軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プレオープン(後編)

空を覆っていた薄い雲も晴れ、夏の強い日差しが照りつけて気温が上がってきました。

プールの水もいい感じに暖められて、プールサイドに腰を下ろして足をつけると気持ちがいいです。

リカルダに水泳を教えることになった近藤は、律儀に準備運動から始めています。

足が攣ったりしないように、入念に屈伸運動やアキレス腱を伸ばしてますね。

これが新旧コンビだと、揺れる胸元に視線を奪われて、早く水に入ろうとしてたでしょうね。

その新旧コンビはどうなったのかといえば、既にフラヴィアさんと一緒にプールに入っています。

フラヴィアさんはサーフボードを大きくしたようなボードの上にうつ伏せになり、それを新旧コンビが押してプールの中を移動しています。

ボードの前側にいる新田は胸に、後ろ側にいる古田はお尻に、視線を釘付けにされています。

てか、どんどん前屈みになってるけど、水から上がれなくなるんじゃないの。

それに比べて、プールサイドに立って監視員の予行練習をしている守備隊の皆さんは、鍛え上げた胸を張って姿勢を崩していません。

煩悩まみれの新旧コンビは、守備隊の皆さんの爪の垢でも煎じて飲めばいいんじゃないかな。

「やぁ、ケント、久しぶりだな」

「カルツさん、お邪魔してます」

後ろから声を掛けられて振り返ると、守備隊用の赤地に黒のラインが入ったサーファーパンツ姿のカルツさんが立っていました。

うん、さすがに鍛え上げた体付きですね。

「泳がないのか?」

「うちのお嫁さんを待ってるところです」

「そうか」

「カルツさんは……泳げるんですか?」

「あぁ、泳げないと隊員達に示しがつかないからな……特訓したよ」

「じゃあ、今年初めて泳いだんですね」

「そうなんだが、慣れると夏場の鍛錬には良いな」

「確かに、水泳は全身運動ですし、なにより涼しいですからね」

「泳ぐことに慣れてしまうと、夏場に走ったり、鎧を装備しての訓練とかやってられなくなるぞ」

金属製の鎧は、内部に熱がこもるので、夏場の訓練は地獄だそうです。

「気温が上がりきる前に、そういった訓練を済ませて、その後に泳がせれば良いんじゃないですか?」

「そうだな、これからはそういった訓練パターンになるだろうな」

カルツさんはプールの様子を眺めていましたが、やはりフラヴィアさんのところで視線が止まりました。

「なぁ、ケント」

「何ですか?」

「ケント達の世界では、フラヴィアみたいな水着は当り前なのか?」

「いや、さすがに日本でも過激な部類に入りますよ」

「だよなぁ……」

「でも、僕らの故郷以外の国では、あのレベルが普通の国もあるみたいです」

「冗談だろう?」

「国にもよるんですが、ずーっと北の国では夏が短くて、日に当たれる期間が短いので、女性もトップレスなんて地域もあるらしいですよ」

「トップレ……とは?」

「トップが……レスなんです……」

ジェスチャーを交えて説明すると、カルツさんは額に手を当てて首を振ってみせました。

まぁ、ヴォルザードではトップレスとか考えられないでしょうね。

「おまたせ、健人!」

「おぉ、可愛い!」

「でしょ?」

更衣室から現れた唯香は、タンキニタイプのセパレーツの水着姿でした。

上はペールオレンジのハイネックタイプ、下はブラウンのハイウエストなスカートが付いたタイプで露出は控えめです。

「ど、どうかな……ケント」

「マノンも似合ってるよ」

マノンは髪の色に合わせたワンピースで、こちらもスカートが付いたミニのサマードレスといった雰囲気です。

「ケント様、いかがですか?」

「うんうん、リーチェも可愛いよ」

ベアトリーチェは、ピンクと赤のチェック柄のビキニで、上下ともにフリルが付いていて露出を抑えているけれど、スタイルが良いからちょっとドキっとしちゃいます。

「どうでしょう……ケント様」

「セラは大人っぽいね、素敵だよ」

セラフィマは白のワンピースの上に黒のレースのサマードレスを羽織ったような形の水着で、パッと見ると中は着ていないように見えて心臓に良くないですね。

「なるほど……水着と言っても色々な形があるのだな」

唯香達の水着姿を見て、カルツさんは感心したように頷いています。

話を聞いてみると、プールの計画を聞かされた時に、ビキニ姿の女性がプールや海で遊ぶ映像を見せられて、こんな露出の多い姿で大丈夫なのかと悩んでいたそうです。

確かに泳ぐ習慣の無いヴォルザードでは、唯香達の水着でも露出は高めに思われるのでしょうが、それでも普通のビキニとかに比べれば受け入れやすいでしょう。

「メリーヌさんにプレゼントしたらどうです?」

「とんでもない! うちはいいんだ、必要無い!」

どうやらカルツさん的には、メリーヌさんの水着姿を公開するのはNGのようですね。

まぁ、メリーヌさんのスタイルだと、どんなタイプの水着を着たところで目立っちゃうでしょうからね。

プールサイドでのファッションショーも良いけれど、実は早くプールに入りたくてウズウズしてるんですよね。

やっぱ、夏といえばプールでしょ。

