軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オープン初日の裏で……

※ 今回はメイサちゃん目線の話です。

不穏な話を耳にした。

守備隊の敷地に作られたプールのオープン初日に、魔物使いケント・コクブが遊びに来るというものだ。

プールはケントと同じ世界から来たタカコの発案で作られたものだから、協力するのは当然なのだろう。

ケントが遊びに行くのは別に文句は無いけれど、愛人を見つけるために行くという噂が流れているのだ。

そのため、当日はヴォルザードに住んでいる年頃の女性が押し掛けるという噂も流れている。

当たり前の話だが、プールでは泳ぎやすいように水着姿になる。

肌の露出が多い水着姿で、自慢のスタイルを披露すればケントの目に留まって愛人に誘われるという話がまことしやかに流れている。

勿論、お客さんの噂話なんて話半分に聞いておくのが丁度いいのだと、いつもお母さんから言われて分かっている。

それに、ユイカさん、マノンさん、ベアトリーチェさん、セラフィマさん……四人もお嫁さんがいるケントが、今更愛人を欲しがるとも思えない。

でも、何だか胸がモヤモヤする。

ケントは基本的にスケベだ。

メリーヌさんみたいに胸の大きなお姉さんに抱き付かれると、すぐ鼻の下を伸ばしてデレデレする。

プールで水着姿の女の人に囲まれたら、やっぱり鼻の下を伸ばしてデレデレしていそうだ。

あたしと一緒にお風呂に入った時には、いつもと全然変わらなかったクセに……ちょっとムカムカする。

プールのオープン初日は星の曜日で、その日は学校の修了式の日だ。

オープンの時間はまだ学校だし、うちの食堂も休みではない。

ケントは、どこの誰か知らない女の人に囲まれてデレデレしているのに、あたしはいつもと同じように学校に行き、お店の手伝いをしなければならない。

別に、ケントがデレデレしているのを見なくて済むから構わないんだけど、なんだかモヤモヤする。

終業式の後、学校は二週間の夏休みに入るけど、あたしには店の手伝いがある。

食堂が休みになるのは一週間だけだから、プールに行けるのも一週間だけだ。

それに、プールに行けたとしても、ケントが来ているとは限らない。

ケントがいないのに、プールに行っても面白くなさそうだ。

プールのオープン初日、学校での同級生たちの話題はプール一色だった。

お風呂場で水に潜る練習をしたとか、もう水の中で目を開けられるとか、なんだか楽しそうでモヤモヤする。

「ミオはルジェクと一緒に行くの?」

「うん、お姉ちゃんの友達から頼まれたからね。メイサちゃんも行くでしょ?」

「んー……あたしはお店の手伝いがあるから、たぶん行かない……」

「えっ、そうなの? でも、ケントお兄ちゃんは行くみたいだよ」

「うん、知ってる。でも、お店休みじゃないし……」

「えー……一緒に行こうよ」

「お店が休みになったらね」

ミオやルジェクと一緒にチューチュー、イチャイチャしてれば楽しいんだろうけど、あたしは行ってもケントに遊んでもらえそうもないし、あんまり楽しくないと思う。

でも、ホントはちょっと行ってみたいからモヤモヤする。

終業式が終わった後、ミオとルジェクは一旦家に戻って、昼食を済ませてからプールに出掛けるらしい。

あたしは、いつもより早く帰れるから、お昼の営業の手伝いだ。

「メイサちゃん、来れたら来なよ」

「でも、あたし水着持ってないし」

「大丈夫、私が用意してあげるから」

「でも、行けたとしても、お昼の営業が終わってからだよ」

「じゃあ、その頃にメイサちゃんの家に行くよ」

「行けないかもしれないよ」

「それでもいいから、じゃあ後でね。行くよ、ルジェク」

「あっ、待って下さい、ミオ様」

「もう、私は美緒様じゃなくて、ただの美緒!」

絶対にあの二人、チューしたくてワザとやってるとしか思えない。

あたしだって、ケントと……うー……モヤモヤする。

家に戻ると、今日も食堂はお客さんで一杯だった。

サチコが考えた、冷たいパスタが好評なのだ。

「ただいま」

「お帰り! 手を洗ったら、ちょいと手伝っておくれ」

「はーい……」

お客さんが沢山来てくれるのは有難いことだ。

売り上げが上がれば、うちの家計も楽になるし、サチコのお給料も上げられる。

将来は、お母さんの後を継いで食堂を切り盛りしたいと思っているけど、自由に休めないのは時々大変だと感じてしまう。

