軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

早朝の見物

「お出掛けですか?」

「うん、ちょっと見物にね」

夜明け前に、自宅の門へと歩み寄ると、警備を担当していたツーオに珍しい物を見るような表情をされてしまいました。

これでも一応冒険者だから、夜明け前に家を出て依頼に出向いてもおかしくはないんだけど、普段は影移動ばっかりですからね。

「そういえば、今日からでしたか」

「そうそう、かなり賑わっているみたいだね」

「近頃は、毎朝賑やかですが、今日は段違いですね」

「まぁ、今日ぐらいだと思うけどね」

「いってらっしゃいませ」

「いってきます」

ツーオに見送られながら門を出て、城壁をくり抜いたトンネルを抜けると、わっとざわめきが押し寄せてきた。

「おぉぉ、これは予想以上かも……」

トンネルを出て右を向いた先には、魔の森を抜ける街道に繋がる南西の門があるのですが、今は黒山の人だかりと馬車の列で埋まっています。

野営地の整備が終わり、ヴォルザード守備隊とラストックの騎士団による警備体制も整い、いよいよ今日から護衛受注可能ランクがCランクに引き下げられます。

ラストックの復興特需にあやかりたくても護衛の出来る冒険者を確保できなかった商会が、今か今かとランク引き下げを待っていたようです。

開門を待つ商人や冒険者、それらの人々を目当てに出店を出す者、野営地で商売をしようと考えてる人も少なくないようです。

そのおかげで、馬車を作る工房や魔導具屋は大忙しだそうです。

馬車を引く馬も不足しているそうで、遠くブライヒベルグや魔の森の向こうリーゼンブルグからも馬が連れられて来ていると聞きました。

ラストックは、水害によって街の殆どが流される酷い状態でしたが、驚くほどの勢いで復興が進められています。

本来、国の端に位置する開拓集落だったのが、今やヴォルザード、ランズヘルトとの交易拠点へと生まれ変わろうとしているのです。

僕がオーランド商店のデルリッツさんと訪れた時に変更された街割りは、あの後にも変更が加えられ、街の規模は当初の予定の三倍以上になっているそうです。

ここまでの発展を予想していたのか分かりませんが、デルリッツさんの先見の明は大したものです。

オーランド商店は益々大きくなるのでしょうが、それをあのバカ息子のナザリオが相続するのかと思うと、ちょっと複雑ですねぇ。

てか、ナザリオは確かバッケンハイムの学校に行ったはずですが、ちゃんと勉強やってるんでしょうか。

「おーっ、国分、お前もどこかの依頼を受けたのか?」

そのオーランド商店の屋号が大きく染められた幌馬車に近付いていくと、商会の人と話をしていた新田が僕に気付いて声を掛けてきました。

「おはよう、見物に来た」

「見物って、いい身分だな、おい!」

「えーっ、野営地を四ヶ所も整備したんだよ。感謝はされても、文句言われる筋合いは無いと思うけどなぁ……」

「おぅ、そいつは悪かった」

「しっかし、凄い人だねぇ……」

「あぁ、渋谷のハロウィン並みじゃね?」

「全員、冒険者と商人の仮装で?」

「ぎゃははは、完成度高すぎだろう」

新田と話をしていると、近藤、鷹山、古田の三人も声を聞き付けて集まってきました。

「ジョー、準備はもう出来てるの?」

「あぁ、あとは出発するだけだが、動き出すまでに時間掛かりそうだな」

オーランド商店の馬車の前には、パッと見ただけで三十台ぐらい馬車が並んでいます。

これでは、門が開いてから、動き出すまでに時間が掛かりそうです。

その馬車の列を眺めていると、近藤が話し掛けてきました。

「国分、気付いてるか?」

「えっ、何に?」

「若い冒険者が一杯いるだろう?」

「えっ……?」

そう言われてみると、とてもCランクには見えない若い冒険者の姿が多く見られます。

一応、装備は整えているようですが、ちょっと頼りなさそうにも見えます。

「どういう事?」

「例の訓練施設で討伐の訓練を受けたパーティーには、Dランクでも門の出入りを認めるようになったらしい」

「えっ、マジで! それってヤバくないの?」

「まぁ、以前から北側の門から出て、ぐるっと西側を回り込んで森に入る奴はいたからな。回り込むせいで森に入るのが遅れたり、こっちから戻るとペナルティになるからって怪我したまま北側に戻ろうとする奴がいるんだとさ」

