軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

復興するラストック

土石流によって街の殆どの建物が流失してしまったラストックでは、驚異的なペースで街の復興が進められていた。

更地になってしまった場所に新たな街割りが行われ、次々に新しい建物が作られている。

復興のペースが速いのには幾つかの理由があるが、その一つが物的には甚大な被害であったものの、人的な被害が殆ど無かったからだ。

街の殆どの建物は失われてしまったが、要塞のごとき騎士団の駐屯地は土石流にも耐え、事前に避難を終えていた住民たちの命を救った。

建物は無くなってしまったが、復興のための働き手は失われずに済んだのだ。

更に、働き手に関していうならば、グライスナー侯爵領の職人に加えて、ヴォルザードからも建設関係の職人が仕事を求めて足を運んでいる。

魔の森を抜ける街道が安全になった事に加えて、リーゼンブルグとヴォルザードの関係が改善しているからだ。

これによって、これまでの倍以上の人員が工事に携わっている事になる。

復興が進んでいるもう一つの理由は、各地からの手厚い支援が行われている事だ。

これまでラストックで災害が起こった場合、グライスナー侯爵が腰を上げなければ支援は届かなかったが、今回は王都からも迅速な支援が行われている。

その要因は言うまでもなく、コボルト隊による連絡、輸送体制にある。

ラストックを統括しているヴィンセント・グライスナーにケントが貸し出したウルトと、リーゼンブルグ王太子ディートヘルムの下にいるリーゼルトが中心となり、王都と瞬時の連絡、輸送が可能となった。