みんなで輪になって準備運動をして、階段を降りながらプールへ入りました。

「あっ、意外と浅いんだね」

「泳ぐの初めての人が多いから、溺れたりしないようにじゃない?」

プールの水は僕の腰よりも少し上ぐらいで、幼い子供でなければ足が付く深さです。

初めて水泳を体験するマノンとベアトリーチェも、この深さならば怖くはなさそうですね。

「じゃあ、マノンとリーチェは、水に顔をつける練習からしようか。息を大きく吸ってから顔を付けて、目を開ける。息は止めるか、ゆっくりと鼻から吐いてみよう」

「うん、分かった」

「やってみますね」

マノンは水属性だからか、意外にすんなりと顔をつけ、目を開け、潜れるようになりました。

一方ベアトリーチェは、なかなか目が開けられず、鼻に水が入ったり、慣れるまでに苦労していましたが、なんとか蹴伸びぐらいまでは出来るようになりました。

となれば、真面目な水泳の練習はここまでにして、水を掛け合ったり、鬼ごっこをしたり、思い切りプールを満喫させてもらいましたよ。

女の子四人に、男は僕一人……日本にいた頃には考えられなかった夏の勝ち組ですよ。

「おーおー、はしゃいでやがるな、ガキどもめ」

プールサイドから声を掛けてきたのは、黒地に赤のストライプが入ったサーファーパンツ姿のクラウスさんでした。

今でも城壁工事の現場に出ているとあって、胸板とかは僕よりも厚いですが、お腹周りもかなり立派になってますね。

クラウスさんはプールサイドからグルっと周囲を眺めて二度三度と頷くと、水には入らずにデッキチェアでゴロリと横になりました。

そう言えば、クラウスさんって泳げるんですかね。

まぁ、この深さでは溺れたりはしないでしょうけど、水に顔を付けられないクラウスさんとかは想像できませんね。

「あれっ? ねぇ、リーチェ、もしかしてマリアンヌさんやアンジェお姉ちゃんも来るの?」

おっといけない、地雷を踏んでしまったようで、ベアトリーチェは頬を膨らませて答えてもくれません。

「いや、聞いてみただけだからね。別に二人の水着姿を見たいとかじゃないから、ホントだよ。こんなに可愛いお嫁さん達がいるんだもの……」

いや、ホントにダイナマイツな二人の水着姿なんて……すっごく見たいです。

そんな煩悩が洩れ出てしまっているのか、ベアトリーチェだけでなく唯香やマノンまでご機嫌斜めなご様子です。

そんな状況に助け舟を出してくれたのはセラフィマでした。

「別に御覧になってもよろしいんですよ。ただし、触れ合いは禁止です」

そう言いながら、セラフィマは抱き付いてきました。

もう何度も肌を合わせていますけど、プールで水着姿で抱き付かれるのは、また違った感覚でドキドキしちゃいますね。

「セラ、ずるい!」

「ぼ、僕も……」

「しょうがないから、見るだけは許してあげます」

ふふーん、四人が競うように抱き付いてきたので、またまた鬼ごっこを再開しちゃいました。

てか、なんか監視員をしてる守備隊の人にめちゃめちゃ睨まれてるんですけど……呪われそうな視線は、マリアンヌさんとアンジェお姉ちゃんの登場で一変しました。

マリアンヌさんが黒と白のチェック、アンジェお姉ちゃんは黒と白のストライプの水着です。

上はハイネック、下はパレオを巻いているので露出度は低めですが、水着なので体のラインがはっきり分かってしまいます。

新旧コンビなんか、フラヴィアさんとどっちを見ようか視線が泳いでます。

守備隊の人達も目を奪われているけれど、胸を張った姿勢は崩しません。

強力な意志の力で、前屈みになるのを防いでいるのでしょう。

さすが最果ての街と呼ばれるヴォルザードの安全を守る人達は、心構えが違っているんでしょうね。

マリアンヌさんはクラウスさんの隣りのデッキチェアに腰を下ろし、アンジェお姉ちゃんは恐る恐るといった様子で水に足を踏み入れ、僕らの方へと歩み寄って来ました。

「お姉ちゃんは駄目! 今日はケント様は私たちと遊ぶの!」

正直、アンジェお姉ちゃんとも遊びたいですけど、ここでベアトリーチェの味方をしておかないと後が恐ろしいです。

結局、アンジェお姉ちゃんは近藤の所へ泳ぎを教わりに向かったのですが、今度はリカルダに威嚇されてます。

新旧コンビは、行くか行くまいか迷いまくっています。

てか、フラヴィアさん狙いは難しいんじゃないの。

「少し休憩しよう」

一旦休憩するために水から上がると、香ばしい匂いが漂ってきました。

プールサイドの出店で綿貫さんが焼きそばを作っています。

ソースの焦げる匂いに食欲をそそられます。

「綿貫さん、いくら?」

「今日は試食だから、お金はいらないよ」

「いやいや、そうはいかないよ。一つ五十ヘルトぐらい?」

「それじゃ高すぎだよ」

「えーっ、プールサイドの焼きそばは高いのがお約束じゃない? 出張してきてるんだし」

「じゃあ、中を取って一人前三十ヘルト。その代わり、感想を聞かせて」

「それじゃあ、十三人前、よろしく!」

「あいよ!」

新旧コンビや近藤達も、手招きするとすぐに寄って来ました。

日本式の焼きそばは、クラウスさん達にも好評でした。

うん、今年のヴォルザードの夏は、プールの話題で持ちきりになりそうですね。