軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ポーションもどき

「また、酷い代物を持ってきたねぇ」

マルセルさんが使っていたポーションを取り出すと、コーリーさんは露骨に顔を顰めてみせました。

「やっぱり酷い品質なんですか?」

「酷いなんてもんじゃないよ、こんな物はポーションとは呼べないよ」

瓶に入ったポーションを見ただけで、匂いも味も確かめることなくコーリーさんは言い切りました。

確かに見た目からしてヤバそうだし、こんなの良く飲めたものだと思うけど、コーリーさんに鑑定してもらいたいのは、効き目とか成分です。

詳しい鑑定をお願いしようと思ったら、店の扉が開きました。

「ただいま、あら、ケントじゃない、いらっしゃい」

「ご無沙汰してます」

扉を潜って店に入って来たのは、配達を終えて戻ってきたミューエルさんでした。

「丁度良い所に戻ってきた。ミューエル、これがどんな物だか鑑定してごらん」

「うぇぇ……すごい色してるね。何なのこれ?」

「これはですねぇ……」

「ちょっとお待ち、ミューエルには情報を知らせなくていいよ」

「えっ、いいんですか?」

「あぁ、その方が先入観無しで鑑定できるだろう」

事前に情報を聞いてしまうと、効果とか、効き方、副作用などから推測をしてしまい、純粋な鑑定が出来なくなる恐れがあるそうだ。

それに、ミューエルさんが情報無しで、どの程度まで鑑定出来るか確認したいそうだ。

「ケント、これは使ってしまっても大丈夫なの?」

「えっと……継続的に使って大丈夫なのかは分かりません」

「ううん、そうじゃなくて、全部は使わないけど、減っても大丈夫なの?」

「あぁ、そういう意味ですか。これは鑑定用に取っておいた分なので、使ってもらって良いですよ」

「分かった。じゃあ、ちょっと準備するね」

ミューエルさんは、店の奥へと入っていくと、いくつかの道具をトレイに載せて戻ってきました。

最初に手にしたのは、透明なガラスでできた杯でした。

ミューエルさんは、慎重な手付きでポーションを杯に注ぐと、窓辺に持っていって日の光に透かして眺め始めました。

「あれは、何をしているんですか?」

「色と沈殿の仕方で、どんな作り方をしたのか推測しているところさ」

「普通のポーションって、どんな風に作るものなんですか?」

「ポーションは、使う薬草によって抽出する温度や時間、やり方が異なってくる。抽出のやり方や混合する比率を間違うと、ポーションとして形になった後に濁りが出て来るのさ」

「濁った後で、濾したりしたら駄目なんですか?」

「それをやると効果が薄れちまう。このポーションもどきも、濾したら効果は半分以下になっちまうはずだよ」

コーリーさん曰く、ポーションには一般的なレシピの他に、薬師独自の秘伝のレシピがあるそうです。

そうした秘伝のレシピの中には、ブースターみたいに副作用の大きい物や猛毒なども含まれているそうです。

「そうした危険な物は、おいそれと教える訳にはいかないから、弟子として育てて、人柄を見極め、この子なら大丈夫と思うまでは絶対に教えないのさ」

そう話しながら、鑑定を進めるミューエルさんを見守るコーリーさんの瞳は、深い信頼感で満たされているように見えました。

その一方で、ミューエルさんの表情は作業が進むほどに、厳しくなっていく一方でした。

数種類の試薬を混ぜて色の変化を観察し、最終的には匂いと味を確かめて鑑定作業は終了しました。

「ケント、これはどこで手に入れたの? こんなの飲み続けていたら死んじゃうよ」

「やっぱりそうですか。入手した経緯は後でお話ししますので、鑑定の結果を教えてもらえますか?」

「これは、ブースターの出来損ないに、幻覚剤とか興奮剤を混ぜたものだと思う」

ミューエルさんは、試薬を使って観察した結果と杯に注いだポーションをコーリーさんに手渡しました。

受け取ったコーリーさんは、匂いと味を確かめると、お茶で口を濯いだ後で予想外の結果を口にしました。

「これは、おそらくバルシャニアから流れて来たものだろうよ」

「えぇぇぇ! バルシャニアですか?」

「あぁ、ミューエルの言った通り、ブースターの出来損ないにいくつかの混ぜ物をしたものだね。その中の一つは、バルシャニア産の麻薬の類だろう」

「麻薬って、ファルザーラとかですか?」

「ほぅ、よく知っておるな。だが、ファルザーラは香として焚いて吸うものだ。こいつに混じっているのは、おそらくキグルスだろうね」

キグルスは、バルシャニアの北の山岳地帯に育つ植物の根から抽出されるそうで、鎮痛剤として使われた時期もあったそうなのですが、習慣性が強く、幻覚などの副作用が酷いので使われなくなったそうです。

「キグルスには性的な興奮を煽る効果があって、怪しげな娼館などで酒に混ぜて客に出したりするそうだ」

「禁止されていないんですか?」

「勿論禁止されておる。酒に混ぜると効果が高まるが、度を超すと頭の中で血脈が弾けたり、長期に渡って使い続けると内臓がボロボロになるぞ」

マルセルさんの肝臓に腫瘍が出来ていたのは、やはりポーションが原因だったようです。

エナドリだと思って飲んでいたら、違法薬物だった……なんて洒落になりませんよね。

「それじゃあ、このポーションはバルシャニアで作られたものなんでしょうか?」

「そうかもしれんし、そうじゃないかもしれぬ。事態をややこしくしているのは……案外お前さんかもしれんぞ」

「えぇぇぇ! 僕ですか? いやいや、僕は麻薬なんて扱ってませんよ!」

「そうではない。これまでならば、このような物はヴォルザードには辿り着かなかったと言っておるんだよ」

「あっ……なるほど」

「分かったかい? どこぞの坊やのおかげでバルシャニアとリーゼンブルグが仲直りをした。丁度、今の魔の森を抜ける街道のように、二つの国の往来が盛んになれば、怪しげな薬が入り込む余地が生まれちまうんだろうよ」

確かに、以前のリーゼンブルグとバルシャニアの関係であったならば、行商人の積み荷の審査も厳しく行われていたでしょう。

行き交う人の数が少なければ、審査に時間を割けますが、人や荷物の量が増えれば目が行き届かなくなり、怪しげな荷物が監視の目をすり抜ける機会も増えるでしょう。

「まいったなぁ……こんな事のために仲裁したんじゃないんだけど……」

「ひっひっひっ、なにも坊やが悪い訳じゃないさ。必要な人を配置せず、監視の目に穴を空けた連中が悪いのさ」

「コーリーさん、このポーションを飲んでしまった人は、どうすれば良いんですか?」

「一般的な毒物や麻薬の場合と同じ対処をするしかないだろうね。まずは原因である、このポーションもどきを飲まないこと、酒も禁止、その上で内臓の働きを高める薬を服用して様子を見るしかないだろうね」

コーリーさんの見立てでは、キグルスの他にも血行を促進する成分や眠気を抑える成分なども加えられているようです。

酔っぱらって暴れた挙句、留置場で変死した人達は、このポーションもどきの複合的な効果によって脳の血管が破裂した可能性が高いようです。

ヴォルザードで流通しているということは、間違いなくラストックでも出回っているでしょう。

これは、国境をまたいだ広域捜査が必要になりそうですね。