必要な支援物資の申請から配達までが、その日のうちに完了するのだから、これまでの何倍も何十倍も効率が上がっている。

復興事業に関わる土木職人に対する報酬の支払いが滞れば、人が集まらなくなってしまうが、逆に確実に支払いが行われるならば人は集まってくる。

ラストックに人員が集まった背景には、王都からの金銭的な支援があった。

そして、いくら人員が集まろうとも、資材がなければ工事は進まない。

建築に必要な石材、木材などの収集、運搬にもコボルト隊が大きな役割を果たしていた。

魔の森からの材木の切り出し、海岸線からの石材の切り出しを行い、ラストックに運び入れた。

潤沢な人員と資材に支えられ、ラストックは驚異的な復興を遂げつつある。

ラストックを統括するヴィンセント・グライスナーは、復興計画の中でも商店の建設を優先させた。

住民が物を買える体制を整えたところで、復興住宅の建設を行い、避難民の入居を進めた。

避難所から出て、復興住宅へ入居する者には見舞金が支払われ、住民たちは失ってしまった家財道具などを買い揃えるために奔走した。

衣服、家具、食器など、多くの住民が、生活を支える殆どの品物を新たに買い揃えるのだから、その量は膨大なものとなる。

復興特需を見込んで、グライスナー領内は勿論、ヴォルザードからも多くの品物が運び込まれた。

現在のラストックは、復興バブルのような活況を呈している。

「いやぁ、凄い復興ぶりだねぇ」

復興の度合いを確認しにラストックを訪れたケントは、影の中から街並みを見て回り、その活況ぶりに目を丸くした。

『他人事のようにおっしゃいますが、ケント様のお力添えが無ければ、これほどまでの復興はなされていませんぞ』

「でもさ、僕はみんなにお願いしただけだから、みんなの力があってこそだと思うよ」

『まぁ、確かにそうですな。新しい街を作り上げるのは、一個人の力でどうなるというものではありませんからな』

ケントと共に街を見て回ったラインハルトも、ラストックの復興ぶりには驚きを隠せなかった。

「復興は喜ばしいけれど、街の治安はどうなのかな?」

『騎士団が巡回を行っているようですが……詳しい事までは……』

「お金の集まるところには、楽して儲けようとする輩が寄って来るからね。胡乱な人間が集まらないようにヴィンセントさんには頑張ってもらわないとだね」

『そうですな。ですが、あのゼファロス殿の息子ですから、その辺りは指摘されているのではありませぬか?』

「そうだといいね」

ケントがラストックの視察に訪れたのは、いよいよカミラの輿入れの行列がラストックに近付いているからだ。

既に魔の森の野営地の準備も整えられている。

街道の南側に作ったこれまでの野営地に加えて、北側に作った同規模の野営地をカミラの輿入れを機に解放する予定でもある。

『ケント様、そろそろ野営地に代官を務める人物を置いた方がよろしいのではありませんか?』

「うーん……そうなのかもしれないけど、それをやると僕の領地みたいな感じになっちゃうからね。それに、適当な人物がいないからさ」

『そうですな、今後ラストックとヴォルザードの往来は益々増えるでしょうし、野営地というよりも新たな街になるでしょう。それを統括するとなれば、それなりの人物でなければ務まらないでしょうな』

「うん、八木程度じゃ話にならないからね。ジョーだったらやってくれそうだけど、引き抜いちゃうと新旧コンビや鷹山の生活が成り立たなくなりそうだからなぁ……」

『いっそ、ドノバン殿を引き抜いてはいかがですか?』

「いやぁ、無理でしょ。クラウスさんに怒られちゃうよ」

『でしょうな』

ケントとしても、ドノバンが引き受けてくれれば、これ以上ないほどに安心なのだが、ヴォルザードのギルドの要を引き抜く訳にもいかない。

「まぁ、もう少し様子を見て考えるよ。本格的に街にするなら、リーゼンブルグとランズヘルト両方から許可というか国境の検問をしてもらうようになるしね」

『ケント様の領地になさっても宜しいのでは?』

「いやぁ、これだけ安全に、普通に往来が出来るようになると、僕だけ権利を主張すると文句言われそうだし、現状は常設の建物を許可してないから、逆にお金の無い人が馬車で商売して儲けて、それを元手に街で店を持つ……みたいな流れもあるみたいだしね」

『なるほど、税金が掛からないから儲けも大きく、商売を始める第一歩の場所にするのですな』

ケントとしては、面倒な仕事をしたくないのが第一で、商売の第一歩云々は後付けの理由でもあったりするが、実際スタートアップの場所として利用されているのも事実だ。

「うん、とりあえず、カミラを迎えるのには問題無さそうだね」

『いよいよですな』

「まぁ、セラフィマの時の方が緊張はしたかな。皇族、王族を迎え入れるのは二回目だしね」

『ですが、クラウス殿の心境は今回の方が穏やかではないのではありませんか?』

「まぁ、隣国の王女様だからね。ヴォルザードとは相互不可侵の関係になるんだけど、他の領地から見るとヴォルザードが属国化したと思われかねない……でも、クラウスさんの性格的にそうは思われないか」

『マールブルグは何か言ってくるかもしれませんぞ』

「かもね、リバレー峠のこちら側の領地が奪われるかも……なんて思うかもしれないけど、領主のノルベルトさんとも顔馴染みだし、疑念を持たれたら直接晴らしに行くよ」

『そうですな。直接話をするのが一番ですからな』

ラストックの視察を終えたケントは、ハルトを目印にしてカミラの所へと移動した。

カミラの輿入れの一行は、騎士百人に守られてグライスナー領へと入るところだった。

今夜はグライスナー侯爵邸に宿泊し、明日はラストック、明後日は野営地にて一泊し、三日後にはヴォルザードに到着する予定だ。

「ハルト、何も問題は無い?」

「わふぅ、順調だよ」

カミラ付きのコボルト、ハルトは、影の空間から一行を見守り、異変があればすぐに知らせる手筈を整えている。

以前のような王位継承争いは無いし、アーブル・カルヴァインのようにクーデターを企てている者もいないようで、リーゼンブルグ国内は安定している。

騎士が百人もいれば、大抵の魔物には対処出来るし、この一行を襲おうなんて考える山賊はいないだろう。

「じゃあ、引き続き見守りをお願いね」

「わふぅ、任せて!」

『ケント様、カミラ様には会っていかれないのですか?』

「うん、今日はいいや。ヴォルザードで出迎えたい」

『そうですか、それでは戻りますか?』

「そうだね。本日は何事も無く良い一日で終われそうだよ」

ケントはハルトをワシワシっと撫でると、影の空間を通ってヴォルザードへと戻って行った。