欠片を置いておく。

薬物の置かれている棚や売人のポケットの中、ほんの小さな欠片でもラインハルトたちにとっては明確な目印となる。

リーゼンブルグの王都アルダロスを虱潰しに捜索する大規模なローラー作戦は、誰にも気付かれることなく静かに迅速に続けられた。

翌朝、コーリーの薬屋で店番をしているミューエルの足元から、マルトがひょこっと顔を出した。

手にはラインハルトの書いた注文書が握られている。

「わふぅ、ミューエル、これちょうだい」

「あっ、ケントのところのコボルトちゃん、何かな……えっ? 麻薬判別用の試薬?」

「わぅ、なるたけ多く、でも守備隊が困らない程度で」

「分かったわ、ちょっと待っててね」

ミューエルが試薬を揃えて用途別に札を付け、木箱に詰めたものを手渡すと、マルトは影の空間からコインの入った木箱を取り出した。

「ここから代金を取って」

「えっ、私が取っていいの?」

「わぅ、ミューエルは信用してるから大丈夫」

「はいはい、それじゃあ五千と七百ヘルト、確かに受け取りました」

木箱から代金を受け取ったミューエルが頭を撫でると、マルトはパタパタと尻尾を振って影の空間へと戻っていった。

マルトが向かった先は、アルダロス郊外にある古びた屋敷だった。

ここがラインハルトたちが一番先に目を付けた場所だ。

元は貴族か金持ちの別邸だったらしく、街道から少し外れた草原の中にポツンと建てられている。

塀は崩れかけ、かつては綺麗に整備されていたと思われる庭も背の高い雑草で埋まっていた。

屋敷の建物も壁にはヒビが入り、閉ざされていた鎧戸もあちこち朽ちて壊れている。

大きな鉄の正門は錆びついて傾き、もう長い間閉じたままだが、裏手の通用門に油が差され、軋みもせずに開閉できるようになっていた。

通用門から屋敷へと続く通路も。踏み石の間から伸びた雑草が踏み倒されている。

朽ちかけた廃屋のような屋敷の裏口の内部は、表からは想像の出来ない光景が広がっていた。

綺麗に清掃された廊下の右手、かつて厨房があった場所には、樹木や鉱石から抽出を行うための機材が並んでいる。

厨房の隣、かつての食堂だった部屋は、片側が怪しげな薬草や液体を入れた壺、魔石などが置かれていて、反対側は粉末を紙に包む作業台が置かれている。

かつての調理場も食堂も、しっかりと鎧戸が閉められた上に、室内からも目張りがされている。

時刻は正午少し前だが、作業が行われているのは粉末の梱包だけで、調理場に人の姿は無い。

火を使い、抽出の作業を行うと、当然煙が発生する。

誰も住んでいないはずの廃屋から煙が出ていれば、不審に思われてしまうので、抽出作業は夜間に行われているのだ。

今の時間は敷地に入り込む人間が居ないか見張る者と、梱包作業を行う者しか居ない。

抽出の作業を行う者は、昼過ぎに姿を見せて材料の準備を始めるようだ。

梱包作業を行っている者達は、口許を布で覆い、計量用の匙で粉末を掬い、小さく切った紙に載せ、開かないように折り畳んで包んでいく。

包み終えた薬包は、箱にまとめて入れられ、その内の一つが消えても誰一人気付かない。

『完全にクロ……ファルザーラの反応が出てる……』

箱の中から消えた薬包は、影の空間でフレッドの手によって試薬を使い麻薬であると確認された。

『どうしますか、分隊長』

『まだ手を出すなよ。抽出を行う連中や見張りの連中が揃うまで待て』

『全員に目印を付ける……?』

『一人残らず目印を付けた後で麻薬は回収、素材には火を付けて屋敷ごと燃やす。そうすれば、幹部連中に報告に向かう奴が出てくるはずだ』

『組織に辿り着いたら……?』

『金を奪う。活動資金が無くなれば、音を上げるだろう』

『しかし、分隊長、ここの連中が例のポーションもどきを作った組織とは限りませんよ』

『言っただろう、徹底的にやると。例のポーションを作った連中ではないかもれしれないが、麻薬に手を出しているのは間違いない。だったら潰すまでだ』

ラインハルトの立てた作戦は単純明快だ。

薬物犯罪に手を染めている組織を見つけたら、薬物と素材を処分し、資金を根こそぎ奪う。

組織としての資金だけでなく、幹部や構成員の個人資産まで根こそぎ強奪する予定だ。

その上で、金に困った連中がまともな仕事で稼ぐならば見逃すが、新たな犯罪に手を染めるならば叩きのめして官憲に突き出すつもりだ。

『分団長、抽出作業を行う連中が来ましたよ』

『よし、それならば始めるとしようか、ここから薬物撲滅の狼煙を上げるぞ』

『了解!』

ラインハルトの指示通りに、フレッド、バステン、コボルト隊が動き出す。

一時間後、麻薬の製造拠点だった古い屋敷は炎に包まれて焼け落ちた。