お昼の営業が終わって、お母さんやサチコと一緒に遅めのご飯を食べていると、プールに行く準備を終えたミオとルジェクが来た。

「メイサちゃん、プール行こう!」

「んー……あたしはお店の手伝いがあるから……」

「行ってきな、あたしが夕方までやっといてあげるよ」

夜の営業分の仕込みまでは、サチコがいつもやってくれているけど、私だけ遊びに行くのは気が引ける。

「いいから、いいから、国分が水着姿の女の子に囲まれてニヤけていたら蹴とばしてやんな」

「じゃあ、メイサちゃん、水着に着替えちゃおう!」

「えっ、プールに行ってから着替えるんじゃないの?」

「服の中に着ていけば楽なんだよ。メイサちゃんが着替えるからルジェクは外で待ってて、覗いたら駄目なんだからね!」

「分かりました、ミオ様……あっ」

「もぅ、ルジェクの馬鹿……」

この前、サチコに教えてもらったんだけど、ミオとルジェクみたいな二人はバカップルと呼ぶらしい。

ついでに教えてもらったんだけど、付ける薬も無いらしい。

「じゃーん! これがメイサちゃんの水着でーす!」

「えぇぇぇ……これ、おへそが見えちゃうよ」

ミオが用意してくれた水着は上下に分かれていて、胸とお尻は隠れるけれど、お腹は丸見えだ。

淡いピンクのツルツルした生地で、ヒラヒラのフリルが一杯付いている。

「おー、いいじゃん、可愛い可愛い」

「でしょ、でしょ、メイサちゃん、早く着てみて」

フリルはたくさん付いてるけど、肌は下着よりも隠れていない気がする。

「ど、どうかな?」

「うん、バッチリ! じゃあ、その上に服を着て出掛けよう!」

「メイサ、タオルと下着を忘れるなよ。じゃないとビショビショの水着の上に服着て帰って来る羽目になるぞ」

危ない、危ない、サチコが言ってくれなかったら、このまま飛び出すところだった。

「お母さん、行ってきます!」

「気を付けるんだよ」

「は~い! ミオ、行くよ!」

「ちょっと待ってよ、メイサちゃん!」

プールに行けるとなったら、居ても立っても居られない。

ミオもルジェクも置き去りにして、守備隊まで走っていったのだが……。

「ごめんねぇ……あまりにも人が一杯で、入場を差し止めているんだ」

少しでも早くケントに会いたかったのに、守備隊の入り口で入れないと言われてしまった。

「あの、ケントは……」

「あぁ、朝からプールにいるみたいだね」

「そう、ですか……」

すぐそこにケントがいるのに、あたしは会いに行けない。

どこかの女の人に囲まれてデレデレしているケントを蹴っとばしに来たのに、中に入ることすら出来ない。

何だかケントが凄く遠くに行ってしまったような気がした。

「メイサちゃん、うちのプールで遊ぼう」

「うん……」

「コボルト達も一緒に泳ぐんだよ」

「うん……」

ミオに連れられて、ケントの家のプールに移動した。

ケントの家のプールには、いつの間にか城壁の上から覗かれないためと、一部日除けに使える白い布が張られていた。

日光浴するための木製のベッドとか、水の上には大きなボールが浮いていたりする。

コボルト達やゼータ達も遊びに来たし、フィーデリアも水着に着替えて出て来た。

あたしたちが溺れたりしないように、ザーエも見守ってくれている。

学校の同級生に話したら、絶対に羨ましいと言われる状況なのに、何かが足りない。

「メイサちゃん、泳ごう!」

「うん……」

空からは夏の太陽が照りつけているのに、あたしの心にはどんよりとした雲がかかったままだ。

「お腹でも痛いの? メイサちゃん」

「ううん……って、ケント! なんで?」

「なんでって、ここは僕の家だよ」

「だって今日はプールにいるって……」

「あぁ、僕は客寄せだからね、入りきれないほどお客さんが来たらお役御免だし、下手にいると混乱するだけだから帰ってきたんだ」

「そう、なんだ……」

ぱーっと心に掛かっていた雲が晴れて夏の日差しが戻ってきた。

「じゃ、じゃあ、泳ぐの教えてよ」

「あれっ、メイサちゃん、まだ泳げないんだ。美緒ちゃんやフィーデリアと練習したんじゃないの?」

「だって、今まで泳いだことなんか無かったんだから、しょうがないでしょ!」

「はいはい、では僕が教えてあげましょうかね」

「むきぃぃぃぃ……生意気、生意気、ケントのくせに生意気!」

駄目だ、怒ってる振りをしても顔がニヤけるのを止められない。

やった、ケントがいる、あたしがケントを独り占めだ。

プール最高! 夏休み最高!