「あぁ、そんなんだったら、講習の条件を付けて出入りを認めた方が良いってことか」

「そういう事なんだが……見てみ、荷物多そうじゃね?」

「えっ? そう言われれば、そうだね」

若手の冒険者たちは、討伐に入るにしては大きな荷物を背負っている者の割合が高いように感じます。

「あれは、何なの?」

「野営地一泊ツアーらしい」

「はぁ? 野営地まで歩いて行く気なの?」

「みたいだぜ」

「てか、野営地行って何をするつもりなの?」

「何をするじゃなくて、野営地に行くのが目的なんだよ」

近藤曰く、若手の冒険者にとっては、新しくできた野営地まで行って、現物を見るのが目的なんだそうだ。

「あれか、自転車で日本一周しました……みたいな?」

「そうそう、そんな感じじゃね? おっと、そろそろ開門の時間だ。またな、国分」

「うん、またね……いつもと同じ別れが、まさか近藤との最後の……」

「縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇ!」

「あはははは、でも、油断しないでね」

「おぅ、任せとけ!」

他の三人ともグータッチを交わして、オーランド商店の馬車が門を出ていくのを見送りました。

その後も馬車や人の流れを見ていると、確かに天幕らしい荷物を背負った若い冒険者パーティを幾つも見かけました。

『ケント様、彼らにとっては、あれが冒険なんでしょうな』

「あー、なるほど……」

影の中から見守っていたラインハルトの言葉が、彼らの行動を正しく言い表しているのでしょう。

たぶん、彼らが魔物に遭遇することはないでしょう。

今日に備えて、コボルト隊とゼータたちに加え、リバレー峠やイロスーン大森林で魔物を間引いていたイッキ達もパトロールに加わっています。

出たとしても単独のオークまででしょうから、講習を受けたパーティーならば何とかなるでしょう。

『ケント様、北東の門はガラガラだった……』

「ははっ、みんなこっちに集まってたんだ」

北東の門を見て来たフレッドによれば、馬車も冒険者の姿も疎らで、出店のオッサンが頭を抱えていたそうです。

こちら側の門の混雑ぶりを見たら、クラウスさんが大笑いしそうだと思ったのですが、北東の門が閑散としているのでは、高笑いする気にはなれないでしょうね。

『ケント様、これほどの偏りは長くは続かないと思いますぞ』

「そうかなぁ、まだラストックの復興特需は続くんじゃない?」

『続くでしょうな。ただ、特需が続けば、マールブルグからの荷も増えると思いますぞ』

「なるほど、鉱石か」

リーゼンブルグの鉱石の産地と言えば、あのアーブル・カルヴァインが治めていた北部の山間部です。

ラストックからだと、マールブルグの方が距離的には近いです。

『距離の違いは、輸送費の違いでもありますぞ』

「なるほど、ヴォルザードとラストックの間の関税撤廃に相乗りすれば、マールブルグは価格で優位に立てるのか」

『そういう事ですな』

マールブルグからの荷が増えれば、当然北東の門を利用する人も増えるでしょう。

「あぁ、やっぱりクラウスさんは高笑いするのか」

『そうなりますな』

関税の撤廃なんて、がめついクラウスさんには似合わないと思ったのですが、どうやら損して得とれ作戦だったようです。

「見物した様子を後でクラウスさんに報告しようかと思ったけど、別にいいか」

『ぶははは、報告なんて無粋なことは忘れて、帰って朝食になさいませ』

「そうだね、そうしよう」

家に戻ると、壁の外からの喧騒も終わり、コボルト隊やゼータがパトロールに出ていて、いつもより庭が静かです。

と思いきや、いつもは起きて来ないレビンとトレノ、それにネロまで歩み寄ってきて、ドロドロと喉を鳴らしながら頬ずりした後で、それぞれの定位置で自宅警備を始めました。

「うん、たまにはこういうのも良いね」

庭はちょっと静かだったけど、我が家の食卓はカミラが加わって以前よりも賑やかになっています。

さて、朝食を終えたら、今日は何をしましょうかね。