軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

友好の使者

魔の森を抜ける街道に、リーゼンブルグの国旗が翻っています。

ピカピカに磨き上げられた鎧に身を固めた騎士百人は、粛々と馬を進めてきました。

そして、いよいよヴォルザードの城壁からも、行列の姿が見えてきました。

これだけの数のリーゼンブルグ王国騎士がヴォルザードを訪れるのは何十年ぶり……いや、百年以上絶えてなかったことだそうです。

現在は魔の森を境にしてリーゼンブルグ王国とランズヘルト共和国の二つに分かれているものの、トレントの大量発生で魔の森が出来る以前は一つの国でした。

魔の森によって東西に分断され、往来が絶え、東側の七つの領地が共同で治めるという選択がなされ、現在に至っています。

ただし、独立を認めるという正式な文書は取り交わされておらず、リーゼンブルグの一部の人達は、未だにランズヘルトはリーゼンブルグの一部であると思っているそうです。

一方、ヴォルザードに暮らす人達は、自分達の国は自分達のものだと思っていて、そうした意識の違いが対立を生んでいたようです。

だが、時代は大きく変わりました。

リーゼンブルグは、ランズヘルトよりも鋭く対立していたバルシャニアと和平文書を取り交わすまでになり、リーゼンブルグの王女がヴォルザードに輿入れしてきます。

今夜、カミラは領主の屋敷に宿泊しますが、その際にディートヘルムも交えて、リーゼンブルグとヴォルザードの相互不可侵の和平条約が結ばれます。

これによって、ヴォルザードとリーゼンブルグの間の関税が取り払われ、更に往来が活発になるはずです。

「開門!」

城壁の上に設けられた見張り台から、守備隊の声が響き、重たい音を立てながら城門が開かれました。

ヴォルザード側でカミラの一行を出迎えるのは、僕とカルツさんで、今日は馬に乗った状態でお出迎えです。

事前に乗馬のおさらいをやりましたし、今日もコンビを組んでいるスナッチは、以前ゼータ達に〆られてから、とても従順になりました。

手綱で指示を出すと言うよりも、右とか左とか止まってとか言葉で指示を出した後で、分かってるよね……と、一言添えるだけで思うように動いてくれるようになりました。

純粋に僕の指示で動いているのではないのが少々情けないですが、そこは名よりも実を取るってやつですよ。

リーゼンブルグ一行は城門の前で止まると、先頭で率いてきたゲルトが単騎で僕らに近付いてきました。

「お出迎えありがとうとございます。魔王様」

「ようこそヴォルザードへ、さぁ、領主の館まで御案内いたします」

「ありがとうございます。それと、カルツさんでしたね、いつぞやはお世話になりました」

「あの時は、ケント達がヴォルザードに滞在していると話す訳には行かなかったんだ、勘弁してもらいたい」

「とんでもない、替え馬まで用意していただき本当に助かりました、改めて御礼申し上げます」

ゲルトが初めてヴォルザードを来訪したのは、ラストックの駐屯地からクラスメイトを救出した直後でした。

その頃は、まだカミラやゲルト達とはバリバリに敵対していましたから、僕らはヴォルザードには来ていないことにしてもらったんですよね。

「さあ、積もる話は後にして、領主の館に向かいましょう」

「魔王様、少しお待ちいただけますか?」

「どうかしましたか?」

「隊の者達に街に入る準備をさせますので、少し時間をください」

「構いませんよ」

「では……」

ゲルトは僕らに会釈をすると、隊列に戻っていき命令を下しました。

「総員、入国準備!」

「はっ!」

ゲルトの指示を受けた騎士達は、用意していた物を使ってヴォルザードに入る準備を始めました。

それは、馬上槍のための革鞘と若草色の帯、それにヴォルザードの紋章が入った小旗です。

騎士達は馬上槍に鞘を被せると、若草色の帯を巻き、そこに小旗を差しました。

続いて騎士達は、腰の剣の柄と鞘にも若草色の帯を巻き、そこにも小旗を差しました。

更に隊列の先頭を務める四人の騎士は、二人がリーゼンブルグの旗を掲げ、残る二人はヴォルザードの紋章が入った旗を掲げました。

支度を整えたゲルトが、僕らのところに戻ってきて準備の意味を説明してくれました。

「リーゼンブルグにおいて、若草色は平和を象徴する色です。若草色の帯で武器を封じ、ヴォルザードの旗を飾ることで我々の意志を示させていただきました」

胸を張ったゲルトに、カルツさんが笑みを浮かべて答えました。

「ヴォルザードでも、若草色は平和を象徴する色です。皆さんの心は、必ずやヴォルザードの住民にも届くでしょう」

「ありがとうございます」

がっちりと握手を交わすカルツさんとゲルトの姿を見て、周りに集まっていた群衆から拍手が沸き起こりました。

ゲルトは胸を張って隊列へと戻り、高々と右手を掲げました。

「入城!」

リーゼンブルグの一行が進み始めると、今度はヴォルザードの守備隊に動きがありました。

「総員、捧げ!」

カルツさんの号令で、周囲にいた守備隊員全員が腰から剣を鞘ごと外しました。

そして鞘の先を握り、柄を天に向けて体の正面に剣を立てました。

槍を持つ者も同様に、鞘を被せた穂先を握って槍を立てています。

こちらも攻撃する意志は無いと示す構えです。

実は少し心配していたんですが、リーゼンブルグの一行はバルシャニアの一行の時と同じようにヴォルザードの住民から歓迎されました。

いくらヴォルザードの領主とリーゼンブルグの王族が仲良くなっても、民衆の支持が得られなければ意味がありません。

武器を封じた若草色の帯は、本当に良いアイデアだと思います。

そう言えば、リーゼンブルグの先遣隊が来た時に、騎士の同行はラストックまでにするという申し出に対してクラウスさんが断ったことがありました。

その時にクラウスさんが、示威行動ではなく友好の使者である騎士の姿を見せてくれと、先遣隊のリントナーに言っていました。

若草色の帯は、クラウスさんの言葉への回答なのでしょう。

リーゼンブルグの隊列を先導しながら目抜き通りを進んでいくと、後方から歓声が沸き起こるのが聞こえてきました。

「カミラ様が、馬車から手を振られているのでしょう」

「あぁ、なるほど……」

馬を並べているゲルトの説明で納得しました。

酔っぱらうとポンコツだったりしますけど、見た目だけならカミラは超一級品ですからね。

「魔王様の下への輿入れが決まって、カミラ様は一層お綺麗になられましたから……」

うん、うん、そうでしょ、そうでしょう。

お見せできないけど、お風呂やベッドの上のカミラは更に素晴らしいんですよ。

リーゼンブルグの一行は領主の館の前まで辿り着くと、ゲルトと両国の旗を掲げた四騎だけが馬車と共に屋敷の敷地へと入りました。

さて、僕もスナッチから降りてカミラをお出迎えしましょう。

領主の館の玄関では、クラウスさん、マリアンヌさん夫妻に、アンジェお姉ちゃん、ベアトリーチェ、それにディートヘルムが待っていました。

そこに僕も加わります。

馬車から降りてきたカミラは、若草色のドレスをまとっていました。

出迎えたクラウスさんが、ほぉっと目を見開いたほどの美貌です……けど、僕のものですからお触りは禁止ですよ。

「ようこそ、ヴォルザードへ、カミラ王女」

「これから長いお付き合いになると思います、よろしくお願いいたします、クラウス様」

軽く腰を屈めて挨拶したカミラをハグしようとしたクラウスさんは、マリアンヌさんに襟を掴まれて止められて苦笑いを浮かべています。

うん、マリアンヌさん、グッジョブです。

「姉上、長旅お疲れ様でした」

「ふふっ、王都で私を見送ったディーに出迎えられるとは、おかしな気分だな」

召喚術によって、ほぼ一瞬で王都アルダロスからヴォルザードの僕の家まで移動したディートヘルムには、長旅という意識は皆無でしょう。

無事に顔合わせを終えた後、クラウスさんとディートヘルムの間で、リーゼンブルグとヴォルザード相互不可侵の和平条約への署名が行われました。